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2024.12.26

役員報酬を変更するには?変更できる時期や事例、手続きについて解説します

役員報酬は従業員給与とは異なり、金額改定時期など厳格なルールがあり、誤った方法で決定・支給してしまうと損金算入することができません。今回は、役員報酬を損金算入するための手続等について解説します。

役員報酬とは

税務上、役員に対する報酬は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3種類で対応します。

役員報酬と給与の違い

役員は株主と委任契約を結んで会社経営を担い、報酬を得ます。対して、従業員は会社と雇用契約を結び、労働の対価として給与を得ます。役員報酬は金額変更や損金算入に制約がありますが、従業員給与は雇用主と従業員の合意によりいつでも変更することができ、全額を損金算入することができます。ただし、役員の親族などの特殊の関係のある使用人に対する給与は、不相当に高額な部分の金額は損金に算入することはできません。不相当に高額な部分の金額は、従業員の職務内容、法人の収益、他の従業員に対する給与の支給の状況、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの従業員に対する給与の支給状況に照らして判断されます。

定期同額給与

定期同額給与とは、その支給時期が1カ月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、その事業年度の各支給時期における支給額または支給額から源泉税等の額(源泉所得税・地方税・社会保険料その他これらに類するものの合計額)を控除した金額が同額であるものをいいます。役員報酬の支払を2カ月ごとにしている等、1カ月を超える期間で支給している場合は、定期同額給与に該当しません。
また、定期同額給与において認められている金額の改定は以下のとおりです。

(1)事業年度開始から3カ月以内の改定

(2)臨時改定事由による改定
その事業年度においてその法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定

(3)業績悪化事由による改定
その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由によりされた定期給与の額の改定。ただし、法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかったことなどはこれに含まれません。また、定期同額給与であっても、法人税法第34条第2項において、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しないと規定されています。

事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨を定め、事前に税務署に届出をして支払う給与です。役員に対する賞与はそのままでは損金算入することはできませんが、事前確定届出給与の要件を満たすことで損金算入が可能となります。

業績連動給与

業績連動給与とは、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の法人またはその法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として算定される給与です。

定期同額給与の具体例

役員報酬の変更について、以下のような場合も定期同額給与として損金算入することができます。

臨時改定事由による改定

役員が病気のため2カ月間入院することになり、当初予定されていた職務の執行が一部出来ない状態になったため、取締役会を開催して役員の報酬を変更した場合の定期同額給与の判定は以下のとおりです。

3月決算法人
9月までの役員報酬 100万円
・入院中(1011月)の役員報酬  40万円
・職務再開以降(12月~)の役員報酬 100万円

役員が病気で入院したことにより当初予定されていた職務の執行が一部できないこととなった場合に、役員報酬の額を減額することは臨時改定事由による改定と認められます。また、従前と同様の職務の執行が可能となった場合に、入院前の報酬と同額の報酬を支給することとする改定も臨時改定事由による改定と認められます。上記の場合は、職制上の地位の変更はないものの、これまで行ってきた職務の一部を遂行することができなくなったという事実が生じており、職務の内容の重大な変更その他これに類するやむを得ない事情があったものと考えられるので、臨時改定事由による改定に当たり、定期同額給与に該当します。
臨時改定による改定は、事業年度開始の日から3カ月までにされた定期給与の額の改定時には予測しがたい偶発的な事情等による定期給与の額の改定で、利益調整等の恣意性があるとはいえないものについても、定期同額給与とされる定期給与の額の改定として取り扱うこととしているものです。どのような事情が生じた場合が臨時改定事由に当たるかは、役員の職務内容など個々の実態に即し、予め定められていた役員報酬の額を改定せざるを得ないやむを得ない事業があるかどうかにより判断することになります。

業績悪化事由による改定

以下のような場合は、業績悪化事由による改定に該当し、定期同額給与として損金算入されます。

(1)会社の上半期の業績が予想以上に悪化したため、年度の中途において、株主との関係上、役員としての経営上の責任から役員が自らの定期給与の額を減額することとし、取締役会で決議した。

上記については経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じたために行ったものであり、業績悪化事由に該当するものと考えられます。
業績悪化事由に規定されている「経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員報酬を減額せざるを得ない事情があることをいうので、財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員報酬の額を減額せざるを得ない事業が生じていれば、これも含まれることになります。
このため、例えば次のような場合の減額改定は、通常、業績悪化事由による改定に該当することになると考えられます。

①株主との関係上、業績や財務状況についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合

②取引先銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合

③業績や財務状況または資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

上記①については、株主が不特定多数の者からなる法人であれば、業績等の悪化が直ちに役員の評価に影響を与えるのが一般的と思われるため、通常はこのような法人が業績等の悪化に対応して行う減額改定がこれに該当するものと考えられます。一方、同族会社のように株主が少数の者で占められ、かつ、役員の一部の者が株主である場合や株主と役員が親族関係にあるような会社についても、上記①に該当するケースがないわけではありませんが、そのような場合には、役員給与の額を減額せざるを得ない客観的かつ特別な事情を具体的に説明できるようにしておくことが必要です。

上記②については、取引先銀行との協議状況等により、これに該当することが判断できるものと考えられます。

上記③に該当するかどうかについては、その策定された経営状況の改善を図るための計画によって判断できるものと考えられます。この場合、その計画は取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保することを目的として策定されるものであるので、利害関係者から開示等の求めがあればこれに応じられるものということになります。

上記の3事例以外の場合であっても、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情があるときには、減額改定をしたことにより支給する役員報酬は定期同額給与に該当すると考えられます。この場合にも、役員給与の額を減額せざるを得ない客観的な事情を具体的に説明できるようにしておく必要があります。

