会社を設立する場合に、必ず作成しなければならない書類が定款です。定款とは会社の基本情報や規則を記載した書類であり、記載すべき事項は法律により定められています。今回は定款に記載する内容や、認証手続きについて解説します。
定款とは
会社を設立する場合には、会社法により定款の作成が義務付けられています。
会社の設立手続き
一般的な株式会社の設立手続きは以下の順序で進められます。
①定款の作成
②定款の認証
③出資(金銭・現物出資)の履行
④機関の設置
⑤設立の登記申請
これらの手続きを経て、会社を設立することができます。持分会社(合同会社、合名会社、合資会社)については定款の認証は不要ですが、定款の作成は必須です。
定款とは
定款とは「会社の憲法」とも呼ばれている書類で、会社の目的、組織、活動に関する根本となる基本的な規則です。株式会社においては会社法第26条で、持分会社においては同じく会社法第575条で、定款の作成が義務付けられています。
定款に使用する言語は日本語であり、英語・ドイツ語等が併記されている定款であっても、日本語の部分が正式の定款となり、外国語の部分は翻訳として扱われます。
定款の作成方法
定款の作成を専門家に依頼することもできますが、インターネット上で公開されているテンプレートを使用して作成することもできます。日本公証人連合会や法務局のwebサイトにおいても、定款の記載例が公開されています。自社で定款を作成することで、会社設立時のコストを抑えることが可能です。
定款が必要になる場合
定款が必要になるのは以下のような場合です。
・会社設立時の登記申請
・公的な補助金や助成金の申請
・各種許認可の申請
・法人口座の開設
定款の記載事項
定款に記載すべき事項は「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つに分けられます。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、必ず記載しなければならない事項です。記載されていない場合は定款が無効になってしまうので注意が必要です。株式会社の絶対的記載事項は会社法第27条に定められており、内容は以下のとおりです。
①目的
②商号
③本店の所在地
④設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
⑤発起人の氏名又は名称及び住所
各項目について解説します。
①目的
定款に記載する目的とは、会社が行う事業内容を明確に示したものです。事業目的は「適法性」「営利性」「明確性」に沿ったものでなければなりません。
「適法性」においては、法律に違反する内容や公序良俗に反する内容でないことを求めています。賭博や麻薬の売買などの違法行為は事業目的とすることはできません。「営利性」においては、事業目的が会社の利益を得る内容になっていることを求めています。会社は営利活動を目的として設立されているので、ボランティア活動などの非営利活動は事業目的とはなりません。ただし、営利活動を主体として、非営利活動を併記することは可能です。「明確性」においては、誰が見ても理解できるように事業目的を記載することが求められています。一般には知られていない業界用語などは事業目的とすることはできません。
また、リサイクルショップにおける古物商許可や飲食業など許認可が必要な事業を行う場合には、許認可の要件に適した事業目的を記載しておかなければなりません。加えて、事業目的には会社設立後に行う事業のほか、今後展開していきたい事業を記載することも可能です。定款に事業目的を追加するには手間と費用がかかります。将来的に行っていきたい事業がある場合は、定款作成時に前もって記載しておいた方がよいでしょう。
②商号
商号とは会社名のことです。商号を決める場合には以下のような決まりがあります。
・「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」といった会社の種類を会社名の前後いずれかに必ず入れなくてはなりません。また、株式会社や合同会社を英語表記である「Co.,Ltd」「LLC」などで登記することはできませんが、定款においては英語表記で記載することが可能です。
・商号に使える文字や符号は決められています。文字については、漢字・ひらがな・カタカナ・ローマ字(大文字・小文字)・アラビア数字が使用可能です。符号については、「&」(アンパサンド)、「′」(アポストロフィー)、「,」(コンマ)、「-」(ハイフン)、「.」(ピリオド)、「・」(中点)を使用することができますが、字句を区切る際の符号として用いる場合に限られます。したがって、商号の先頭または末尾に用いることはできません。ただし「.」(ピリオド)については、省略を表すものとして商号の末尾に用いることができます。なお、ローマ字を用いて複数の単語を表記する場合に限り、当該単語の間を区切るために空白(スペース)を用いることができます。
