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2025.11.04

NPO法人とは?NPO法人を設立するには?基礎知識から設立手続きまでを解説します

「地域のために何かしたい」「社会課題の解決に取り組みたい」 そんな思いを形にする方法のひとつが「NPO法人の設立」です。NPO法人は、営利を目的とせず、公益性のある活動を行う団体に法人格を与える制度であり、社会的信用や活動の幅を広げるために非常に有効です。

最近では、SDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりもあり、単なるボランティア活動にとどまらず、社会的なミッションを掲げ、継続的かつ安定的に活動を行うNPO法人への注目が集まっています。

しかし、「NPO法人って、何だか難しそう」「設立の手続きが複雑そう」と感じて、なかなか最初の一歩が踏み出せない方も多いのではないでしょうか。

今回は、NPO法人を設立したいと考える皆さまが、不安なく手続きを進められるように、「NPO法人とは何か」という基礎知識から、具体的な設立手続き、設立後の運営や税務に至るまでを、わかりやすく解説していきます。

NPO法人とは?

まずは、NPO法人の基礎知識を理解していきましょう。

NPO法人の定義と目的

NPO法人とは「特定非営利活動法人」の略称で、1998年に施行された「特定非営利活動促進法(NPO法)」に基づいて設立されます。その名称にもある通り、以下の2つの大きな特徴を持っています。

1.特定非営利活動を行うこと:

「特定非営利活動」とは、NPO法で定められた以下の20種類の分野に該当する活動であり、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することを目的とするものです。

・保健、医療又は福祉の増進を図る活動

・社会教育の推進を図る活動

・まちづくりの推進を図る活動

・観光の振興を図る活動

・農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動

・学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動

・環境の保全を図る活動

・災害救援活動

・地域安全活動

・人権の擁護又は平和の推進を図る活動

・国際協力の活動

・男女共同参画社会の形成の促進を図る活動

・子どもの健全育成を図る活動

・情報化社会の発展を図る活動

・科学技術の振興を図る活動

・経済活動の活性化を図る活動

・職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動

・消費者の保護を図る活動

・前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動

・前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動

「非営利」とは、「利益を出してはいけない」という意味ではありません。事業で得た利益を、株式会社のように出資者や役員に分配せず、活動目的のために再投資する(使途を限定する)という意味です。

2.法人格を持つこと:

設立の認証を受けることで、「法人」として認められ、個人とは切り離された権利義務の主体となります。これにより、法人名義での契約、銀行口座開設、不動産登記などが可能になり、社会的な信用も向上します。

NPO法人と他の組織との違い

NPO法人と任意団体、一般社団法人、株式会社との違いを整理します。

組織の種類

法人格の有無

営利性の有無(目的)

設立の容易さ

主なメリット

NPO法人

非営利(社会貢献)

中(認証が必要)

社会的信用、税制優遇の可能性、契約主体になれる

任意団体

 

問わない

高(手続不要)

手軽に始められる

一般社団法人

非営利(事業内容に制限なし)

高(登記のみ)

迅速な設立、事業の自由度が高い

株式会社

営利(利益の追求と分配)

高(登記のみ)

資金調達の容易さ、高い経済活動力

NPO法人は、「公益性の高い活動を、法人としての信用力を持って継続的に行いたい」場合に最適な形態と言えます。

NPO法人設立のメリットとデメリット

設立手続きの前に、NPO法人を選ぶことの具体的な利点と、注意すべき点を確認しておきましょう。

設立のメリット

1.社会的信用の向上

都道府県または政令指定都市の認証を受け、法人登記を行うことで、公的なお墨付きを得ることができ、社会的な信頼度が高まります。これにより、行政や企業からの委託事業、助成金・補助金の獲得がしやすくなります。

2.契約行為がスムーズになる

法人名義で事務所の賃貸借契約、銀行口座の開設、職員の雇用契約などが可能となり、組織としての活動が円滑になります。

3.税制上の優遇措置

原則として、収益事業から生じた所得にのみ法人税が課税されます(収益事業以外の活動から得た会費や寄付金などは非課税)。

さらに、要件を満たして「認定NPO法人」や「特例認定NPO法人」の認定を受けると、寄附金が税額控除の対象となり、寄附を集めやすくなります。(これは大きなアドバンテージです!)

