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2022.02.20

起業にあたって押さえておくべき役員報酬決定の基礎知識

一念発起、起業してこれから会社をどんどん大きくさせ、沢山の稼ぎを得たい、そんな起業家もたくさんいることでしょう。会社を立ち上げて自らの報酬も自分自身で決めることができる、これは起業冥利の一つですね。ただこの役員報酬の決定にあたってはいくつか頭にいれておくべきルールがありますので、今回はそんな役員報酬決定にあたっての基本的なルールをみていくことにします。

役員報酬と従業員給与の違い

従業員に対して支払われる給与は会社と従業員との間の雇用契約に基づき支払われる労働の対価です。他方で、取締役や監査役に支払われる報酬を役員報酬といい、これは会社と役員との委任契約に基づき支払われる職務執行に対する対価であって、雇用契約に基づく従業員給与とは異なる性質のものです。
税務上も従業員給与に比較し、役員報酬はお手盛りの弊害や利益(所得)調整のリスクもあるため、役員報酬の決定にあたっては会社法や税法においてルールが存在します。このルールを逸脱して役員報酬を支払うとその役員報酬そのものの適法性が問題となる可能性もありますし、何よりも税務上、費用(損金)に計上できなくなるとその分余計に税金を支払うことにもつながりますので会社にとっては大変に大きな問題となります。

会社法上の取扱い

会社法では、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(報酬等)については、定款に定めていないときは、株主総会の決議によって定める」と規定されています。ただし、実務上、役員報酬を定款に規定している例は少なく(役員報酬を変更する都度、定款変更手続が必要となるため、定款で役員報酬を決定することは実務上非常に煩雑となる)、また、株主総会の決議についても、役員個人ごとの報酬額を株主総会で決するのはプライバシー配慮の観点からも採用されることは一般的ではありません。実務上は、取締役報酬の総額の上限のみを株主総会の決議によって定め、その枠内で、個人別の報酬額の決定を取締役会に一任される方法が一般的です。

税務上の取扱い

役員報酬は、従業員給与と異なり簡単に報酬金額の変更をすることができません(厳密には役員報酬の変更は会社法の手続を適法に経れば可能ですが、税務上は経費(損金)計上には制限がかかる)。役員報酬が経費(損金)として認められるには、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与の3つに該当することが必要となります(いずれも不相当に高額なものは除く)。役員報酬の支払いにあたり、多くの会社が採用する定期同額給与についてみていくことにしましょう。

定期同額給与とは

定期同額給与とは、「その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額又は支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるもの」をいいます。例えば、年間報酬金額が1,200万円の場合には、毎月100万円を役員報酬として認識する必要があります。ただし、以下の場合には年度の途中において支給額を増減させることが可能となります。

通常改定のケース

会計期間開始の日から3カ月以内に改定された場合で、改定前後においてそれぞれ同額であるケースが該当します。これは役員報酬の決定を株主総会で決するという会社法上の手続を考慮して設けられたものです。

臨時改定のケース

役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更等により改定された場合で、改定前後においてそれぞれが同額であるケースが該当します。

業績悪化のケース

経営状況が著しく悪化したこと等の理由により期中に減額改定された場合に、改定前後においてそれぞれが同額であるケースが該当します。

税務署への手続について

今回紹介した定期同額給与については毎月同額を役員に対して報酬として支払っておくだけで特段税務署への申請は必要ありません

まとめ

役員報酬は役員個人の生活に直結する一方に、利益操作にも使われやすい項目のため、しっかりとした手続を経て役員報酬の支給を決定していきましょう