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2025.10.08

合同会社の役員制度とは何か~知っておくべき「社員」の役割から税務上の注意点~

合同会社という言葉を聞いたとき、どのようなイメージをお持ちでしょうか?株式会社に比べて設立費用が安く手続きもシンプルであることから、近年、個人事業主の法人成りやスモールビジネスを始める際の選択肢として人気が高まっています。しかし、その手軽さゆえに、株式会社とは異なる独自のルールや、「役員」にまつわる特有の概念を十分に理解していない方も少なくありません。

特に、合同会社では「社員」という言葉が持つ意味が、一般的に使われる「従業員」とはまったく異なります。この違いを正しく理解していないと、後々、思わぬトラブルや税務上の不利益を招く可能性があります。

今回は、合同会社の役員について、その役割から、株式会社との違い、税務における注意点まで解説します。

合同会社の役員制度

合同会社の特徴と役員

合同会社は、2006年の会社法改正により新たに創設された法人形態で、株式会社に比べて設立費用が安く、運営が柔軟であることから、近年多くの起業家やフリーランスの方に選ばれています。

合同会社の最大の特徴は、「社員(出資者)」が会社の所有者であり、同時に経営者でもある点です。株式会社のように「株主」と「取締役」が分かれている構造とは異なり、合同会社では出資者自身が業務執行を行うことができます。

この「社員」が、合同会社における役員に相当する存在です。合同会社では、原則としてすべての社員が業務執行権を持ちますが、定款で業務執行社員を限定することも可能です。

株式会社との違い

合同会社の役員制度は、株式会社とは大きく異なります。以下に、主な違いを整理しました。

項目

株式会社

合同会社

所有と経営

分離(株主と取締役)

一体(社員が経営)

役員の名称

取締役、代表取締役など

業務執行役員、代表社員

役員の任期

原則2年(定款で変更可・最長10年)

任期なし(定款で定めることも可能)

役員の選任方法

株主総会で選任

社員間の合意または定款で定める

このように、合同会社では「社員」が役員としての役割を担い、会社の意思決定や業務執行を行います。社員の人数や構成によって、会社の運営体制は大きく変わるため、設立時にしっかりと設計することが大切です。

合同会社の社員の役割

合同会社の役員、すなわち社員の特徴・役割を確認していきます。

業務執行社員

「業務執行社員」とは、合同会社において経営上の実務(業務執行)を担当する社員のことです。社員全員を業務執行社員とすることもできますし、一部の社員に業務執行を任せ、それ以外の社員は出資のみを行う、と定めることもできます。

(1)業務執行社員を定めるメリット

・出資はしたものの経営に参加したくない社員を区別することで、責任・役割を明確にできます。

・意思決定をスムーズにできる体制をつくることができます。社員全員が業務を執行する形だと、意思決定のプロセスが冗長になることがありますが、業務執行社員を定めておけば、定款で過半数などのルールを設けて決議を行うことができます。

(2)業務執行社員にならない社員

業務執行社員でない社員は、会社の業務執行に参加しません。経営判断には関与しないかわりに、会社の財務内容や業務状況を調査する権利を持つなど、出資者としての一定の権利は保持されます。

(3)業務執行役員の義務と責任

・善管注意義務・忠実義務

善良な管理者の注意をもって、法令および定款を遵守して、忠実にその職務を行わなければなりません。

・報告義務

会社や他の社員から請求があるときは、いつでもその職務の執行の状況を報告し、その職務が終了した後は、遅滞なくその経過および結果を報告しなければなりません。

・競合の禁止

会社と競合する業務を行う場合には、他の社員の承認を得なければなりません。また、同業種の会社の役員等になることはできません。

・利益相反取引の制限

自己または第三者のために会社と取引する、会社が業務執行役員の債務を保証する、その他業務執行役員が利益相反取引をする場合は、定款に定めがない限り、社員の過半数の承認を受けなければなりません。

業務執行役員が任務を怠ったときや、職務について悪意または重大な過失があった場合は、損害賠償責任が発生します。

(4)業務執行役員の変更

業務執行社員を変更する場合は、以下の手続きが必要です。

・社員間の合意または定款変更による決定

・法務局への登記申請(変更後2週間以内)

