貸借対照表は、資産・負債・純資産の3つから成り立っています。負債は債権者に対する支払い義務を有するマイナスの財産です。負債を理解し、経営指標を用いることにより、会社の財務状況を確認することができます。
負債とは
負債とは会社の財産状況を示す貸借対照表の右側(会計用語で「貸方」といいます)に記載されるマイナスの財産です。
流動負債と固定負債
貸借対照表において、負債は「流動負債」と「固定負債」に分けて記載されます。流動負債と固定負債を分類する基準には「正常営業循環基準」と「1年基準(ワン・イヤー・ルール)」が適用されます。
「正常営業循環基準」とは、仕入から販売に至る正常な営業サイクルの過程で発生した債務を流動負債とする基準であり、買掛金や支払手形が該当します。「1年基準(ワン・イヤー・ルール)」とは、貸借対照表の決算日から1年以内に支払期限が到来する債務を流動資産とする基準です。日本における会計処理では、正常営業循環基準が優先して適用されます。支払期限が1年以上先のものであっても、営業サイクルから生じた債務については流動資産に分類されます。
有利子負債と無利子負債
貸借対照表は流動負債と固定負債に分類して作成されますが、管理会計や財務健全性の観点から「有利子負債」と「無利子負債」に分類することもあります。有利子負債とは、利息をつけて返済しなくてはならない負債のことで、銀行からの借入金や社債などが該当します。対して無利子負債とは、利息のいらない負債のことであり、支払手形や買掛金、未払金などが該当します。
有利子負債は元本の返済に加えて利息を伴うため財務健全性に影響を及ぼし、利息の支払は利益を減少させます。そのため一般的に有利子負債は少ない方が良いと考えられますが、必ずしもそうとは言えません。製造業や通信、インフラ関連の事業では、多くの設備投資が必要となるため有利子負債が多くなる傾向にあります。また、有利子負債が多い会社は、将来を見据えた設備投資や研究開発に積極的に取り組んでいると捉えることもできます。有利子負債から財務健全性を判断する場合は、同業他社との比較や企業戦略を考慮することも必要です。
純資産との違い
負債と純資産はいずれも貸借対照表の右側(貸方)に記載され、会社がどのように資金を調達しているかを示しています。負債は「他人資本」とも呼ばれ、返済および支払義務のある項目です。一方、純資産は返済義務のない会社の資産で、「自己資本」「正味財産」とも呼ばれており、「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」「自己株式」「新株予約権」などが分類されます。負債に比べて純資産が多い場合は、運営資金の負債(他人資本)依存度が高くないということを示しており、財務健全性が高い会社であると判定されます。
流動負債
流動負債に分類される勘定科目には次のような科目があります。
支払手形
支払手形とは、特定の期日に特定の金額を支払うことを約束した証書であり、自社が振り出した手形のうち支払期日が到来していないものが該当します。支払手形と似た支払方法に小切手があります。小切手は受取人がいつでも現金化することができますが、支払手形は原則として特定の期日になるまで現金化することはできません。ただし、支払手形の受取人は受け取った手形を他の取引先に譲渡したり(手形の裏書)、銀行や手形割引業者に買い取ってもらって現金化すること(手形の割引)が可能です。
手形を用いた決済は、手形が交付されてから実際に現金が入ってくる満期日まで長期間のものがあり、下請中小企業の資金繰りの負担となっていると問題視されてきました。また、手形の割引を行うにしても、割引料を負担しなければなりません。こうした現状を踏まえ、政府は2021年6月に閣議決定した「成長戦略実行計画」において、「5年後の約束手形の利用の廃止」に向けて、取組を促進する方法を明記しました。さらに2024年11月からは、交付から満期日までの期間が60日を超える約束手形・電子記録債権・一括決済方式は行政指導の対象とされました。
買掛金
