中小企業や小規模事業者の皆様にとって、事業資金の調達は経営の生命線です。特に、金融機関からの融資を受ける際に、大きな助けとなるのが「信用保証協会」の存在です。
しかし、「信用保証協会の審査って、何をされるのだろう?」「どうすればスムーズに通過できるのだろうか?」といった疑問や不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、信用保証協会の審査の仕組みから流れ、重要なポイント、そして審査落ちの理由に至るまでを解説いたします。
信用保証協会の役割と保証の仕組み
まず、信用保証協会がどのような組織で、どのような役割を担っているのかを理解することが重要です。
信用保証協会の設立目的と公共性
信用保証協会は、各都道府県および一部の市に設立されている公的な機関です。その目的は、中小企業・小規模事業者が金融機関から融資を受ける際、その債務を保証することにあります。
中小企業は、大企業に比べて信用力が低いと見なされがちで、担保や保証人が不足している場合も少なくありません。そのため、金融機関もリスクを恐れ、融資に慎重になる傾向があります。
信用保証協会は、このような中小企業が抱える「信用力・担保の不足」を補完し、円滑な資金調達を支援することで、地域経済の活性化に貢献しています。この公共性の高さから、その運営には国の法律(信用保証協会法)が適用されています。
信用保証付き融資の仕組み
信用保証協会を利用した融資(保証付き融資)は、通常の融資とは異なる三角関係で成り立っています。
1.事業者(申込人):金融機関に融資を申し込みます。
2.金融機関(銀行・信用金庫など):事業者に対して融資を実行します。
3.信用保証協会:事業者が融資の返済ができなくなった場合、金融機関に代位弁済(保証債務の履行)を行います。
簡単に言えば、信用保証協会が事業者の「保証人」の役割を果たすことで、金融機関は貸し倒れリスクを大幅に軽減できるため、安心して融資を実行できるようになるのです。
事業者は、この保証の対価として、融資実行時に「信用保証料」を信用保証協会に支払います。
信用保証協会の審査プロセスと期間
信用保証付き融資を受けるためには、金融機関と信用保証協会の二段階の審査を経る必要があります。
融資・保証の申込方法
申し込み方法には、主に以下の2つのパターンがあります。
金融機関経由で申し込む(一般的)
最も一般的な方法です。事業者は取引のある金融機関の窓口で融資と信用保証の両方を申し込みます。金融機関が融資が適当と判断した場合、金融機関から信用保証協会へ必要書類と共に保証依頼が行われます。
信用保証協会に直接申し込む
事業者が、自社の事業所を管轄する信用保証協会に直接申し込みます。保証協会が審査し、保証が適当と判断した場合、事業者が希望する金融機関に融資をあっせんします。その後、あっせんされた金融機関が独自の融資審査を行います。
審査の流れ
ここでは、最も一般的な金融機関経由で申し込んだ場合の審査の流れについて説明します。
|
ステップ |
実施機関 |
主な内容 |
|
STEP 1 |
事業者 |
融資・保証の申込(金融機関へ) |
|
STEP 2 |
金融機関 |
金融機関の融資審査(事業性、資金使途、返済能力などを評価) |
|
STEP 3 |
金融機関→信用保証協会 |
保証依頼(金融機関が協会へ必要書類を提出) |
|
STEP 4 |
信用保証協会 |
保証審査(事業内容、経営計画、財務状況、経営者の信用力などを評価) |
|
STEP 5 |
信用保証協会 |
保証承諾(審査通過後、「信用保証書」を金融機関へ発行) |
|
STEP 6 |
金融機関 |
融資実行(事業者は保証料を支払い、借入金が着金) |
審査に係る期間
信用保証協会の審査期間は、おおよそ1週間から1ヶ月程度が目安とされています。ただし、申込時期(年度末などの繁忙期)や、事業の複雑性、提出書類の不備などによって前後します。
融資実行までの期間は、金融機関の審査期間も含めると、全体で1ヶ月から2ヶ月程度を見込んでおくのが一般的です。資金調達のスケジュールには余裕を持つようにしましょう。
審査に必要な提出書類
信用保証協会の審査には、多くの書類が必要となります。地域や保証制度によって多少異なりますが、一般的に求められる主な書類をまとめてご紹介します。事前にしっかりと準備することで、審査期間の短縮にも繋がります。
