近年「自計化」という言葉を耳にする機会が増えてきていませんか?
自計化とは、簡単に言えば、企業が自社の会計処理や経理業務を、外部に任せるのではなく、自社内で完結させることを指します。具体的には、会計ソフトなどを活用して、日々の取引の入力から試算表の作成までを自社で行う体制を築くことです。
「経理は税理士に全部任せているから関係ない」と思われるかもしれません。しかし、実はこの「自計化」こそが、経営のスピードと精度を高め、会社の未来を左右する鍵となるのです。
本記事では、この「自計化」について、その定義から導入のメリット・デメリット、具体的な進め方、そして成功のための秘訣までを、解説していきます。
自計化を進めることは、決して難しいことではありません。ぜひ最後までお読みいただき、貴社の経営体質強化の一歩としてご活用ください。
自計化についての基礎知識
まずは、自計化についての基礎知識を確認していきましょう。
自計化って何?
まずは、自計化の定義を確認しましょう。
自計化とは、自社の経理業務全般を、自社の従業員が自社のリソース(主に会計ソフト)を用いて行う運用体制のことです。
多くの企業では、日々の売上や仕入、経費の取引が発生します。これらの取引を正確に記録・分類し、最終的に決算書を作成する一連の業務を、自社内で行うのが自計化です。
・取引の入力(仕訳の記帳)
・預金残高や売掛金・買掛金の管理
・月次試算表の作成
・資金繰り表の確認
これらの一連のプロセスを、税理士事務所などの外部に依頼する「記帳代行」の対義語として捉えていただけると分かりやすいでしょう。
記帳代行との違い
自計化を理解する上で、比較される「記帳代行」との違いを明確にしておきましょう。
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項目 |
自計化(自社経理) |
記帳代行(税理士事務所などに依頼) |
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記帳業務の主体 |
自社の従業員 |
税理士事務所や記帳代行業者 |
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データの鮮度 |
リアルタイムまたは日次・週次 |
月に一度、資料を渡した後の数日後 |
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費用
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主に人件費、会計ソフト代 |
記帳代行手数料 |
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経営への活用度 |
高い(即時性があるため) |
低い(過去のデータとなるため) |
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従業員のスキル |
経理スキル・会計ソフト操作スキルが必要 |
特に不要(資料の整理・提出のみ) |
自計化は、手間とコストはかかるものの、「時間」という最も重要な経営資源を味方につけることができる点が最大の特徴です。
会計ソフトの利用
かつて、経理業務は専門知識を持つ人が手書きの帳簿や電卓で行う作業であり、中小企業にとって自社で完結させるのは非常に困難でした。
しかし、現在ではクラウド会計ソフトをはじめとする高性能で安価な会計ソフトが普及し、専門知識がなくても、インターネットバンキングやクレジットカードのデータと自動連携させることで、驚くほど簡単かつスピーディに記帳ができる時代になりました。
この会計ソフトの進化こそが、すべての中小企業にとって「自計化」を現実的な選択肢にした最大の要因と言えます。
自計化によるメリット
自計化は単なる経理業務の内製化ではありません。それは、貴社の経営全体に大きなプラスの影響を与える、戦略的な経営ツールとなり得ます。ここでは、自計化がもたらす主なメリットを6つご紹介します。
経営状況をリアルタイムで把握
自計化の最大のメリットは、「今、会社がどういう状態にあるのか」をリアルタイムで把握できる点にあります。
記帳代行の場合、税理士事務所等に資料を渡してから試算表を受け取るまでにタイムラグが発生し、手元に来るデータは「過去の成績表」となってしまいます。
一方で自計化であれば、日々の取引が入力されるため、いつでも、最新の売上、利益、資金残高を確認できます。
・「今月の売上目標まであといくらか?」
・「このままいくと来月の資金繰りは大丈夫か?」