4.設立費用が抑えられる

株式会社は資本金1円以上の設立となりますが、NPO法人は資本金が不要であり、登録免許税などの設立時に必要な費用も発生しません。法人登記等に数十万円の費用がかかる株式会社に比べ、少額での設立が可能です。

設立のデメリット(注意点)

1.設立に時間と手間がかかる

法務局への登記のみで設立できる株式会社や一般社団法人と異なり、所轄庁(都道府県や政令指定都市)への「設立認証申請」が必要です。この手続きには、準備期間を含めて4カ月から半年以上かかることが一般的です。

2.情報公開義務

設立後も、毎年の事業報告書、活動計算書、貸借対照表、役員名簿などを所轄庁に提出し、一般に公開する義務があります。透明性が求められる反面、事務負担が増加します。

3.設立時の構成員要件

設立にあたり、10名以上の社員(総会で議決権を持つメンバー)が必要です。この人数を集めることが、最初のハードルになることがあります。

NPO法人設立の具体的なステップと手続き

いよいよ具体的な設立手続きに入ります。NPO法人の設立は、大きく分けて「準備段階」「申請・認証段階」「設立登記段階」の3つのステップで進みます。

設立のための準備段階

1.設立要件の確認

NPO法人が満たすべき要件は以下の通りです。

・特定非営利活動を行うことを主たる目的とすること

・営利を目的としないものであること(利益を分配しないこと)

・社員の資格の得喪に関して、不当な条件を付さないこと

・役員のうち報酬を受ける者の数が、役員総数の1/3以下であること

・宗教活動や政治活動を主たる目的とするものでないこと

・特定の公職者(候補者を含む)又は政党を推薦、支持、反対することを目的とするものでないこと

・暴力団又は暴力団、若しくはその構成員、若しくはその構成員でなくなった日から5年を経過しない者の統制下の下にある団体でないこと

・10人以上の社員を有するものであること

2.定款の作成

定款は、法人の活動の目的、組織、運営に関する基本的なルールを定めた、いわば法人の憲法です。NPO法で定められた必要的記載事項(目的、名称、活動の種類、事務所の所在地、社員の資格の得喪に関する事項、役員に関する事項、会議に関する事項、資産に関する事項、会計に関する事項など)をすべて網羅し、活動内容に即した内容を作成します。

3.設立総会の開催

定款の原案や役員の選任、設立の意思決定などを確認するために設立総会を開催します。

総会では、議事録を作成し、後で所轄庁への提出書類とします。

この時点で、社員10名以上の同意が必要です。

設立認証の申請と審査

設立総会終了後、定款や各種の必要書類を揃えて、所轄庁(都道府県または政令指定都市)に設立認証の申請を行います。

1.提出書類の準備

申請に必要な主な書類は以下の通りです。

・定款

・役員名簿(住所、氏名、報酬の有無などを記載)

・役員の就任承諾書及び誓約書の謄本

・役員の住所又は居所を証する書面

・社員のうち10人以上の氏名及び住所又は居所を示した書面

・認証要件に適合することを確認したことを示す書面

・設立趣旨書

・設立についての意思の決定を証する議事録の謄本

・設立当初の事業年度及び翌事業年度の事業計画書

・設立当初の事業年度及び翌事業年度の活動予算書

2.縦覧(じゅうらん)と審査

所轄庁は申請を受理した後、書類の一部を2週間、一般に縦覧(公開)します。これは、広く市民からの意見を聞くための期間です。縦覧期間終了後、所轄庁により2カ月以内に認証・不認証の審査が行われ、結果は書面により通知されます。

審査期間は、縦覧期間を含めて約3ヶ月が目安です。

審査では、法で定められた設立要件を満たしているか、活動内容に違法性がないかなどが確認されます。

3.認証書の交付

審査をクリアすると、所轄庁から設立認証書が交付されます。これで、「NPO法人になる資格」を得たことになります。

設立登記の完了

認証書を受け取っただけでは、まだ法人は成立していません。

1.法務局での設立登記

認証書が交付されてから2週間以内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局で設立の登記を行います。

登記申請をした日が、NPO法人の設立日となります。

登記には、設立認証書や定款、役員の就任承諾書などの書類が必要です。

2.設立完了の届出

登記完了後、遅滞なく、登記事項証明書およびNPO法人成立時に作成する財産目録を添えて、その旨を所轄庁に届出をします。

これをもって、NPO法人設立手続きのすべてが完了となります。

設立後の運営と税務・会計の注意点

NPO法人は、設立後も健全で透明性の高い運営が求められます。特に税務・会計は専門性が高いため、注意が必要です。

運営上の重要事項

1.事業報告書の提出

NPO法人は、毎事業年度終了後、3ヶ月以内に以下の書類を所轄庁に提出し、一般の閲覧に供する義務があります。

・事業報告書

・活動計算書

・貸借対照表

・財産目録

・役員名簿

・社員のうち10名以上の名簿

これらの書類作成は、法人運営の透明性を確保し、社会からの信頼を維持するために極めて重要です。

2.役員の改選と届出

役員(理事・監事)の任期は原則2年以内と定められています。任期満了に伴う改選や、役員に変更があった場合は、必ず所轄庁への届出と、法務局での変更登記が必要です。この登記を怠ると、過料が科される可能性がありますので、厳重な管理が必要です。