1.申込関連書類(所定様式)
・信用保証委託申込書、信用保証依頼書
・申込人(企業)概要書、保証人等明細
・個人情報の取扱いに関する同意書
・信用保証委託契約書(融資実行時に提出)
2.財務・経営関連書類
・確定申告書(決算書)の写し:直近2〜3期分が原則。別表や勘定科目明細を含む。
・残高試算表:決算期から6ヶ月以上経過している場合に必要となることが多いです。直近の経営状況を把握するために提出します。
・事業計画書・資金繰り表:特に創業時や、借入希望額が大きい場合に重要となります。
・納税証明書または納付書の写し:税金の滞納がないことの証明。
3.法人・個人証明書類
・商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の写し(法人のみ)
・定款の写し(法人のみ、初回の利用や創業時など)
・印鑑証明書(申込人、連帯保証人等)
4.その他必要に応じて求められる書類
・設備資金の見積書:設備投資を行う場合。
・不動産登記簿謄本:不動産を担保提供する場合。
・許認可証の写し:事業に必要な許認可がある場合。
提出書類は、正確に、漏れなく作成・準備することが大前提です。書類に不備があると、それだけで審査がストップし、期間が長引いてしまいます。
信用保証協会の審査基準
信用保証協会は、事業者の「返済能力」と「事業の将来性」を総合的に判断します。審査で特に重視される4つのポイントを掘り下げて解説いたします。
経営実績と財務内容の健全性
最も基本となるのが、過去の経営実績と現在の財務状況です。
・黒字経営の継続性:直近2〜3期の確定申告書や決算書が評価対象となります。安定して利益を計上していることが、最も強い返済能力の証明となります。
・債務超過の状況:自己資本がマイナス(債務超過)の状態は、審査上は大きなマイナス要素です。しかし、信用保証協会の保証制度には、再生支援を目的としたものもあるため、債務超過であっても、事業計画によって再建の見込みが示せれば、審査通過の可能性はあります。
・借入金の返済実績:他の金融機関からの借入金について、延滞やリスケジュール(返済条件の変更)がないかが確認されます。既存の債務に問題がないことは、信用力の基本です。
資金使途の明確性と妥当性
融資を希望する資金の「使い道(資金使途)」が、明確であり、事業にとって妥当であるかどうかが厳しく審査されます。
・事業に不可欠な資金か:設備投資、運転資金、創業資金など、具体的な使い道が示され、それが事業の維持・発展に必要不可欠であると証明できなければなりません。
・金額の妥当性:希望する融資額が、資金使途に対して適正な金額であることも重要です。例えば、売上が少ないのに過大な運転資金を希望しても、その根拠が示せない場合は妥当性が低いと判断されます。
・証憑書類の提出:設備資金であれば見積書、運転資金であれば資金繰り表など、資金使途を裏付ける具体的な書類を提出する必要があります。
事業計画の実現可能性と将来性
特に創業時や新規事業の場合、事業計画書の内容が審査の鍵を握ります。
・計画の具体性:単なる希望ではなく、「誰に、何を、どのように提供し、いくら儲けるのか」というプロセスが具体的に示されていることが求められます。市場分析、競合優位性、販売戦略などが盛り込まれている必要があります。
・収益計画の根拠:売上高や利益の予測値は、明確な根拠(例:既存顧客の増加率、新たな契約見込み、単価設定の根拠)に基づいて算出されている必要があります。
・返済計画の信憑性:事業計画に基づいて生み出される将来のキャッシュフローから、無理なく返済できる計画となっているかが重要です。
経営者自身の信用力と熱意
会社の財務状況だけでなく、経営者個人の信用力や事業に対する姿勢も重要な評価対象です。
・経営者の個人信用情報:経営者個人の借入状況や過去の返済履歴(個人版の信用情報)が確認されます。過去に自己破産や債務整理の履歴、税金の未納・滞納などがある場合、審査は非常に厳しくなります。
・事業への熱意と経験:面談を通じて、事業に対する熱意、経営者としての資質、そしてその事業分野における知識や経験が評価されます。特に創業融資の場合は、この経営者の資質が大きなウェイトを占めます。
審査に落ちる主な理由と対策
万が一、審査に落ちてしまった場合、その原因を究明し、改善することが次への成功に繋がります。審査落ちの主な理由と、それぞれの対策を解説します。
財務内容が著しく悪い
