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2024.09.18

休眠会社とは?メリットやデメリット、手続きの方法について解説します

事業活動を一時的に停止したい場合に、会社を廃業しないで存続させることができる休眠という選択肢があります。今回は、休眠会社のメリット・デメリット、休眠する場合の手続きについて解説します。

休眠会社

会社法により休眠会社の定義が定められていますが、一般的には一定期間事業活動を行っていない会社のことを休眠会社として認識されています。

休眠会社とは

会社における休眠とは、事業活動を一時的に停止している状態をいいます。会社を休眠させるには、税務署等への届出が必要になります。
会社を休眠させる理由は、経営者の高齢化や後継者の不在、事業再生に向けての時間の確保、廃業準備、市場環境の悪化による一時的な営業活動休止など様々です。

会社法による休眠会社

会社法第472条において、株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したものを休眠会社と定義されています。会社法の規定による休眠会社が定められた期限までに一定の手続きを行わない場合は、事業を継続している場合であっても、解散したものとみなされます。

みなし解散とは

会社法に規定する休眠会社が一定の手続きをしない場合は、みなし解散の登記が行われます。

みなし解散の登記

全国の法務局では、毎年、休眠会社の整理作業が行われます。10月頃に法務大臣による官報公告が行われ、休眠会社に対して登記所から通知書が送付されます。この公告から2カ月以内に役員変更等の必要な登記または「まだ事業を廃止していない」旨の届出がされない場合は、実際には事業を継続していたとしても、みなし解散の登記が行われます。令和6年においては、1010()に官報公告がされ、1210()までに所定の手続きが行われたかったときは、1211()付けで解散したものとみなされ、管轄登記所の登記官により職権で解散の登記が行われます。
なお、登記所からの通知が何らかの理由で届かない場合であっても、公告から2カ月以内に必要な登記申請または「まだ事業を廃止していない」旨の届出を行わないときは、みなし解散の登記をする手続きが進められるので注意が必要です。

みなし解散の登記を行う理由

会社法の規定により株式会社の取締役の任期は原則2年(最長10年)とされており、取締役も交代や重任の場合にはその旨の登記が必要であるため、株式会社においては取締役の任期ごと、少なくとも10年に1度は取締役の変更登記が行われるはずです。したがって、長期間登記がされていない株式会社においては、すでに事業を廃止している可能性が高く、そのまま放置した場合は以下の問題が生じます。

・事業を廃止し、実体を失った会社がいつまでも登記上公示されたままとなるため、登記の信頼を失いかねないこと

・休眠会社を売買するなどして、犯罪の手段とされかねないこと

上記理由により、休眠会社の整理作業は昭和49年から始まり、平成26年以降は毎年実施されています。令和5年においては27,887社が解散したものとみなされ、令和5年までの間に約71万社に対してみなし解散の登記が行われています。
なお、みなし解散の登記後であっても3年以内に限り、株主総会の特別決議によって会社を継続することができます。会社を継続したときは、その決議から2週間以内に、継続の登記の申請をしなければなりません。

廃業との違い

廃業とは、会社を解散・清算して、会社自体を消滅させます。

廃業とは

廃業とは経営者自らの意思で事業をやめることであり、会社自体を消滅させます。会社が廃業するには、解散・清算手続きを行い、法人格を消滅させる手続きが必要です。

廃業手続

法人を廃業する手続きの流れは以下のとおりです。

①株主総会の特別決議による解散決議・清算人の選任
会社の解散には株主総会の特別決議が必要です。同時に、解散後の清算手続きを実行する清算人も選任します。多くの場合、清算人には代表取締役や取締役が就任します。

②解散および清算人の登記
解散日から2週間以内に解散および清算人の登記を行います。

③各機関への解散の届出
税務署、都道府県事務所、市区町村役場、年金事務所、公共職業安定所、労働基準監督署等に届出書を提出します。

④財産目録および貸借対照表の作成
清算人は会社の財産を調査し、財産目録および貸借対照表を作成し、株主総会で承認を得ます。

⑤債権者保護手続き
清算人は、官報公告にて債権者に解散を知らせ、2ヵ月以上の一定の期間内にその債権を申し出るべき旨を公告します。また、会社が把握している債権者に対しては個別に催告します。

