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2024.09.02

会社設立時の決算月の決め方は?決め方と変更方法について解説します

法人の設立の際には決算月を決めなければなりません。決算月は自由に決めることができますが、どのように決めたら良いのか悩む経営者も多いのではないでしょうか。今回は、決算月を決める際のポイントと変更する場合の手続きなどを解説します。

決算とは

決算とは、会計期間における収益と費用の計算により損益を算出し、決算日時点における資産・負債・純資産の状況を確定させる手続です。

決算の目的

法人は決算を行うことが義務付けられていますが、決算を行う目的には次のようなものがあります。

1.税金の申告
決算により計算された財産・損益を基に申告書を作成し、納税額を計算します。申告・納税は、原則として事業年度終了から2か月以内となります。

2.利害関係者への報告
株主や取引先、金融機関などの利害関係者へ、法人の経営状況を報告するための役割を担います。

3.経営判断
経営者が自社の状況を把握・分析することにより、課題や問題点を洗い出し、適切な経営判断に役立てることができます。

決算の時期

決算は会計年度末に必ず行われる本決算のほかに、中間決算・四半期決算・月次決算があります。

1.本決算
法律で義務付けられている法人の1事業年度における決算です。本決算の内容を株主総会で承認を得た後に、税務申告が行われます。

2.中間決算
会計期間の半期で行われる決算です。上場企業においては中間決算が義務付けられています。

3.四半期決算
3か月ごとに行われる決算です。上場企業においては2008年4月から四半期決算が義務付けられていましたが、2024年4月1日以降は任意となりました。

4.月次決算
1か月ごとに行われる決算で、実施は任意です。月次決算を行うことにより、経営者は自社の状況をタイムリーに知ることができるため、迅速な経営判断が可能となります。

決算の流れ

決算作業の大まかな流れは以下のとおりです。

1.当期分の記帳
会計期間における記帳を終わらせ、記帳漏れや間違いがないか確認します。

2.棚卸および残高確認
棚卸とは、企業が保有する商品や原材料の在庫を確認する作業です。決算では帳簿上の在庫金額と、棚卸による在庫金額を一致させなくてはなりません。在庫のほか、現金・預金残高・売掛金・買掛金・未払金などの残高も確認する必要があります。

3.決算整理仕訳
実地棚卸や残高確認の結果から修正仕訳を行い、さらに決算整理仕訳を行います。決算整理仕訳とは、決算を行うために必要な最終仕訳であり、貸倒引当金の設定や固定資産の減価償却費計上などがあります。

4.決算書の作成
決算整理仕訳が完了し試算表が確定したら、決算書を作成します。決算書には貸借対照表や損益計算書などがありますが、法人の種類や使用目的により作成する書類は異なります。

5.株主総会などの承認
作成した決算書は、会社法に定められている機関で承認を受けなければなりません。株式会社の承認機関は、原則として株主総会となります。

6.申告書作成
株主総会で承認された決算を基に申告書を作成し、法定期限までに提出・納税します。

決算月の決め方

法人を設立する際に事業年度を決定します。事業年度とは決算書を作成する際に対象となる一定期間のことですが、事業年度の最後の月を決算月といいます。

決算の多い月は?

国税庁の資料によると、令和4年の年1回決算期別普通法人数は2,897,478社であり、決算月の最も多いのは3月決算の518,960社で、全体の17.9%を占めています。次いで、9月決算の316,889社で全体の10.9%、12月決算の304,878社で全体の10.5%になっています。

3月決算が多い理由は、国や自治体などの公的機関や教育機関が4月から3月までを区切りとしていること、4月に法律改正・施行が行われることが多いため手続きの変更を円滑に進めることができることなどが挙げられます。

9月決算が多い理由は、4月が入社や人事異動などで事務手続等の忙しい時期であるため、3月決算を避け、半年後の業務が落ち着いている9月を選ぶことなどが挙げられます。

12月決算が多い理由は、法人成りした個人事業主が、所得税の決算月である12月を引き継いでいること、国際会計基準(IFRS)の影響などが挙げられます。国際会計基準においては、親会社と子会社の決算期の統一が求められています。海外企業は12月決算の企業が多いため、海外企業に合わせて12月を決算月に選択する企業が増えています。

