会社設立の際の決定事項のひとつが公告の方法です。会社は株主や取引先などの債権者保護手続きの観点から、事業に影響を与える事項を広く告知することが必要であり、その手段として公告が義務付けられています。今回は、公告方法や記載事項について解説します。
公告とは
公告とは、株主や債権者等に対して、一定の事項を広く知らせることです。
公告の種類
公告の種類は、「決算公告」と「法定公告」の2種類に分けられます
公告義務
公告すべき事項は会社法に定められています。公告を怠ったとき、または不正の公告をしたときは、会社法976条第2号において、代表取締役等の個人に100万円以下の過料が処されることが規定されています。また、不正な公告により第三者に損害を与えた場合には、会社や役員等が損害賠償責任を負う場合があります(民法第709条、会社法第350条、会社法第429条第2項第1号2)。
決算公告
株式会社は、定時株主総会の終了後に決算公告を行うことが定められています。
株式会社の決算公告義務
株式会社は定時株主総会終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければならないと規定されています(会社法第440条第1項)。ただし、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金の計上額が5億円以上または負債の部の計上額合計が200億円以上の大会社においては、貸借対照表に加えて損益計算書についても公告するよう義務付けられています。
決算公告が不要となる会社
原則として全ての株式会社は決算公告の義務がありますが、以下の会社においては決算公告が不要とされています(会社法第440条3項・4項、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第28号)。
・金融商品取引法第24条第1項に定める有価証券報告書の提出義務のある会社
・インターネット上のホームページで計算書類を開示している会社
・特例有限会社(平成18年の会社法施行以前に有限会社であった会社)
・合名会社、合資会社、合同会社といった株式会社以外の持分会社についても、決算公告義務はありません。
記載事項
決算公告に記載する事項は、大会社以外の会社(非公開会社と公開会社)および大会社(非公開会社と公開会社)の区分に応じて定められています。ただし、電子公告の場合は、全文の掲載が必要です(会社法第440条)。
(1)大会社で株式譲渡制限のない会社
①貸借対照表
・資産の部
流動資産
固定資産
有形固定資産
無形固定資産
投資その他の資産
繰延資産
・負債の部
流動負債
引当金(設けたとき)
固定負債
引当金(設けたとき)
・純資産の部
株主資本(*1)
評価・換算差額等(*2)
株式引受権
新株予約権
②損益計算書
売上高
売上原価
売上総利益または売上総損失
販売費および一般管理費
営業利益または営業損失
営業外収益
営業外費用
経常利益または経常損失
特別利益または特別損失
税引前当期純利益または税引前当期純損失
法人税、住民税および事業税
法人税等調整額
当期純利益または当期純損失
(2)大会社で株式譲渡制限のある会社
①貸借対照表
・資産の部
流動資産
固定資産
繰延資産
・負債の部
流動負債
引当金(設けたとき)
固定負債
引当金(設けたとき)
・純資産の部
株主資本(*1)
評価・換算差額等(*2)
株式引受権
新株予約権
②損益計算書
売上高
売上原価
売上総利益または売上総損失
販売費および一般管理費
営業利益または営業損失
営業外収益
営業外費用
経常利益または経常損失
特別利益または特別損失
税引前当期純利益または税引前当期純損失
法人税、住民税および事業税
法人税等調整額
当期純利益または当期純損失
(3)大会社以外の会社で譲渡制限のない会社
①貸借対照表
資産の部
流動資産
固定資産
有形固定資産
無形固定資産
投資その他の資産
繰延資産
負債の部
流動負債
引当金(設けたとき)
固定負債
引当金(設けたとき)
純資産の部
株主資本(*1)
評価・換算差額等(*2)
株式引受権
新株予約権
(4)大会社以外の会社で譲渡制限のある会社
①貸借対照表
資産の部
流動資産
固定資産
繰延資産
負債の部
流動負債
引当金(設けたとき)
固定負債
引当金(設けたとき)
純資産の部
株主資本(*1)
評価・換算差額等(*2)