・同じ住所で同じ会社名を使用することはできません。最近は本店住所をレンタルオフィスやバーチャルオフィスにする会社も増えていますが、複数の会社と同じ住所で登記する場合には、同じ会社名がないかどうかの確認が必要です。同じ住所でなければ、同じ会社名を使用することは可能です。ただし、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある商号を使用することはできません。
③本店の所在地
本店の所在地には、会社の本店住所を記載します。番地まで記載する場合は、ハイフンなどで省略せずに正式表記での記載が必要です。ただし、定款に記載する本店の所在地は、最小行政区画(東京23区内なら区、郡なら町・村、それ以外は市)までの記載とすることも可能です。将来的な同一区画内での移転を考慮して、最小行政区までの記載に留めておけば、移転時の定款変更手続きが不要になります。
④設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
設立時に発起人から出資される金額、すなわち会社設立後の資本金とされる金額を記載します。××万円以上と、最低額を記載することも可能です。資本金に下限額はないため1円で会社を設立することもできますが、資本金が少ない場合は会社を運営していくだけの体力がないとみなされ、取引先や金融機関からの信用度が低下する恐れがあります。よって、会社設立後に事業が軌道に乗るまでの運営資金として、3カ月から半年くらいの運転資金を資本金とすることが望ましいとされています。また、特定建設業や労働者派遣業などの許認可には、資本金の金額が要件とされているので、事前に確認しておくことが必要です。
⑤発起人の氏名又は名称及び住所
発起人とは、会社の設立を企画し、出資や設立手続きを行う人のことであり、会社設立後は出資金額に応じて株式が発行され株主となります。定款には発起人全員の氏名や住所を記載しなければなりません。
発起人の資格や人数について要件は定められていないので、外国籍の人や未成年者、法人も発起人になることができます。ただし、未成年者が発起人となる場合には、法定代理人の同意書・印鑑証明書・戸籍謄本等の書類が必要です。
持分会社についての絶対的記載事項は会社法第576条に定められており、株式会社と同様に「目的」「商号」「本店の所在地」の記載が必要ですが、その他に以下の記載が必要です。
①社員の氏名又は名称及び住所
②社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれかであるかの別
③社員の出資の目的(有限責任社員にあっては、金銭等に限る。)及びその価額又は評価の標準
持分会社では出資者のことを社員と呼びます。会社が倒産した場合などに出資者が負うべき責任の範囲が、自身の出資額を限度とされるのが有限責任社員であり、出資金額を超えて負債総額全額の支払義務が生じるのが無限責任社員です。合同会社は有限責任社員だけから成る会社であり、合名会社は無限責任社員だけから成る会社です。合資会社は有限責任社員と無限責任社員の両方から成る会社です。持分会社の定款にあっては、社員が有限責任社員であるか、無限責任社員であるかを記載しなければなりません。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、絶対的記載事項とは異なり、定款に記載がなくても直ちに定款が無効にはなりませんが、記載がない以上その事項につき効力が認められない事項です。主な相対的記載事項は以下のとおりです。
①変態設立事項(会社法第28条)
株式会社の設立時における次の事項は、定款に記載しない場合はその効力は生じません。
・現物出資
金銭以外の財産で出資を行うことです。
・財産引受
会社設立後に財産を譲り受ける契約を、設立前に行うことです。
・発起人の報酬・特別利益
発起人としての報酬を受け取ることです。
・設立費用
会社成立後に、発起人が会社に請求する設立費用です。
②相続人等に対する売渡請求(会社法第174条)
株式会社は、自社の譲渡制限株式を相続その他の一般承継により取得した者に対し、当該株式を売り渡すよう請求することができる旨を定款で定めることができます。
③株券発行(会社法第214条)
平成18年5月1日の会社法施行により株券不発行が原則となりましたが、定款で定めることにより株券発行会社とすることができます。