買掛金とは、営業活動によって生じる商品や原材料の仕入代金など、売上原価や製造原価に関連する支払を、後日まとめて行う場合に使用される勘定科目です。商品・原材料の仕入れの都度毎に精算を行うことは事務手続きが煩雑になるため、一定の期間でまとめて精算することにより事務負担は軽減されます。
未払金
未払金とは、仕入などの売上原価や製造原価に関連しない取引から生じた一時的なものであり、決算日の翌日から1年以内に支払期限が到来する支払いに対して使用する勘定科目です。固定資産や消耗品の購入、間接部門における外注費の支払などが該当します。買掛金との違いは、売上原価や製造原価に関連するかどうかによります。
未払費用
未払費用とは、未払金と同様に売上原価や製造原価に関連しない取引であり、契約に基づき継続して役務の提供を受けるもので、決算日時点で未払の金額を計上する勘定科目です。水道光熱費や通信費、事務所家賃の支払などが該当します。未払金との違いは、継続的な取引であるかどうかによります。
短期借入金
短期借入金とは、金融機関や個人などからの借入金のうち、決算日の翌日から1年以内に返済期限が到来するものを計上する勘定科目です。当座借越契約を結んでいて預金残高がマイナスになった場合も、短期借入金として会計処理を行います。
前受金
前受金とは、商品・製品の引き渡しや役務の提供を行う前に受け取った代金を計上する勘定科目であり、一般的に「手付金」や「内金」などと呼ばれるものが該当します。前受金は、商品等の引渡しや役務提供の義務が残っており、契約がキャンセルになった場合は返済しなければならないことから、負債として取り扱われています。また、建設業会計では、前受金ではなく「未成工事受入金」を使用します。
前受収益
前受収益とは、契約に基づいて継続して役務を行う場合、まだ提供していない役務に対して、先に受け取った代金を計上する勘定科目です。翌期以降に充当される家賃や地代、当期中に期限の到来していない受取利息などが該当します。前受金と前受収益の違いは、商品・製品の譲渡や役務の提供が継続的な契約かどうかによります。
仮受金
仮受金とは、入金された理由がわからなかったり、入金額の内訳が不明である場合など、詳細が確認できない入金額を一時的に計上する勘定科目です。あくまで一時的な処理を行う勘定科目であるため、決算までには正しい勘定科目に振り替えなくてはなりません。仮受金処理したまま時間が経過してしまうと、取引内容の確認に手間がかかり、不明なままになってしまうリスクも高まるので、早い段階で振替処理をすることが望ましいです。仮受金は流動負債の「その他」としてまとめて表示されますが、仮受金の総額が、負債および純資産の合計額の5%以上の場合は、別途項目を作成して表示しなければなりません。
預り金
預り金とは、役員や従業員、得意先から一時的に預かった金銭を計上する勘定科目であり、預かった金銭は、後日本人に返金または本人に代わって第三者に支払われます。給与から控除される源泉所得税、住民税、社会保険料、財形貯蓄などが該当します。一時的な金銭の預かりですが、本人に代わって第三者への支払または返済義務を有しているため、負債に分類されています。
賞与引当金
賞与引当金とは、翌期に支払われる従業員の賞与について、当期に対応する部分の金額を計上する勘定科目です。3月決算、12~5月の勤務に対して、6月に賞与を支払う会社の場合は、6月支給賞与の金額を見積り、そのうちの12~3月の勤務に対応する部分の金額を賞与引当金として計上することになります。
引当金の計上要件については、企業会計原則注解18において、以下のとおり定められています。
・将来の特定の費用又は損失であること
・発生が当期以前の事象に起因していること
・発生の可能性が高いこと
・金額を合理的に見積もることができること
引当金は、上記の要件を満たしている場合は費用計上することができますが、税金を算出するための所得計算においては、貸倒引当金・返品調整引当金以外の引当金は、税務上の費用である損金に算入することはできません。
固定負債
固定負債に分類される勘定科目には次のような科目があります。
長期借入金