株式引受権
新株予約権
(*1) 株主資本は、以下の項目に分けて記載する必要があります。
資本金
新株式申込証拠金
資本剰余金
資本準備金
その他資本剰余金
利益剰余金
利益準備金
その他利益剰余金
自己株式
自己株式申込証拠金
(*2) 評価・換算差額等は、以下の項目に分けて記載する必要があります。
その他有価証券評価差額金
繰延ヘッジ損益
土地再評価差額金
大会社以外の会社は、当期純損益金額を付記しなければなりません。
決算公告の実施率
決算公告が法的義務とされているにも関わらず、多くの会社が決算公告を行っていないのが実情です。東京商工リサーチの2022年官報決算公告調査によると、商業登記簿で公告方法を官報としている株式会社は、全体の約8割(推計217万9,325社)に達しているにもかかわらず、2022年の官報で決算公告したのは4万214社、1.8%にとどまっています。
決算公告率が低い原因としては、会社が経営状態を公開したくない、中小企業にとっては公告のための費用と手間が負担となること、罰則があっても実体として行使されていないことなどが挙げられます。
法定公告
法定公告は、株主や利害関係者にとって大きな影響が及ぶ事項を周知させることが目的であり、会社法等の法令により定められています。
法定公告の種類
法定公告には、必ず官報によらなければならない債権者に向けた異議申述等公告と、定款上の公告方法によらなければならない株主等に向けた通知公告の2種類に分けられます。
決算公告は株式会社のみ公告義務を有していましたが、法定公告については合同会社等の持分会社にも公告義務があります。
債権者に向けた異議申述等公告
官報によらなければならない債権者に向けた異議申述等公告には以下のものがあります。
・合併公告
・吸収分割公告
・新設分割公告
・共同新設分割公告
・組織変更公告
・資本金の額の減少公告
・準備金の額の減少公告
・資本金及び準備金の額の減少公告 等
なお、債権者に向けた異議申述等公告には、最終貸借対照表の開示状況を記載しなければなりません。最終貸借対照表の開示状況は、会社の実情により以下のいずれかとなります。
・官報で公告しているときは、当該官報の日付および当該公告が記載されている頁
・時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告しているときは、当該新聞の名称、日付および当該公告が掲載されている頁
・電子公告により公告しているときは、公告が掲載されているホームページ等のアドレス
・会社法の規定に基づきホームページ等による開示をしているときは、当該ホームページ等のアドレス
・金融商品取引法第24条第1項により有価証券報告書を提出しているときは、その旨
・特例有限会社の場合は、決算公告が不要である旨
・最終事業年度がない(未到来または決算が確定していない)ときは、その旨
・清算株式会社である場合は、その旨
・上記以外の場合は最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容
ただし、合名会社、合資会社、合同会社では、最終貸借対照表の開示状況の記載は不要です。
株主等に向けた通知公告
定款上の公告方法によらなければならない株主等に向けた通知公告には以下のものがあります。
・基準日設定につき通知公告
・定款変更につき通知公告
・株式併合につき通知公告
・株式分割につき通知公告
・株式等無償割当てにつき通知公告
・株主割当ての株式等募集につき通知公告
・全部取得条項付種類株式の取得につき通知公告
・株式募集事項につき通知公告
・株式交換につき通知公告
・株式移転につき通知公告
・事業譲受けにつき通知公告
・株式譲渡制限設定につき株券提出公告
・全部取得条項付種類格式取得につき株券提出公告
・取得条項付株式取得につき株券提出公告
・組織変更につき株券等提出公告
・合併につき株券等提出公告
・株式交換につき株券等提出公告
・株式移転につき株券等提出公告
・株式等売渡請求につき株券等提出公告 等
公告の方法
公告の方法は会社法第939条で定められており、官報に掲載する方法、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法、電子公告の3つがあります。基本的には会社設立時に作成する定款に公告方法を記載しますが、記載しない場合は、官報による公告を選択しているとみなされます。