繁忙期を避ける

決算月は、通常月の業務に加えて、棚卸・決算書の作成・株主総会の開催・顧問税理士との打合せなど多岐にわたる決算業務を行わなくてはなりません。繁忙期と決算月が重なることによる事務負担は大きいものであり、間違いの起きるリスクも高くなります。また、繁忙期は想定外の利益や損失が発生しやすい時期ですが、決算まで時間的余裕がないため十分な節税対策を講じることができません。

経理作業に自信がなく顧問税理士の十分なサポートを受けたい場合には、顧問税理士の繁忙期も避けた方が良いでしょう。税理士の繁忙期は一般的に125月といわれています。

設立時の消費税免税期間を最大にする

新たに法人を設立した場合、インボイス制度を選択していない事業者は、次の条件を満たす場合は、設立12期目の消費税の納税義務が免除されます。

 ・資本金が1,000万円未満

 ・1期目の前半6か月の売上が1,000万円以下または1期目の前半6か月の給与等の支払額が1,000万円以下

新たに設立した法人の消費税の納税義務が免除されるのは「2年」ではなく「2期」です。4月に開業し決算月を3月に設定した場合は、設立1期目・2期目とも事業年度は12か月なので、最大で24か月が消費税の免除期間となります。同様に4月に開業したものの決算月を9月に設定した場合は、設立1期目の事業年度が49月の6か月になってしまうため、消費税の免除期間は1・2期目を合算して18か月になり、消費税の免除期間が、決算月が3月の法人よりも6か月少なくなってしまいます。

消費税の免除期間を最大にするためには、設立事業年度を1年に設定しましょう。

資金繰りに余裕のある月

法人税等や消費税は、決算日から2か月以内に納付しなければなりません。従業員の賞与支払月や仕入の多い時期など支払の多い月を避け、資金に余裕のある時期を見越して、決算月を決めると良いでしょう。

売上の多い月を期首にする

決算月を決める場合に、売上の多い月を期首にする方法もあります。売上の多い月が期首であれば、決算月まで時間的余裕があるので、節税対策がしやすくなります。一方で売り上げの多い月を決算月近くにしてしまった場合は、決算月まで時間的余裕がないため、十分な節税対策を行うことが難しくなります。

在庫の少ない月にする

決算月には棚卸をしなければなりません。商品や原材料が多種多様であったり、在庫の多い法人にあっては、棚卸は手間のかかる大変な作業になります。そこで、繁忙期やバーゲン後など在庫の少ない月を決算月にすることで棚卸作業による負担を減らすことができます。

法人設立日に合わせる

法人の設立事業年度は、設立登記をした日が事業年度開始日となり、その日から1年以内の期間とされています。会社設立後の初めての決算においては、慣れない作業に多くの時間と労力が必要になるため、事業年度は最長の1年にして、その間に業務に慣れ、決算に対応できる人材を確保することが好ましいでしょう。

また、設立事業年度を1年にすることは、前述したとおり消費税の免除期間を最大限に生かすためにも有効です。

決算月の変更

設立時に熟考を重ねて決めた決算月であっても、法人を経営していく上で変更の必要が出てくる場合もあります。法人の決算月は、一定の手続きを行うことにより変更することが可能です。

決算月の変更手続き

法人が決算月を変更する場合の手続きは以下のとおりです。

1.株主総会による特別決議
法人の決算月は定款に記載されているため、決算月を変更する場合には定款を変更しなければなりません。定款変更には株主総会における特別決議が必要です。特別決議は行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の三分の二以上の賛成が必要です。定款変更に必要な賛成が得られたら、株主総会議事録を作成・保管し、定款を変更します。合同会社の場合は、定款変更には全社員の賛成が必要です。なお、決算月は登記事項ではないので、登記変更手続きは必要ありません。

