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2024.01.09

税理士に決算申告のみを依頼することはできるのか?メリット・デメリットを解説します。

法人を設立したら、企業活動から得た利益に対して法人税や消費税などの税金が課されます。煩雑な税金の計算は、ほとんどの法人が専門家である税理士に依頼して行っていますが、継続的な顧問契約を結ぶ場合と決算のみを依頼する場合があります。決算のみを依頼する場合のメリット・デメリットを理解して、税理士との契約について判断しましょう。

法人の確定申告

法人を設立したら確定申告をする義務があります。確定申告が必要となるのは、法人税(地方法人税を含む)、法人住民税、法人事業税、消費税です。以下でほとんどの法人が課されることとなる法人税の確定申告について説明していきます。

法人税の仕組み

法人税は、法人の企業活動により得られる所得に対して課される税金です。法人の所得金額は、益金の額から損金の額を引いた金額となっています。益金の額とは商品等の販売による売上収入や土地・建物の売却収入などであり、損金の額とは売上原価や販売費、災害等による損失など費用や損失にあたるものです。確定申告の際には、企業会計上の当期利益を基礎に法人税法の規定に基づいて税務調整を行い、所得金額を算出します。こうして得られた所得金額に税率を乗じて、各種税額控除を差し引いて、法人税額を算出します。

税率

法人税の税率は原則として23.2%です。ただし、事業年度終了時の資本金等の額が1億円以下の普通法人などについては、平成2441日から令和5331日までの間に開始する事業年度については、所得金額のうち800万円以下の部分については、中小企業者等の法人税の特例として税率15%とする軽減措置が講じられています。

地方法人税の税率は、その法人の法人税の金額に10.3%を乗じることになっています。

提出書類

法人税の確定申告において、提出が必要な書類は以下のとおりです。
・法人税申告書及び地方税申告書(各種別表)
・適用額明細書(税額や所得の金額を減少させる規定等の適用を受ける場合)
・法人事業概況説明書
・勘定科目内訳明細書
・決算報告書
  貸借対照表
  損益計算書
  株主資本等変動計算書(社員資本等変動計算書)
・その他必要に応じて必要な書類(例えば、固定資産台帳)

提出期限

法人税の確定申告書の提出期限は、原則として事業年度終了の日の翌日から2カ月以内です。期限にあたる日が土曜日、日曜日、祝日の場合は、休み明けの平日が期限となります。また、申告期限と納付期限は同日であり、3月決算法人の場合は、531日が申告期限および納付期限となります。

申告期限の延長申請

上述のとおり法人税の申告期限は事業年度終了の日の翌日から2カ月以内ですが、以下のような理由がある場合には申告期限の延長を申請することができます。

1. 災害その他やむを得ない理由による場合
災害その他やむを得ない理由による延長申請には、国税庁が被災地域と期日を指定する地域指定による期限延長と、申請書を提出して承認を受ける個別指定による期限延長があります。地域指定による期限延長は申請書の提出は不要です。また、いずれも申請および納付期限が延長されます。

2. 定款の定め等による場合
定款に定時株主総会を事業年度終了の日から3カ月以内に開催される旨の記載があり、2カ月以内に決算が確定しないと認められる場合には、申告期限を1カ月延長することができます。なお、この場合でも、納付期限は延長されませんので留意が必要です。

中間申告

前事業年度の法人税額が20万円を超える場合は、中間申告をする必要があります。中間申告書の申告および納付期限は、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内となります。4月1日から331日までの事業年度であれば、中間申告期限は1130日になります。中間申告には2つの方法があります。

1. 予定申告
前事業年度の法人税を基準として中間納税額を計算する方法です。通常は前期確定税額の2分の1を中間分の税額として申告・納税します。

2. 仮決算に基づく中間申告
事業年度開始の日以後6カ月の期間を1事業年度とみなして仮決算を行い、中間納税額を計算します。この方法は事業年度の途中で仮決算を行うため予定申告に比べて手間がかかりますが、前期に比べて経営状態が悪化して資金繰りが厳しい場合には効果的です。