官報に掲載
官報とは、明治16年(1883年)7月2日に創刊された、国の法令や公示事項を掲載する国の機関紙です。官報は紙媒体で発行していましたが、「官報の発行に関する法律」の施行により、令和7年4月1日より内閣府の官報発行サイトに掲載されることをもって発行されることとなり、同サイトに掲載される電子データが官報の正本となりました。官報は、行政機関の休日を除き、毎日午前8時30分に配信され、真正性を確保するため、電子署名およびタイムスタンプが付与されています。発行から原則90日間は、官報発行サイト上で官報全体を閲覧・ダウンロードすることができますが、90日経過後は、プライバシーへの配慮が必要な一部の記事は閲覧等ができなくなります。ただし、それ以外の記事は引き続き閲覧等が可能です。また、令和7年4月1日以降も官報サービスセンターを通じて、官報に掲載された情報を記載した書面(官報掲載事項記載書面)の交付を受けることが可能です(別途手数料が必要)。
官報公告の申込は、WEBサイトにおける入力フォーム、ファイル添付送信、官報販売所への郵送またはFAXの方法があります。官報公告においては、貸借対照表や損益計算書の全文ではなく、要旨のみ掲載が可能です。
官報における決算公告掲載料金は、掲載枠単位の購入となり、81,765円が最低料金です。法定公告については、1行単位で掲載スペースの購入が可能であり、1行につき3,947円の費用がかかります。
時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載
公告は、日刊新聞紙に掲載して行うことも可能です。ただし、日本経済新聞等の時事情報を取り扱っているものに限られるため、スポーツ新聞等に記載することはできません。時事情報を取り扱っている新聞であれば、地方新聞に掲載することも可能です。
また、日刊新聞紙での決算公告は、官報同様に貸借対照表や損益計算書の要旨のみの掲載が可能です。ただし、日刊新聞紙による公告費用は、掲載する新聞にもよりますが、ほとんどの場合は官報公告に比べ高額になるので注意が必要です。
電子公告
電子公告は、自社のホームページなど特定のWEBサイトに掲載する方法です。平成17年2月1日施行の「電子公告制度の導入のための商法等の一部を改正する法律」により、それまで官報または日刊新聞紙に限定されていた公告方法に加え、電子公告が認められるようになりました。なお、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として、官報または日刊新聞紙のいずれかを定款に定めることができます(会社法第939条第3項)。また、公告を掲載するURLを定款に記載する必要はありませんが、登記は必要です(会社法第911条第3項第28号イ)。
官報および日刊新聞紙による公告は貸借対照表等の要旨の掲載が認められていますが、電子公告においては全文の掲載と5年間継続して掲載することが義務付けられています(会社法第440条第1項・第940条第1項2号)。
電子公告においては、決算公告の場合を除き、公告期間中、電子公告が適正に行われたかどうかについて、法務大臣の登録を受けた電子公告調査機関の調査を受けなければならないとされています。この場合は別途調査費用が必要になります。ただし、決算公告については特例があり、電子公告調査機関の電子公告調査を受けることを要しないので、無償で掲載することが可能です(会社法第941条)。
公告方法の変更
定款記載の公告方法を変更する場合には、株主総会の特別決議が必要です。特別決議では議決権を行使できる株主の過半数が出席し、特別決議に出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要になります。株主総会において定款変更手続きが決議されたら、定款変更の効力が生じた日から2週間以内に変更登記の申請を行わなければなりません。変更登記申請には3万円の登録免許税が必要です。
まとめ
公告は株主や取引先等の債権者保護を目的とした重要な情報提供手段です。公告方法は、官報への掲載、日刊新聞紙への掲載、電子公告の3つの方法から選択可能です。公告方法は一定の手順を踏めば変更することができますが、変更には手間と費用がかかります。それぞれの公告方法のメリット・デメリットを理解して、会社設立時は自社にとって最適な公告方法を選択しましょう。