長期借入金とは、金融機関や個人などからの借入金のうち、決算日の翌日から1年を超えて返済期限が到来する部分を計上する勘定科目です。決算日時点で300万円の借入金(月10万円の返済)が残っている場合、1年以内に返済期限が到来する10万円×12カ月=120万円は短期借入金、1年を超えて返済期限が到来する300万円−120万円=180万円は長期借入金に分類します。
社債
社債とは、会社が資金調達を目的として発行する有価証券です。社債は償還期限が1年を超える場合が多いため一般的には固定負債に分類されますが、償還期限が1年以内の社債については流動負債に分類されます。
長期未払金
長期未払金とは、未払金のうち返済期限が決算の翌日から1年を超えるものを計上する勘定科目です。
預り保証金
預り保証金とは、契約に従って一定期間サービスや権利を提供するために、担保として受け取った保証金を計上する勘定科目です。営業保証金や代理店契約保証金、賃貸借契約時の敷金などが該当します。契約が終了すると返金する義務があり、ほとんどの場合が1年を超えて金銭を預かるため固定負債に分類されますが、返済期限が1年以内の場合には流動負債に分類されます。
退職給付引当金
退職給付引当金とは、将来支払われる退職金のうち、現在発生している金額を見積り計上する勘定科目です。退職給付引当金は、退職給付債務から年金資産を差し引いた金額に未認識数理計算上の差異と未認識過去勤務債務と加減算して算出しますが、計算方法が煩雑であるため、従業員300人未満の小規模企業においては簡便法を用いて計算することが認められています。
経営指標
負債を用いた経営指標により、会社の財務状況を判断することができます。
負債比率
負債比率とは、自己資本に対する負債の割合を示しており、財務状況の安全性を判断する指標です。計算方法は以下のとおりです。
負債比率(%)=(負債÷純資産(自己資本))×100
財務安全性の観点から、負債比率は100%以下が望ましいとされています。負債比率が100%以下であるということは、負債と自己資本が同等、若しくは負債よりも自己資本が上回っているということであり、安定した財務状況であると判断されます。しかし、会社の成長や収益性を上げるためには、他人資本による積極的な投資が必要であり、負債比率が高い方が良いとされる場合もあります。また、負債比率は業種によって大きく異なり、中小企業実態調査によると、宿泊業、飲食サービス業が最も高く、情報通信業や学術研究、専門・技術サービス業は低い傾向にあります。
負債比率の一般的な目安としては、300%以下の場合は標準水準であり、健全な状態と判断されます。301~600%の場合は倒産の危険性は少ないものの改善を目指すことが推奨される状態、601~900%の場合は早急な改善が必要な状態、900%超の場合は返済が困難なレベルであり倒産の可能性が懸念される状態です。
有利子負債比率
有利子負債比率とは、自己資本に対する金利負担のある負債の割合を示す指標です。計算方法は以下のとおりです。
有利子負債比率(%)=(有利子負債÷純資産(自己資本))×100
負債比率は返済期限や返済義務のないものも含んでいるのに対し、有利子負債比率は銀行からの借入金や社債など利息の伴う負債のみで計算されます。負債比率は300%までが標準水準とされていますが、有利子負債比率における適正比率は100%以内が目安となっています。有利子負債が100%以内であれば、有利子負債の返済を自己資本で賄えている状態であるといえます。
有利子負債比率と同様の経営指標にDEレシオがあります。計算式は以下のとおりです。
DEレシオ(倍)=(有利子負債÷純資産(自己資本))
計算式は有利子負債比率とほぼ同じです。有利子負債比率はパーセンテージで表記するのに対し、DEレシオは倍率で表記します。DEレシオの適正倍率は1.0倍です。
債務償還年数
債務償還年数とは、借入金を返済するのにどれだけの年数がかかるかを示しています。計算式はいくつかありますが、標準的な計算方法は以下のとおりです。
債務償還年数(年)=借入金÷(経常利益+減価償却費-法人税等)
年数が短いほど返済能力が高いと言えますが、一般的な目安は10年です。
まとめ
負債の分類には流動・固定のほかに、利子の有無で分類することもあります。財務指標を用いて会社の財務状況を確認し、健全な経営を目指しましょう。