・「どの事業、どの商品が一番利益を上げているか?」
これらの問いに即座に答えられるようになり、迅速な意思決定が可能になります。
経理業務の効率化とスピードアップ
「自社でやるのは大変そう」と思われるかもしれませんが、現代の会計ソフトを導入すれば、かえって業務が効率化するケースも多々あります。
・銀行口座やクレジットカードとの自動連携:通帳や明細を手入力する必要がなくなり、自動で仕訳の候補が作成されます。
・AIによる勘定科目の推測:過去の入力データや取引内容から、適切な勘定科目をソフトが提案してくれます。
これにより、資料の収集や税理士事務所とのやり取りにかかっていた時間や手間を削減し、より生産性の高い業務に時間を充てることが可能になります。
タイムリーな資金繰り対策
資金繰り、つまり「お金の流れ」の把握は、企業の存続に直結する最も重要な経営課題です。
自計化によって、現金や預金の残高、売掛金(入ってくるお金)、買掛金(出ていくお金)の状況が常に最新の状態で画面上に表示されます。
・月末の支払いに資金が足りるか
・売掛金の回収が遅れている先はないか
などを早期に察知し、事前に銀行融資の相談や支払い条件の見直しなどの手を打つことができるようになります。
コスト削減の可能性
記帳代行を依頼する場合、毎月数万円から数十万円の記帳代行手数料が発生します。
自計化を推進し、税理士事務所に依頼する業務を「記帳」から「チェックとアドバイス」に切り替えることで、トータルで税理士に支払うコストが削減できる可能性があります。
もちろん、人件費はかかりますが、その人件費は経営判断を助ける情報という形で貴社に還元されます。
監査対応や税務調査へのスムーズな対応
自社で日々の記帳を行っていれば、すべての証憑(請求書、領収書など)が整理され、会計データと紐づいている状態になります。
これにより、金融機関への融資の申し込みや、税務調査が入った際も、必要な資料やデータに即座にアクセスし、スムーズに対応することができます。「どこに何があるかわからない」という混乱を避けることができるのです。
従業員の会計リテラシーの向上
自計化に伴い、経理担当者だけでなく、社長やその他の役職者も会計ソフトの画面を見る機会が増えます。
これにより、「売上だけではなく利益が重要だ」「経費を使いすぎるとどうなるか」といった会計・財務に関する意識が社内に浸透します。
専門的な知識でなくても、「会社の数字」に対する関心が高まり、組織全体の経営リテラシー向上に繋がります。
自計化の検討すべきデメリットと注意点
自計化はメリットばかりではありません。導入前に知っておくべきデメリットや注意点も存在します。これらを理解し、対策を講じることで、自計化の成功率を高めることができます。
導入初期の負担
最大のデメリットは、自計化体制を立ち上げる導入初期に、時間と労力という大きな負担がかかることです。
・会計ソフトの選定と導入
・ソフトへの初期設定やマスター登録
・従業員への操作指導と教育
・新しい経理ルールの整備と運用開始
特に、これまで記帳代行に頼りきりだった事業者にとっては、この「慣れるまでの壁」が最も大きな障壁となります。この時期は、税理士事務所の強力なサポートが不可欠です。
経理担当者の確保と育成の必要性
自計化を担う「人」の確保と育成は避けて通れません。
記帳代行であれば、経理の知識がなくても資料を渡すだけで済みましたが、自計化では、日々の取引を正確に「仕訳」という形に変換し、入力できる最低限の会計知識と、会計ソフトの操作スキルを持つ担当者が必要です。
もし担当者が退職してしまった場合、業務がストップしないよう、複数人での共有体制を構築することも重要になります。
誤った処理によるリスク
自社で記帳を行うということは、誤った処理をした場合、それがそのまま会社の会計データになってしまうということです。
・勘定科目を間違える
・売上計上や経費計上のタイミングを間違える
・消費税の処理を間違える
これらの処理ミスは、納税額の過不足や、金融機関からの信頼低下に直結します。そのため、自計化においては、税理士による定期的なチェックを必ずセットで導入することが、リスクヘッジとなります。
自計化導入までの具体的なステップ
自計化を成功に導くためには、闇雲に進めるのではなく、段階を踏んだ計画的な導入が重要です。ここでは、具体的な導入ステップをご紹介します。
Step 1:現状の経理業務の棚卸しと目標設定
・現状分析:現在の経理業務のフロー(誰が、いつ、何をしているか)を全て書き出し、問題点(時間がかかっている、資料が散乱しているなど)を明確にします。