2.異動事項に関する届出の提出
定款変更後は、所轄税務署・都道府県税事務所・市区町村役場に異動届を提出します。提出期限は明確に規定されていませんが、遅くとも変更後の事業年度の申告書提出期限までには提出します。

3.関係先への報告
必要に応じて銀行や取引先に決算月変更の連絡をします。また、許認可が必要な事業を行っている場合は、管轄の省庁へ届出が必要になる場合があります。

決算月を変更するメリット

節税対策

決算期変更の最大のメリットは節税です。決算月に利益が大きく出た場合は、節税対策を行う時間的な余裕がないため、納税額も高額になってしまいます。この場合は決算月を変更することにより、大きく利益の出る月を翌期に持ち越して納税額を減少させ、翌期は十分な時間をかけて節税対策を講じることができます。

また、消費税の免税事業者は決算期の変更により免税期間を延長することができます。消費税は1事業年度の売上が1,000万円を超えると、翌々期から課税事業者となります。決算月の前月までの売上合計が800万円、決算月の売上が300万円の場合、売上高の合計が1,100万円となり翌々課税期間は消費税の課税事業者になります。決算月を変更して本来の決算月を翌期に持ち越した場合、消費税の納税義務を判断する売上高は、11か月分の売上800万円を12か月に換算して800万円×11/12733万円になり翌々期の納税義務は免除されます。

資金繰りの調整

法人税・消費税の納付期限は、事業年度終了から2か月以内です。資金繰りが厳しい場合は、決算月を変更することで納税資金を確保することができます。

役員報酬の変更時期を早められる

役員報酬の変更による利益調整を防ぐため、役員報酬の変更が認められるのは、特別な理由がある場合を除いて事業年度開始から3か月以内です。そこで決算月を変更して現在の事業年度を終了させることで、役員報酬の変更を早めることができます。

余裕を持った決算

繁忙期と決算期が重なっている場合、業務が集中することになります。決算月を比較的業務の少ない時期に変更することにより、業務が平準化され事務負担を軽くすることができます。

決算月を変更するデメリット

納税時期が早まる

事業年度は1年を超えることができないため、決算月の変更は通常より短い期間で決算業務を行い、納税時期も早まることになります。そのため、納税資金の確保も必要となり、税理士などの専門家に支払う報酬も前倒しになります。

税務上の調整が必要

決算月を変更して事業年度が1年未満になる場合は、税務上の調整が必要になります。

1.減価償却における償却率
減価償却における償却率は、事業年度が1年であることを基準に決められているので、事業年度が1年未満の場合は償却率の改定が必要になります。

2.中小法人の軽減税率
資本金1億円以下の中小法人については年800万円までの所得に対し軽減税率が適用されますが、事業年度の月数が1年に満たない場合、年800万円は事業年度の月数に応じて調整が必要になります。

3.中小法人の交際費の損金算入
交際費は損金不算入が原則ですが、資本金1億円以下の中小法人については、年800万円までは全額損金算入されます。ただし、事業年度の月数が1年に満たない場合、年800万円は事業年度の月数に応じて調整が必要になります。

4.地方税の均等割
所得が損失であっても納税義務のある地方税の均等割についても、事業年度の月数が1年に満たない場合は、事業年度の月数に応じて調整が必要です。

その他、消費税の基準期間の計算などでも事業年度の月数に応じた調整が必要になります。

前期比較が困難

決戦月を変更して事業年度が1年未満になった場合は、財務データの前年比較が難しくなります。仮に、事業年度10か月の数字を1.2倍して1年換算した場合であっても、時期により売上や仕入が変動する業種においては、前期比較には注意が必要です。

変更手続きの手間と時間

決算月を変更するには、株主総会の開催や定款変更など事務手続きの手間と時間がかかります。

まとめ

決算月は自由に決めることができます。自社の状況を踏まえて決めた決算月であっても、事業を継続していく上で不便が生じた場合は、一定の手続きにより決算月を変更することができます。ただし、決算月の変更には、メリット・デメリットがあるので、よく検討して慎重に行いましょう。