登記を怠ると、過料(罰金)を科される可能性があるため、注意が必要です。

代表社員

「代表社員」は、合同会社において会社を対外的に代表する者のことであり、株式会社でいうところの「代表取締役」に相当します。代表社員は、業務執行社員の中から選定され、会社の代表として契約の締結等を行います。

業務執行社員が1人であれば、その業務執行社員が自動的に代表社員となります。複数の業務執行社員がいる場合は、一般的にはその中から代表社員を選びます。代表社員を選定していない場合は、業務執行役員全員が代表社員となります。

代表社員を変更する場合も、業務執行役員の変更と同様に、定款の変更および法務局への登記が必要です。特に、代表社員が変更されたにもかかわらず登記がされていない場合、契約の有効性や対外的な信用に影響を及ぼす可能性があります。

職務執行者

合同会社では、社員が法人であるケースがあります。法人自体はひとつの法的主体ですが、実際に経営業務を執行するのは人です。そこで、「職務執行者」を定め、職務執行者は法人社員の代表としてその法人に代わり経営を担います。

職務執行者を選任した場合、他の社員に通知することが義務付けられています。特に、代表社員が法人である場合、その職務執行者の氏名・住所を登記しなければなりません。

また、職務執行者は善管注意義務など、業務執行社員が負う義務と同様の責任が課されます。法人であっても、人を通じて責任の所在を明確にするための制度です。

役員の任期・登記の実務事項

合同会社の役員制度を設計・運用する際に実際に気を付けるべき事項を整理します。

任期

合同会社では、業務執行社員や代表社員に「任期」の規定が、法律上義務付けられていません。株式会社では役員の任期が定められており、それを過ぎると再任などの手続きが必要ですが、合同会社では定款で任期を定めない限り、就任したまま継続することが可能です。これは、合同会社を設立・運営する上で以下のようなメリットを享受することができます。

・コスト削減

任期満了ごとに発生する登記費用や司法書士への報酬を削減できます。

・手続の簡素化

役員の重任手続きが不要なため、事務作業が大幅に軽減されます。

長期的な経営体制

役員が辞任や解任しない限り、安定した経営体制を維持できます。

任期がないということは、一度社員になった場合、その地位は基本的に生涯続くということです。社員が辞任や死亡、あるいは解任された場合に限り、変更登記が必要となります。

登記手続き

合同会社の業務執行社員は氏名が、代表社員については氏名に加え住所も登記簿に記載されます。また、法人が代表社員である場合は、職務執行者の氏名と住所が登記されます。

代表社員や業務執行役員の変更など、登記内容に異動があった場合も、登記が必要です。この変更登記は、事由が発生した日から2週間以内に行うことが定められています。これを怠ると過料の対象となるため、忘れずに行うようにしましょう。

役員制度における注意点

合同会社における役員制度において、設立時および役員報酬における注意点を確認します。

役員制度の設計ポイント

合同会社では、定款で自由度を持って役員制度を設計できます。以下、検討すべきポイントになります。

・業務執行役員を定めるかどうか

全員に業務執行権を与えるか、一部に限定するか。限定するのであれば、誰が業務執行社員か、どういう決議・報告義務を課すかを定款で明確にしておくことが必要です。

・代表社員の数・選び方・交代の手順

代表社員は通常1人とすることが多いのですが、複数の代表社員を設けることも可能です。定款で代表社員の選任方法、任期、交代方法などを定めておくと後でトラブルが少なくなります。

・職務執行者の設置

社員が法人である場合には職務執行者の設置が法律で義務付けられています。職務執行者の承諾・氏名・住所などを他の社員に通知すること、定款上に資格要件を設けることも可能です。

・責任・義務の明確化

業務執行社員や代表社員にどのような義務を課すか(善管注意義務・忠実義務など)、利益相反取引時の承認手続などを定款で規定しておくことが有用です。

役員報酬の注意点

合同会社の社員が会社から受け取る報酬は、税務上「役員報酬」として扱われます。この役員報酬には、法人税法で定められた厳格なルールがあり、これを守らないと経費として認められず、法人税の負担が増加するリスクがあります。