④株主総会、取締役会及び監査役会招集通知期間短縮(会社法第299条第1項他)
株主総会の招集通知は総会日の2週間前(株式譲渡制限会社は1週間前)までに出さなければなりませんが、取締役会の設置のない株式譲渡制限会社は定款で定めることにより招集通知期間を短縮することができます。
⑤取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人及び委員会の設置(会社法第326条第2項)
定款の定めにより、各種機関の設置を義務付けることができます。
任意的記載事項
定款の記載事項のうち、絶対的記載事項および相対的記載事項以外の事項で、会社法その他の強行法規の規定等に違反しないものを任意的記載事項といいます(会社法第29条に規定する「この法律の規定に違反しないもの」に該当します。)。任意的記載事項は、定款に定めた範囲で株主その他の内部の者を拘束し、その事項を変更するには、定款変更の手続きが必要です。任意的記載事項には以下のような規定があります。
①株式について
・株主名簿の基準日(会社法第124条)
・株主名簿の名義書換手続(会社法第133・134条)
・株券の再発行手続(会社法第228条第2項)
②株主総会について
・定期株主総会の招集時期(会社法第296条第1項)
・株主総会の議長(会社法第315条)
・議決権の代理行使(会社法第310条)
③株主総会以外の機関について
・取締役(会社法第326条第1項・331条第4項)、監査役、執行役(会社法第402条第1項)の員数
・代表取締役(会社法第349条第3項)、役付取締役(会長・社長・副社長・専務取締役・常務取締役等)
・取締役の招集権者(会社法第366条第1項)
④計算について
・事業年度(会社法第296条第1項・会社計算規則第91条第2項)
⑤公告について
・公告の方法(会社法第939条第1項)
会社法は、全ての会社の公告方法について、任意的記載事項とし、官報に掲載する方法、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法、電子公告のいずれかを選択できるものとし(会社法第939条第1項)、定款に公告方法の定めがない会社については、自動的に官報に掲載する方法によることとしています(同上第4項)。
定款の認証
定款を作成したら、株式会社等は公証役場で認証を受けなければなりません。
公証役場における認証手続
定款の認証とは、公証人が正当な手続きにより定款が作成されたことを証明することをいいます。定款認証は、本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人が行います。公証人の認証が必要とされる理由には以下が挙げられます。
①定款や法人格の存立をめぐる紛争を予防すること
②不正な起業・会社設立を抑止すること
③マネー・ロンダリング対策(実質的支配者の把握)
持分会社の定款は認証を必要とせず、株式会社の定款は認証が必要とされている理由は、経営と責任が分離されて不特定多数の者がかかわる設計となっている物的会社である株式会社については、設立後の紛争予防、不正防止等の必要性が特に高いためです。
認証手数料
株式会社の定款認証手数料は以下のとおりです。
①資本金の額等が100万円未満 3万円
②資本金の額等が100万円以上300万円未満 4万円
③上記以外の場合 5万円
なお、定款に資本金の額等が記載されていない場合には、「設立に際して出資される財産の価額」が基準になります。定款の中には「設立に際して出資される財産の最低額」を記載しているものがあります。この場合には、上記①②に掲げる場合以外に該当することとなり、手数料は5万円となります。
また、令和6年12月1日から①の資本金等の金額が100万円未満の株式会社の定款の認証手数料について、以下のいずれにも該当する場合は、3万円から1万5,000円に変更されました。
①発起人が3人以下であること
②定款に発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨の記載があること
③定款に取締役会を置く旨の記載がないこと
定款認証については電子ファイル形式で作成した電子定款と、書面による定款の2種類がありますが、書面による場合は収入印紙代4万円が必要です。加えて、定款認証時には登記申請用の謄本を請求しますが、手数料として約2,000円程度かかります。
まとめ
定款は、法人設立時には必ず作成しなければならない書類です。定款の記載事項には絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項の3種類がありますが、修正等がないように十分に内容を検討して定款を作成しましょう。