【主な理由】
・長期間の債務超過や赤字の継続:返済原資となる利益の創出能力に疑問符がつく。
・既存借入金の返済延滞やリスケジュール中:返済能力や信用力に重大な問題があると見なされる。
【対策】
・事業計画の説得力向上:赤字の原因を分析し、具体的な改善策と数値目標を盛り込んだ再建計画を示す。
・自己資本の増強:増資や、不要資産の売却などにより財務体質の改善に努める。
事業計画の信憑性・実現性が低い
【主な理由】
・売上や利益予測に根拠がない:計画が楽観的すぎたり、数字の裏付けが不足している。
・資金使途が曖昧、または不適切:融資の必要性が明確に説明できない。
【対策】
・綿密な市場調査:競合や市場の規模、顧客層を分析し、現実的な売上予測を立てる。
・専門家の活用:公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家と共に事業計画書を作成し、客観的な視点と信憑性を高める。
経営者や会社の信用情報に問題がある
【主な理由】
・経営者の個人信用情報に事故情報(延滞、債務整理など)がある。
・税金や社会保険料の未納・滞納がある:公的な債務の履行ができていない点は、信用保証協会にとって最も厳しい判断材料の一つです。
【対策】
・税金等の完納:融資申し込み前に、未納分はすべて完納しておくことが必須です。
・個人信用情報の確認:事前にご自身の信用情報を確認し、問題があれば正直に経緯を説明する準備をする。
そもそも保証の対象外である
【主な理由】
・保証の対象とならない業種に該当する(例:金融業、一部の遊興娯楽業など)。
・事業規模や所在地が協会の利用条件を満たしていない。
【対策】
・事前確認:融資申し込み前に、自社が保証対象となるかを管轄の信用保証協会や金融機関に必ず確認する。
審査を通過するためのポイント
信用保証協会の審査は、単に書類の優劣を決めるものではなく、「企業が将来にわたって健全に成長し、返済を完遂できるか」を見極めるプロセスです。審査通過の可能性を最大限に高めるためのポイントを解説します。
申込前の金融機関との関係構築
信用保証付き融資は、金融機関を経由することが多いため、金融機関との良好な関係が非常に重要です。
・日頃からの取引:メインバンクとして日頃から預金や決済などの取引を行い、経営状況をオープンに共有しておきましょう。
・金融機関の「所見」:金融機関は、保証協会へ保証依頼をする際、「この企業は融資に値する」という所見を添えます。この金融機関からの推薦状とも言える所見が、審査に大きな影響を与えます。
面談での対応力と準備
信用保証協会の担当者との面談は、書類だけでは伝わらない経営者の熱意や資質を伝える最大のチャンスです。
・事業の「物語」を語る:単なる数字の羅列ではなく、なぜこの事業を始めたのか、どのような困難を乗り越えてきたのか、そして今後どのように地域社会に貢献したいのか、という物語を熱意をもって語りましょう。
・質問への即答:資金繰りや事業計画のキーとなる数値(例:損益分岐点売上高、原価率など)については、即座に、正確に答えられるように準備しておきましょう。
創業融資の場合の「自己資金」の重要性
創業融資で信用保証協会を利用する場合、自己資金の存在は極めて重要です。
・計画性を示す証拠:自己資金は、事業に対する準備期間の長さと計画性、そして経営者自身の覚悟を示す客観的な証拠となります。
・「見せ金」は厳禁:直前になって一時的に誰かから借り入れた資金(見せ金)は、通帳の履歴から必ず見抜かれます。自己資金は、過去から継続的に貯蓄されたものである必要があります。
保証制度の選択
信用保証協会には、以下の保証制度のほか、様々な保証制度があります。
・一般保証:広く使われる基本的な制度。
・セーフティネット保証、危機関連保証:自然災害や社会情勢の変化などで経営に影響が出た際に利用できる制度。
・創業関連保証:創業間もない事業者を対象とした制度。
自社の状況に最も適した保証制度を選ぶことで、審査をスムーズに進めることができます。金融機関や信用保証協会の窓口で、積極的に相談しましょう。
まとめ
信用保証協会の審査は、厳格なプロセスではありますが、その目的は中小企業の皆様が無理なく、健全な成長を続けられるよう支援することにあります。
審査に臨む際は、自社の強みを再認識し、明確な資金使途と実現可能な事業計画をもって、金融機関と信用保証協会に誠実に臨むことが何よりも大切です。