(1)定期同額給与の原則

役員報酬は、原則として「定期同額給与」でなければ損金(経費)に算入できません。これは、毎月同じ金額の報酬を支払うというルールであり、改定時期は原則として期首から3カ月以内です。

例えば、4月から翌年3月までを事業年度とする会社で、4月に役員報酬を月額30万円と決めたとします。この金額は、原則としてその事業年度中、変更することはできません。もし、途中で会社の業績が良くなったからといって、8月から報酬を40万円に増やした場合、増額した10万円分(10万円×8ヶ月=80万円)は損金として認められません。

このルールは、会社の業績に応じて役員報酬を恣意的に変動させ、法人税の負担を不当に減らすことを防ぐために設けられています。

(2)役員賞与の取り扱い

株式会社と同様に、合同会社の社員に支払われる役員賞与は、原則として損金に算入することができません。

ただし、「事前確定届出給与」を利用すれば、例外的に損金として認められます。これは、役員賞与を支給する期日と金額を事前に税務署に届け出ておくことで、損金算入が可能となる制度です。

・事前確定届出給与の注意点

①届け出た金額と異なる金額を支払うと、全額が損金不算入になるリスクがあります。

②提出期限から1日でも遅れると、損金算入されません。提出期限は、株主総会などの決議をした日から1カ月を経過する日または事業年度開始から4カ月を経過する日のいずれか早い日です。

よくある質問

ここでは、合同会社の役員に関してよくある疑問や、トラブルになりやすいケースをあげ、対応策も含めて紹介します。

Q1. 合同会社には取締役や監査役は必要ですか?

いいえ、合同会社には株式会社のような「取締役」や「監査役」といった役職は存在しません。合同会社では「社員」が出資者であり、業務執行者でもあります。必要に応じて「代表社員」を定めることで、会社を代表する役割を担うことができます。

Q2. 社員が1人でも合同会社は設立できますか?

はい、可能です。社員が1人だけでも合同会社を設立することができます。この場合、業務執行社員と代表社員を兼任する形となり、意思決定もすべて自分で行うことができます。個人事業主から法人化する際に、1人合同会社を選ぶケースも多く見られます。

Q3. 出資額が多い人が自動的に代表者になりますか?

合同会社では、出資額の大小と代表社員や業務執行社員になるかどうかは、法律上は直接の因果関係はありません。出資額の大小は会社定款での議決権の分配などには関わることがありますが、代表社員になるのは出資額が多い人という決まりはありません。

Q4. 業務執行社員を選ばなかったらどうなりますか?

定款で業務執行社員を個別に定めなければ、原則として全ての社員が業務執行権を持つことになります。これは、多人数であればあらゆる社員が経営に関与できる一方で、意見の不一致や対応の遅れなどが生じる可能性があります。

Q5. 法人が社員(役員)になるときの落とし穴は?

法人が社員になる場合、法人自身は法律上の人格として社員ですが、実務を行うためには職務執行者を選任しなければなりません。決め忘れたり登記を怠ると登記情報が不完全になったり、責任・契約の場面で混乱が生じることがあります。

Q6. 役員変更をしないで放置したらどうなりますか?

代表社員や業務執行社員を変更したのに定款・登記を更新しなければ、登記簿の内容が現実と異なり、取引先等に誤解を与える可能性があります。たとえば代表者が実際に違う人なのに古い代表者が登記されているケースでは、契約などで問題になる場合も考えられます。変更登記は速やかに行うことが大切です。

Q7. 社員が複数いる場合、意思決定はどのように行いますか?

社員が複数いる場合は、原則として社員全員の合意によって意思決定を行います。ただし、定款で「多数決」や「特定社員に業務執行権を集中させる」などのルールを定めることも可能です。定款の設計次第で、運営の柔軟性を高めることができます。

まとめ

合同会社の役員制度は、株式会社とは異なり、非常に柔軟でシンプルな構造を持っています。社員が出資者であり、経営者でもあるため、意思決定が迅速に行える点が大きな魅力です。

代表社員の選任、役員報酬の設定、税務の対応など、運営に必要な知識をしっかりと身につけ対応することで、合同会社のメリットを最大限に活かしましょう。