コラム

column
2025.12.15

法人設立届出書の提出期限を過ぎてしまった場合の対応とペナルティ

今回は、法人を設立されたばかりのお客様からご相談いただくことも多い、「法人設立届出書の提出期限を過ぎてしまった場合」の対応と、それに伴う影響について、詳しく解説させていただきます。

提出期限を過ぎてしまったからといって、過度に心配する必要はありませんが、適切な手続きと理解が求められます。本記事では、期限を過ぎてしまった場合の具体的な対処法、想定されるペナルティ、そして今後の事業運営で注意すべき点まで、税理士の視点から詳細にご説明いたします。

法人設立届出書とは? その重要性と提出期限

まず、「法人設立届出書」がどのような書類であり、なぜ重要なのか、そして本来の提出期限について再確認しましょう。

法人設立届出書の法的意義

「法人設立届出書」は、会社法に基づく設立登記(法人登記)を完了した後、その事実を税務署、都道府県税事務所、および市町村役場に届け出るための書類です。これは、法人が事業活動を開始し、法人税、法人住民税、法人事業税などの税金を納める義務が発生したことを行政に通知する、極めて重要な手続きとなります。

この届出書を提出することで、税務当局は貴社を正式な納税義務者として認識し、税務上の様々な権利(例:青色申告の承認申請)や義務(例:確定申告)が発生することになります。

提出先と提出期限

法人設立届出書は、提出先によってそれぞれ期限が異なりますので、注意が必要です。

提出先

届出書の名称(主なもの)

提出期限

税務署

法人設立届出書

設立の日以後2ヶ月以内

都道府県税事務所

法人設立届出書

設立の日以後概ね15日~1ヶ月以内(自治体により異なる)

市町村役場

法人設立届出書

設立の日以後概ね15日~1ヶ月以内(自治体により異なる)

(注1)上記の提出先は、法人の本店所在地(登記簿謄本上の住所)を管轄する所轄の税務署、都道府県税事務所、および市町村役場となります。管轄外の窓口に提出しても正式な提出とは認められませんので、事前に国税庁や自治体のホームページで管轄区域を確認してください。

 

(注2) 設立の日とは、登記簿に記載されている登記年月日(会社成立の年月日)を指します。

この中で、特に税務上の手続きの基盤となるのが、税務署への提出期限「設立の日以後2ヶ月以内」です。この期限を過ぎてしまった場合の影響について、次項で詳しく見ていきましょう。

「期限過ぎ」が引き起こす主な問題点

法人設立届出書、特に税務署への提出が期限に遅れた場合、「提出しなかったこと」自体に対する直接的な罰則(罰金など)は原則として設けられていません。

しかし、この書類の提出遅れは、その後の税務上の手続きや、会社の税負担において非常に大きな間接的影響を及ぼします。

青色申告の承認申請に間に合わないリスク(最も深刻な影響)

法人設立届出書の提出遅れによる最も深刻な影響は、「青色申告の承認申請」の機会を逃してしまうリスクです。

青色申告のメリット:

・欠損金の繰越控除(赤字を翌期以降に繰り越して、将来の黒字と相殺できる)

・特別償却や税額控除などの各種税制上の優遇措置

・少額減価償却資産の特例(30万円未満の資産を一括経費計上できる)

青色申告の承認申請の期限:

・法人設立届出書とは別に、「青色申告の承認申請書」を提出する必要があります。

・その期限は、「設立の日以後3ヶ月を経過した日」と「設立事業年度終了の日」のいずれか早い日の前日までです。

: 41日設立、決算期331日の場合、71日の前日、つまり630日が期限。

法人設立届出書が提出されていなくても、青色申告の申請自体は可能ですが、実務上、税務署が貴社の存在を把握し、他の関連書類(給与支払事務所等の開設届出書など)と連携させる上でも、設立届出書が先に提出されていることが前提となります。

設立届出書の提出が遅れ、その後の青色申告の申請手続きにも遅れが生じて、青色申告の承認期限を過ぎてしまうと、その事業年度は自動的に「白色申告」となってしまいます。白色申告では上記の青色申告のメリットを一切受けることができません。特に設立初期に赤字(欠損金)が発生した場合、その繰越控除ができないことは、将来の税負担に大きく影響します。