(2)売上の大半を占める主要な取引先が1回目の手形の不渡りを出したため、その事情を調べたところ、得意先の経営は悪化していてその事業規模を縮小せざるを得ない状況にあることが判明し、数か月後には当社の売上が激減することが避けられない状況となった。よって、役員報酬の減額を含む経営改善計画を策定し、役員報酬を減額する旨を取締役会で決議した。

上記については、現状では売上などの数値的指標が悪化しているとまでは言えませんが、役員報酬の減額などの経営改善策を講じなければ、客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避と認められるので、行政悪化事由に該当するものと考えられます。その他の事例として、主力製品に瑕疵があることが判明して、今後、多額の損害賠償金やリコール費用の支出が避けられない場合なども業績悪化事由に該当するものと考えられますが、あくまでも客観的な状況によって判断することになるので、客観的な状況がない単なる将来の見込みにより役員給与を減額した場合は業績悪化事由による減額改定に当たらないことになります。

事前確定届出給与の届出期限

事前確定届出給与を支給するためには管轄税務署への届出が必要になりますが、提出期限があるので注意が必要です。

原則

事前確定届出給与に関する定めをした場合は、原則として次の①または②のうちいずれか早い日(新設法人がその役員のその設立の時に開始する職務についてその定めをした場合にはその設立の日以後2カ月を経過する日)までに所定の届出書を提出する必要があります。

(1)株主総会等の決議によりその定めをした場合におけるその決議をした日(その決議をした日が職務の執行を開始する日後である場合にはその開始する日)から1カ月を経過する日

(2)その会計期間開始の日から4カ月(確定申告書の提出期限の延長の特例に係る税務署長の指定を受けている法人のうち、一定の通算法人については5カ月、それ以外の法人についてはその指定に係る月数に3を加えた月数)を経過する日

「決議をした日から1カ月を経過する日」は「決議をした日」の翌日を起算日として、暦に従って計算します。なお、起算日が月の初めでないときは、翌月におけるその起算日に応当する日の前日(翌月にその応当する日がないときは、その月の末日)となります。例えば3月決算で株主総会決議が5月25日の場合の提出期限は以下のとおりです。

①決議をした日 5月25
起算日    5月26
翌月におけるその起算日に応当する日 626
起算日に応当する日の前日        6月25
②会計期間開始の日 4月1
開始の日から4カ月を経過する日 7月31

よって、上記法人の事前確定届出給与の届出期限は6月25日になります。

臨時改定事由が生じた場合

臨時改定事由が生じたことにより、その臨時改定事由に係る役員の職務について事前確定届出給与に関する定めをした場合には、次に掲げる日のうちいずれか遅い日が提出期限になります。

(1)上記原則における⑴または⑵のうちいずれか早い日(新設法人にあっては、その設立の日以後2カ月を経過する日)

(2)臨時改定事由が生じた日から1カ月を経過する日

届出済みの事前確定届出給与を変更する場合

既に上記の原則または臨時改定事由が生じたことにより届出をしている法人が、その届出をした事前確定届出給与に関する定めの内容を変更する場合において、その変更が次に掲げる事由に起因するものであるときのその変更後の定めの内容に関する届出の提出期限は、次に掲げる事由の区分に応じそれぞれ次に定める日になります。

(1)臨時改定事由
臨時改定事由が生じた日から1カ月を経過する日

⑵業績悪化事由(給与の支給額を減額する場合等減少する場合に限る)
業績悪化事由によりその定めの内容の変更に関する株主総会等の決議をした日から1カ月を経過する日(変更前の直前の届出に係る定めに基づく給与の支給の日がその1カ月を経過する日前にある場合には、その支給の日の前日)

やむを得ない場合

上記の原則・臨時改定事由・変更の届出期限までに届出がなかった場合においても、その届出がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、それらの届出期限までに届出があったものとして事前確定届出給与の損金算入をすることができます。

役員報酬の変更手続き

役員報酬の金額を変更・決定するためには、所定の手続きが必要です。

株主総会による決議

会社法第361条において、役員報酬は定款または株主総会の決議により決定するものと定められていますが、定款に定められている場合は少なく、多くの法人は株主総会の普通決議により役員報酬を決定しています。
役員報酬の改定は事業年度開始から3カ月以内であり、定時株主総会の開催もほとんどの法人は決算終了後3カ月以内であるため、実務においては、定時株主総会で役員報酬の金額を決議する流れとなります。

株主総会議事録の作成・保管

株主総会で役員報酬の変更が可決されたら、株主総会議事録に記載して保管しておかなければなりません。会社法第318条により、株主総会の議事録の作成が義務付けられており、本店には株主総会の日から10年間、支店には写しを5年間保管しなければなりません。
また、株主総会議事録の記載事項については、会社法施行規則第72条において以下のとおり規定されています。
・株主総会が開催された日時および場所
・株主総会の議事の経過の要領およびその結果
・株主総会において述べられた意見または発言があるときは、その意見または発言の内容の概要
・株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役または会計監査人の氏名または名称
・株主総会の議長が存するときは、議長の氏名
・議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

税務調査が入った場合などにおいて、適正な手続きを経て役員報酬を変更したことを示す証拠となるので、株主総会議事録の作成は必須です。

社会保険の月額変更届

役員報酬を変更して健康保険や厚生年金の等級が2等級以上の差が生じて随時改定に該当するときは、日本年金機構の事務センターまたは管轄の年金事務所に月額変更届の提出が必要です。

まとめ

役員報酬は、人件費において大きな割合を占めています。損金算入するための手続きに漏れがないように、役員報酬に関する様々なルールを把握しておきましょう。