なお、申告期限までに中間申告書を提出しなかった場合には、その提出期限において、予定申告があったものとみなされます。

税理士との契約方法

法人の申告は専門家に頼らず法人自身が行っても法的に問題はありませんが、実際はほとんどの法人が税理士に依頼しています。具体的な数字を挙げると、財務省の令和4事務年度国税庁実績評価書によれば、令和4年度の法人税の税理士関与割合は89.5%になっています。法人が税理士に申告を依頼するには、顧問契約を結ぶ方法と決算のみを依頼するスポット契約があります。

顧問契約

継続して会社の状況を見てもらう契約です。税理士にしかできない独占業務に「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」があり、これらの業務を任せる他に、会計指導や給与計算、経営アドバイスなど幅広い分野での業務を依頼することができます。

限定業務のスポット契約

スポット契約では内容を限定して依頼することができるので、決算における申告業務のみを契約することも可能です。内容を限定しての契約なのでやってもらえることは限られており、必要に応じて依頼内容を追加して契約していきます。

決算のみ依頼する場合のメリット

スポット契約で決算のみを税理士に依頼した場合のメリットを見ていきましょう。

費用負担の軽減

税理士と顧問契約を結んでいる場合も申告業務に対する報酬は顧問料とは別に発生しますが、スポット契約に比べて割安です。ただし、毎月の顧問料と合わせた年間トータル金額で比較してみると、スポット契約の方が費用は安く抑えることができます。事業規模が大きくない法人や、起業したばかりの法人など、売上が不安定な法人にとっては、税理士への報酬を毎月支払うことは大きな負担となります。申告業務のみをスポット契約することで毎月の資金繰りに余裕ができます。また、顧問契約を解除する場合に違約金がかかることもありますが、スポット契約にはその心配もありません。

定期的なやり取りが不要

税理士に申告業務のみを依頼する場合は、1年分の帳簿や会計データをまとめて税理士に渡して申告書類を作成してもらうのが一般的なやり方です。年に1度の依頼で済み、顧問契約のように定期的にやり取りをする必要がないため、頻繁に税務相談をする必要がない場合や税理士とのやり取りに時間を割くことができない場合には効果的です。また、年に1回のやり取りであれば、税理士と合わない場合のストレスも軽減されます。ただし、帳簿や会計データに不明点が多い場合は、税理士とのやり取りは当然増えます。やり取りを減らすためには、正確な会計資料が必要になります。

税理士署名による信頼度

自社で申告業務を行うことは可能ですが、税理士に依頼すると申告書の税理士欄に署名・押印がされます。税務の専門家である税理士が申告手続きを行った証明になるため、自社で作成した申告書に比べて信頼性は高まります。ただし、税理士が申告手続きを行った場合でも、税務調査の対象となる可能性がなくなるというわけではありません。

決算のみ依頼する場合のデメリット

メリットについていくつか説明してきましたが、その一方で当然デメリットもあります。次にデメリットについて説明していきます。

節税対策ができない

申告業務だけを依頼するスポット契約においては、税理士は決算終了後に預かった1年分の会計資料から申告業務を行います。そのため、利益が出ていたとしても決算日を経過しているため、十分な節税対策を行うことができません。節税対策は、経営者と相談しながら中長期的に実施し、決算日の数か月前に損益を予測しながら対策をしていくのが効果的な方法です。スポット契約で実施できる節税対策は限られてしまうため、十分な節税対策を行うには、税理士と顧問契約を結び、頻繁にやり取りすることが必要です。

取引内容が把握しきれない

法人税の申告期限は、決算日から2カ月以内です。決算業務のみの契約の場合、定期的なやり取りをしていないうえに時間的な余裕もないため、税理士が会社の取引を十分に把握することができません。特にその業界や会社独自の会計処理を行っている場合は困難を極めます。そのためお互いの認識に齟齬が生じ、正確な決算書が作成されないリスクがあります。正確な決算書が作成されなければ、税務調査での対応も難しくなり、追徴課税の可能性が高くなります。