源泉徴収義務の認識遅れ

法人を設立した場合、法人設立届出書の提出に加え、役員報酬や従業員給与を支払う場合には、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出する必要があります。この届出書には、給与の支払開始日や支払方法などを記載します。

これらの届出が遅れると、税務署は貴社が給与や税理士などの専門家への報酬を支払っている事実を速やかに把握できません。

給与や報酬の支払者は、支払開始時点から源泉所得税を徴収し、原則として翌月10日までに納付する義務がありますが、届出が遅れることで、源泉徴収義務の開始時期に対する認識が曖昧になり、結果として事務処理や納付漏れなどのリスクが生じる可能性があります。

各種届出書の提出遅延連鎖

法人設立届出書は、以下の他の重要な税務書類の提出の前提やきっかけとなることが多くあります。

1.青色申告の承認申請書

2.給与支払事務所等の開設届出書

3.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

4.申告期限の延長の特例の申請書

5.適格請求書発行事業者の登録申請書

設立届出書の遅延は、これらの書類の提出スケジュールにも影響を及ぼし、結果的に税務上の優遇措置の適用遅延や、納付手続きの混乱を招く連鎖的な問題を引き起こします。

法人設立届出書の提出期限を過ぎてしまった場合の具体的な対処法

期限を過ぎてしまったことが判明した場合でも、落ち着いて迅速に対応することが重要です。

すぐに全ての届出書を作成し、提出する

まず、提出期限を過ぎてしまった事実は変えられませんが、一刻も早く、以下の3つの提出先に対する全ての法人設立届出書を作成し、提出してください。

・税務署

・都道府県税事務所

・市町村役場

【提出方法の推奨】

現在では、行政手続きのデジタル化が進んでおり、e-Tax(税務署向け)やeLTAX(エルタックス:都道府県・市町村向け)を利用した電子提出が最も推奨される方法となっています。

電子提出のメリット:

・24時間いつでも提出可能で、窓口に行く時間や郵送の手間がかかりません。

・控えのデータが残り、紛失のリスクを低減できます。

・eLTAXは地方税に関する届出を一本化できるため、複数の地方自治体へ個別に提出する手間が省けます。

ただし、e-TaxeLTAXの環境整備(電子証明書の取得やPCの設定など)に時間がかかる場合や、届出期限(特に青色申告の承認申請)が非常に差し迫っている場合は、窓口に持参する方法や、郵送で提出することも可能です。

郵送の場合、税務手続に関する書類の提出日は、原則として税務官庁に書類が到達した日となります(到達主義)。

ただし、納税申告書(添付書類及び関連して提出する書類を含む。)や提出時期に具体的な制約がある書類(後続の手続に影響を及ぼすおそれのある書類を除く。)については、その書類が郵便や 信書便により提出された場合、その郵便物や信書便物の通信日付印により表示された日が提出日とみなされます(発信主義)。

提出書類に遅延理由を付記する(任意だが推奨)

法人設立届出書自体には、遅延理由を記載する欄はありませんが、提出の際に簡単な「別紙」として、遅れてしまった理由と、今後は期限を厳守する旨を記載したメモを添付することが、丁寧な対応として推奨されます。

記載例:

「この度、提出期限を過ぎてしまいましたが、設立当初の多忙により事務手続きに遅れが生じました。今後は期限厳守で対応いたします。」

これは、直接的なペナルティ回避につながるものではありませんが、税務当局に対し、貴社の真摯な姿勢を示すことができます。

青色申告の承認申請書の提出期限を最優先で確認する

提出遅延が判明した時点で、最も重要なのは「青色申告の承認申請書の提出期限がまだ間に合うか」を確認することです。

まだ間に合う場合:

・設立届出書と同時に、または設立届出書の提出後、すぐに青色申告の承認申請書を提出してください。

・設立届出書の遅延が、青色申告の申請に間に合わない直接的な理由とならないよう、細心の注意を払ってください。

期限が過ぎてしまっている場合:

・残念ながら、設立事業年度は白色申告となります。

・次期(翌事業年度)からは青色申告を適用するために、設立事業年度の確定申告書の提出期限までに、青色申告の承認申請書を提出する必要があります。期限は「翌期首の日の前日」です。この機会を逃さないようにしてください。