・目標設定:「月次決算を翌月10日までに完了させる」「記帳代行費を〇〇円削減する」など、具体的な目標を設定します。
Step 2:最適な会計ソフトの選定と導入
自計化の「心臓部」となるのが会計ソフトです。貴社の業種、従業員数、予算、そして使いやすさを考慮して、最適なソフトを選定します。
・クラウド型かインストール型か。
・自動連携の機能は充実しているか。
・部門別管理や原価計算に対応しているか。
Step 3:経理ルールの整備と初期設定
ソフトを導入したら、全社で共有する経理ルールを策定します。
・勘定科目の統一:どの経費をどの科目で処理するかを明確にします。
・証憑(領収書など)の整理・提出ルール:誰が、いつ、どのように経理担当者に提出するかを決めます。
・ソフトの初期設定:開始残高の入力、勘定科目の設定、銀行口座との連携設定などを行います。
Step 4:担当者へのトレーニングと運用開始
実際にソフトを使って記帳業務をスタートします。
・実務トレーニング:税理士事務所の指導のもと、実際の取引データを使って入力作業を繰り返し行い、操作に慣れます。
・並行運用:最初は既存の方法と自計化の記帳を並行して行い、ミスがないか確認しながら徐々に自計化に移行します。
Step 5:税理士による定期的なチェックの実施
自計化が軌道に乗っても、すべてを自社で完結させる必要はありません。税理士による定期的なチェックは必須です。
・巡回監査:月に一度、税理士が貴社を訪問(またはオンラインで)し、記帳内容の正確性をチェックします。
・月次決算の報告:試算表に基づき、最新の経営状況、前期との比較、今後の対策などを報告し、経営アドバイスを行います。
この税理士との連携こそが、自計化のメリットを最大限に引き出し、デメリットを解消する鍵となります。
自計化を成功させるための秘訣
自計化のメリット・デメリットをご紹介してきましたが、自計化に向いている会社とはどのような会社なのでしょうか。
また、自計化を導入した場合に、成功させるための3つの秘訣をご案内します。
自計化に向いている会社とは
以下のような会社は、自計化に向いているといえます。
・経営者が数字に関心を持っている会社
月次試算表や資金繰り表をリアルタイムで確認し、意思決定に活かしたい経営者がいる会社は、自計化のメリットを最大限に享受できます。
・経理担当者が確保できる会社
記帳作業を自社で行うため、簿記やPCの基本スキルを持った経理担当者を確保できる、または教育する余裕があると自計化の導入がスムーズです。
・ITリテラシーが高い会社
クラウト会計ソフトや銀行・カードとの自動連係を活用できる会社は、効率的に自計化を進められます。
・毎月の取引件数が一定以上ある
毎月の売上・仕入・経費が多く、記帳代行に任せるとタイムラグが大きくなる会社は、自計化によってスピード感が得られます。
一方で、創業間もない企業や小規模企業で、人材に余裕がなく、経営者が本業に専念すべき段階にある場合は、まずは記帳代行を依頼し、会社の体制が整ってから自計化に移行するのが賢明な場合もあります。
自計化を成功させるための秘訣
秘訣1:社長自身が「数字」に興味を持つこと
自計化は、経理担当者だけの問題ではありません。「自社の数字をリアルタイムで見たい」という社長の強い意志が、自計化推進の最大の原動力となります。
社長が試算表や資金繰り表を毎月確認し、質問を投げかけることで、経理担当者のモチベーションも上がり、自計化の効果が最大限に発揮されます。
秘訣2:最初から完璧を目指さないこと
導入初期に「絶対に間違いのない完璧な記帳」を目指すと、担当者が疲弊し、自計化が頓挫する原因になりがちです。
まずは「取引を漏れなく入力する」ことを最優先し、勘定科目の細かな分類や税務上の判断は、税理士のチェック時に修正するというスタンスで構いません。徐々にスキルアップを目指しましょう。
秘訣3:税理士を「記帳代行業者」ではなく「経営アドバイザー」として活用すること
自計化後の税理士事務所との関係は大きく変わります。記帳という事務作業から解放された税理士は、その時間を「経営分析」や「節税対策」「事業承継」などの高度なアドバイスに充てることができるようになります。
自計化によって得られた正確でタイムリーなデータを基に、税理士を「数字から未来を語るパートナー」として最大限に活用してください。
まとめ
自計化は単なる経理の効率化ではなく、経営を強くするための大きな武器となります。 「数字をリアルタイムで把握できる会社」と「過去の数字しか見られない会社」では、意思決定のスピードも未来の成長も大きく変わります。メリット・デメリットを比較して、貴社における自計化を検討してみてはいかがでしょうか。