⑥解散確定申告書の提出
解散日から2カ月以内に解散日までの確定申告書を提出・納税します。

⑦資産の現金化、債務弁済、残余財産の確定および分配
清算人は売掛金等の債権を回収し、買掛金等の債務を支払い、現預金以外の棚卸資産や固定資産は売却して現金化します。全ての資産・負債を清算した後に残る残余財産を株主に分配します。

⑧清算確定申告
残余財産確定の翌日から1カ月以内に清算確定申告書を提出・納税します。

⑨決算報告書の作成及び承認
清算事務完了後に決算報告書を作成し、株主総会で承認を受けます。

⑩清算結了の登記
株主総会で清算事務報告の承認を受けてから2週間以内に清算結了の登記を行います。

⑪各機関への清算結了の届出
税務署、都道府県税事務所、市区町村役場等に清算結了の届出をします。

休眠することのメリット

会社を存続したまま事業活動を停止する休眠には、次のようなメリットがあります。

事業活動の再開が自由

会社を廃業してしまった場合は、会社自体が消滅してしまっているため事業を再開することができません。再び事業を行うためには、改めて会社を設立する必要があります。対して、休眠会社は一時的に事業を停止しているだけで会社は継続しているので、いつでも事業活動を再開することができます。

費用負担がない

会社を解散する場合には、以下の費用が必要になります。

・登録免許税(解散および清算人選任39,000円、清算結了2,000円)

・官報公告費用 30,000円~40,000

・履歴事項全部証明書などの証明書の取得費用

・税理士や司法書士等の専門家への報酬

一方で、休眠の場合は届出書の提出が必要になりますが、手数料はかかりません。専門家に依頼することもできますが、自身で行えば費用はかかりません。

法人税・消費税の納税負担がない

休眠している間は事業活動を行っていないため、法人税と消費税は課税されません。法人税は会社の所得に対して課税されますが、休眠中の会社には課税対象となる所得が発生しないため、法人税は課税されません。また、消費税は事業者が事業として行う取引に対して課税されるので、事業活動を行っていない休眠中の会社については、課税対象がないので消費税も課税されません。

自治体によっては均等割が免除

休眠中の会社は、上述したように法人税および消費税については課税されませんが、法人住民税の均等割には納税義務があります。均等割の額は、都道府県民税は資本金等の額によって5つの区分、市町村民税は資本金の額・従業員数によって9つの区分に分けられ、以下のとおりとなっています。

資本金等の額

都道府県民税均等割

市町村民税均等割 従業員数50人超

市町村民税均等割 従業員数50人以下

1千万円以下

2万円

12万円

5万円

1千万円超

1億円以下

5万円

15万円

13万円

1億円超

10億円以下

13万円

40万円

16万円

10億円超

50億円以下

54万円

175万円

41万円

50億円超

80万円

300万円

41万円

ただし、自治体によっては休眠の届出を行うことで均等割が免除される場合もあるので、届出を行う際に確認しておきましょう。

許認可の継続

会社を廃業してしまった場合は、新たに事業を起こす際に必要な許認可を再取得しなければなりません。休眠の場合は、休眠前に取得した許認可が取り消されることはないため、事業活動を再開する場合に再取得の必要はありません。
ただし、数年ごとに許認可が更新手続きを要する場合などは、取り扱いについて確認しておくことが必要です。

休眠することのデメリット

会社が存続するために多くのメリットを受けることができる休眠会社ですが、会社が存続するために生じるデメリットもあります。

手続や会社維持の費用

休眠する場合には届出書の提出が必要になりますが、専門家に依頼する場合には手数料が発生します。また、税金については、法人税や消費税は課税されませんが、法人住民税の均等割免除が適用されない場合には納税義務があり、土地や建物を所有している場合においては、休眠中であっても固定資産税が課税されます。不動産を所有していなくても、事務所を借りている場合は、家賃を支払わなくてはなりません。事業活動を休止して収益がない場合であっても、会社維持のための支払義務が発生します。