税理士に相談する

提出遅延が判明した場合、または青色申告の期限が迫っている場合は、直ちに専門家である税理士にご相談ください。

税理士は、遅延の状況を正確に把握し、青色申告の申請期限を含めた全ての税務手続きを迅速かつ正確に代行することが可能です。また、届出書以外の関連書類の作成・提出についても、漏れがないようにサポートさせていただきます。

期限を過ぎた場合のペナルティ(直接的な罰則)について

前述の通り、法人設立届出書を期限内に提出しなかったことによる金銭的な直接のペナルティ(罰金や過料)は、法人税法上、定められていません。

これは、法人税法自体が申告納税制度に基づいており、期限内に申告・納税を行わなかった場合に「無申告加算税」や「延滞税」などのペナルティが課される構造となっているためです。設立届出書は、申告手続きの前提となる情報提供の書類であり、これ自体が納税を伴うものではないためです。

しかし、繰り返しになりますが、間接的な不利益、特に青色申告の優遇措置を失うことによる将来の税負担増は、金銭的なペナルティ以上に大きな痛手となる可能性があります。

期限後提出と税務調査の関係

提出が遅れたことで、「税務調査が入りやすくなるのではないか」とご懸念される経営者様もいらっしゃいます。

法人設立届出書の提出遅延のみが、直ちに税務調査のトリガーとなる可能性は低いと考えられます。税務調査は、売上や利益、業種の特性、申告内容の異常値などを総合的に判断して選定されます。

しかし、設立当初の必須書類の提出に遅延が見られるということは、税務署側から見れば、「税務に対する意識が低い」「管理体制が不十分」と映る可能性は否定できません。これは、将来的な調査選定基準の「注意ポイント」の一つになる可能性はあります。

まとめと今後の注意点

法人設立届出書の提出期限を過ぎてしまった場合、「罰金はないが、青色申告のチャンスを失うリスクが最大の問題である」という点を理解いただけたかと思います。

遅延後のアクション・チェックリスト

項目

アクション

重要度

即時提出

税務署、都道府県、市町村の全ての設立届出書を直ちに提出する。

青色申告確認

青色申告の承認申請書の提出期限が間に合うかを最優先で確認する。

最高

関連書類

給与支払事務所等の開設届出書など、他の関連書類も同時に提出する。

専門家相談

提出期限が迫っている、または過ぎてしまった場合は、速やかに税理士に相談する。

今後の事業運営での留意事項

今回の件を教訓とし、今後の事業運営においては、以下の税務上の期限管理を徹底することが重要です。

1.税務カレンダーの作成: 法人税、消費税、源泉所得税、償却資産税などの申告・納付期限を一覧にしたカレンダーを作成し、管理部門で共有しましょう。

2.専門家の活用: 税理士に顧問を依頼することで、このような届出書の提出期限管理はもとより、日々の記帳や決算業務を専門家に任せることができ、経営者様は本業に集中できます。

3.設立届出書の控えの保管: 提出した全ての設立届出書の控えは、会社にとって最も重要な書類の一つとして、厳重に保管してください。金融機関からの融資や各種行政手続きで提示を求められることがあります。

最後に:迅速な対応で不利益を最小限に

法人設立届出書の提出遅延は、設立当初の慌ただしい時期には起こりがちなミスです。しかし、重要なのは、その事実に気づいたときに、どれだけ迅速かつ正確に対応できるかです。

期限を過ぎた場合でも、すぐに行動を起こし、特に青色申告の承認申請に間に合うよう適切な手続きを踏むことで、ほとんどの不利益は回避できます。

当事務所では、法人設立後の税務手続き全般にわたるサポートを提供しております。もし、設立届出書の提出遅延や、その他の税務手続きについてご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

貴社の事業がスムーズにスタートし、着実に成長していくよう、税務面から全力でサポートさせていただきます。

お読みいただきありがとうございました。

【当事務所の次の一歩のご提案】

貴社の設立年月日をお教えいただけますでしょうか?

青色申告の承認申請の正確な期限を確認し、期限に間に合うよう、必要な届出書の作成・提出をサポートさせていただくことが可能です。