税務・会計の基本

NPO法人の会計は、一般の企業会計とは異なる「NPO会計基準」に則って行われることが推奨されています。

1.課税される事業(収益事業)と非課税の事業

NPO法人の所得は、以下の通り、大きく2つに分けられます。

①収益事業(課税対象)

法人税法で定める34種類の事業(物品販売業、請負業、出  版業、各種サービス業など)に該当し、継続して事業場を設けて行われるもの。

これらの事業から生じた所得(利益)に対して法人税、事業 税、住民税が課税されます。

収益事業に該当するか否かの判断は、活動の実態に基づき、税理士の専門的な判断が必要となるケースが多いです。

②非収益事業(非課税)

会費、寄付金、特定非営利活動に直接付随する事業(例:ボ ランティアへの実費弁償)など、収益事業に該当しない活動から得られた収入。

原則として課税されません。

収益事業と非収益事業の区分けを明確にし、それぞれの活動にかかる費用を適切に配分(按分)して計算することが、正確な税務申告の鍵となります。この「区分経理」が非常に重要で、設立当初から税理士と相談しながら会計システムを構築することをお勧めします。

2.設立後の税務署への届出

設立登記が完了した後、税務関係の届出が必要になります。

・法人設立届出書:設立から2ヶ月以内に所轄の税務署へ提出

・収益事業開始届出書:収益事業を開始した日から2カ月以内に所轄の税務署へ提出

・青色申告の承認申請書:収益事業を行う場合は提出を検討

・給与支払事務所等の開設届出書:給与を支払う場合

さらに、地方自治体に対しても、都道府県税事務所、市区町村役場への届出が必要です。これらの届出漏れは、後の税務処理に影響しますので、抜け漏れがないように注意しましょう。

認定NPO法人

NPO法人として、さらなる社会貢献を目指す上で、「認定NPO法人」の取得は大きな目標となります。

認定NPO法人のメリット

「認定NPO法人」とは、NPO法人のうち、活動内容や組織運営、情報公開などが特に適正であると所轄庁から認定を受けた法人のことです。

最大のメリットは、「寄附者の税制優遇」です。

認定NPO法人への寄附金は、所得税、法人税、相続税、個人住民税において優遇措置(特に所得税では税額控除)の対象となります。

これにより、寄附する側のメリットが大きくなるため、一般の方々や企業からの寄附を集めやすくなり、活動資金の安定化に大きく寄与します。

認定NPO法人の要件

認定NPO法人になるには、以下の要件が定められています。

・パブリック・サポート・テストに適合すること

・事業活動において、共益的な活動の占める割合が、50%未満であること

・運営組織及び経理が適切であること

・事業活動の内容が適切であること

・情報公開を適切に行っていること

・事業報告書等を所轄庁に提出していること

・法令違反、不正の行為、公益に反する事実がないこと

・設立の日から1年を超える期間が経過していること

パブリック・サポート・テスト(PST)とは、どれだけ広く市民からの支援を受けているかを測る基準であり、認定基準のポイントとなるものです。

PSTの判定にあたっては、以下のいずれかの基準を選択することができます。

・相対値基準(寄附金収入の割合): 経常収入金額に占める寄附金等の割合が一定基準以上であること。(原則として20%以上)

・絶対値基準(寄附者の人数): 3,000円以上の寄附者数が、年間平均100人以上であること。

・個別の条例指定:事務所のある地方公共団体から、個人住民税の寄附金税額控除の対象となる法人として個別に指定を受けていること。

認定NPO法人の要件は非常に厳格で、クリアするためには設立当初からの計画的な資金調達活動と、透明性の高い組織運営が不可欠です。

まとめ

NPO法人の設立は、社会貢献の想いを実現するための非常に強力なツールです。法人格を持つことで、活動の継続性と信用力が飛躍的に向上し、より大きな社会的インパクトを生み出すことが可能になります。

ただし、設立手続きに時間がかかったり、設立後の事務負担が増えるというデメリットもあるので、十分な比較検討が大切です。