みなし解散のリスク

休眠の届出をしている場合であっても、最後の登記から12年が経過するとみなし解散の対象となります。法務局から通知が届いた場合は、役員変更等の必要な登記または「まだ事業を廃止していない」旨の届出をして、みなし解散となるのを防ぐ必要があります。

税務申告が必要

休眠している場合においても、会社は存続しているので税務申告をしなければなりません。税理士などの専門家に依頼している場合は、手数料も発生します。
ほとんどの会社は青色申告が適用されていますが、2期続けて確定申告をしなかった場合には青色申告が取り消されてしまいます。青色申告が取り消されると、欠損金の繰越控除や繰戻し還付が使えなくなり、税務上のメリットが消失してしまいます。青色申告が取り消された後に再申請することは可能ですが、1年間は再申請することができません。

役員変更登記が必要

休眠中であっても役員の変更登記が必要です。休眠中も役員の任期は継続しているので、任期満了になれば重任または役員交代の登記をしなければなりません。役員変更登記は、変更が生じたときから2週間以内に行うことになっていますが、期間内に登記しなかった場合は、会社代表者に対して100万円以下の罰金が科せられる可能性もあるので注意が必要です。

休眠会社の手続き

休眠する場合および休眠から復活する場合には、一定の手続きが必要になります。

休眠する場合

会社を休眠するためには、各機関に届出書の提出が必要になります。主な提出先と提出書類は以下のとおりです。

①税務署
・異動届出書(休業する旨を記載)
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
・消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書

②都道府県税事務所
・異動届出書(休業する旨を記載)

③市区町村役場
・異動届出書(休業する旨を記載)

④年金事務所
・健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届

⑤労働基準監督署
・労働保険確定保険料申告書

⑥公共職業安定所
・雇用保険適用事業者廃止届

休眠から復活する場合

休眠から復活して事業活動を再開する場合にも、各機関に届出書の提出が必要です。主な提出先と必要書類は以下のとおりです。

①税務署
・異動届出書(再開の旨を記載)
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

②都道府県税事務所
・異動届出書(再開の旨を記載)

③市区町村役場
・異動届出書(再開の旨を記載)

④年金事務所
・健康保険・厚生年金保険新規適用届

公共職業安定所
・雇用保険適用事業所設置届

休眠前に青色申告だった場合には、青色申告の承認が取り消されていないかの確認も必要です。取り消されていた場合は、改めて青色申告の承認申請書の提出が必要です。

休眠会社のMA

M&Aとは会社を合併・買収することです。休眠会社も通常の会社と同様に買収することができます。

買い手側のメリット・デメリット

休眠会社を買収するメリットには以下のようなものがあります。

・企業価値の高い会社を安価で買収できる可能性がある

・会社を新規設立する場合の手続きが不要

・休眠会社の許認可をそのまま引き継ぐことができる

・社歴を獲得することにより、信用力獲得が見込まれる

一方、デメリットには以下のようなものがあります。

・想定外の簿外資産を引き継ぐ場合がある

・休眠会社の過去の評判等が新たな事業活動に影響を及ぼす場合がある

売り手側のメリット・デメリット

休眠会社を売却するメリットには以下のようなものがあります。

・廃業に係る費用を抑えることができる

・高額で売却できる可能性がある

・節税できる場合がある

一方、デメリットには以下のようなものがあります。

・買い手探しが困難

・売却後に簿外債務などが見つかった場合は、損害賠償金や違約金が発生する可能性がある

まとめ

会社の休眠は、手続や費用の面で比較的選択しやすい方法ですが、休眠期間においても税務申告や登記は必要になるので、忘れずに対応しなければなりません。メリット・デメリットを理解して、会社にとって最適な方法を検討しましょう。