日常のアドバイスを受けることができない

税理士が請け負う業務は申告業務だけではありません。会計・税務の専門家である税理士に、会社経営に関する相談をしたり、アドバイスを受けたりすることもできます。顧問契約を結び定期的に税理士とコミュニケーションをとることができれば、現状の経営状態を把握して迅速な経営判断が可能になったり、資金繰りや融資に関するアドバイスを受けたりすることもできます。しかし、年に1回の申告業務のみの契約においては、これらの経営に有益なアドバイスを受けることは難しいでしょう。

期中に決算予測や納税予測ができない

税理士と顧問契約を結んでいる場合、多くの税理士が決算検討会や納税予測を実施しているので、決算前から納税資金の準備をすることができます。申告業務のみのスポット契約の場合は、税理士が税額計算を終わらせるまで納税額が把握できないため、納税資金の準備が間に合わなくなるリスクがあります。また、法人側で決算処理を終了させてある程度の納税予測を立てていたとしても、税法特有の計算方法により、予測していた納税額から大きく乖離した納税額になる場合もあります。

日常の会計業務の負担

税理士と顧問契約を結ぶ場合は、会計処理の代行を依頼することも可能です。会計処理を税理士に代行すれば、正確な会計帳簿を作成してくれるので、日常の会計業務に追われることもなくなり、経営者は本来の業務に集中することができます。一方、申告業務のみをスポット契約する場合は、日々の会計業務は自社で行わなければならないので、その時間と手間を軽減することができません。

税理士と申告業務を契約する際の判断基準

税理士に申告業務を依頼する際の契約について、顧問契約を結ぶか、スポット契約を結ぶかどうか、メリットとデメリットを考慮して判断しましょう。

年間の売上金額

税理士と顧問契約を結ぶかどうかの判断基準として目安になるのが年間の売上高です。売上高が少なければ、顧問契約をして毎月税理士報酬を支払うことは資金繰りに大きな負担となります。また、年間の売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じます。売上高が1,000万円以下であっても、インボイス制度により消費税の納税義務が生じる法人は増えています。消費税の会計処理は、軽減税率、インボイス制度などがあり、煩雑なものになっていて、自社で対応するのはかなりの負担になります。消費税の納税義務がある法人は、スポット契約ではなく顧問契約を結んだほうが良いでしょう。

法人の規模や取引数

法人の利益や規模が小さければ、取引数も少なく、会計処理もそれほど複雑ではありません。この場合は、税理士に相談することなく会計処理を進めることができるので、申告業務もスポット契約で良いでしょう。一方で、利益が増えて規模が大きくなれば、取引数も増え経理処理も煩雑になっていきます。この場合は、自社で判断することも難しい処理が増えていき、節税や資金調達の面などでも税理士のアドバイスが必要となってくるので、顧問契約を結んだほうが効果的です。

自社で会計処理ができるかどうか

会計処理を自社で行える場合は、申告業務はスポット契約で良いでしょう。決算処理までを自社で行うためには、日常の会計処理が行えていることが必須条件です。決算書は日常の会計処理の積み重ねになります。最近ではクラウド系の会計ソフトが普及しており、従来の会計ソフトよりも安価で使いやすくなっています。これらを使いこなすことができれば、税理士に頼ることなく決算処理まで完成させることができる可能性は高いでしょう。他方で、会計処理を経営者で対応することができても、その分本来の事業に集中できなかったり、余計な時間を会計処理に取られてしまいストレスを感じている場合は、税理士と顧問契約を結んで、会計処理を税理士に一任してしまうことも解決策の一つです。

まとめ

決算のみを税理士にスポット契約で依頼することは可能ですが、法人の状況により感じるメリット・デメリットも異なります。自社の状況と照らし合わせて、税理士との契約形態を判断しましょう。