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2025.08.08

事業承継とは? 会社の未来を次世代へつなぐ、はじめの一歩

「いつかは誰かに、この会社を譲らないといけない…」

会社の経営者であれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。大切に育ててきた会社を、今後どうしていくのか。これは、すべての経営者にとって避けては通れない、非常に重要な経営課題です。この”会社のバトンタッチ”こそが、「事業承継」です。

しかし、多くの中小企業の経営者様が、「まだ先のこと」「誰に相談すればいいかわからない」といった理由で、準備を先送りにしがちです。日本の企業の99%以上は中小企業であり、その多くが後継者不在という深刻な問題に直面しています。事業承継の準備が遅れたために、黒字経営にもかかわらず廃業せざるを得ないケースも少なくありません。

この記事では、会社の未来を真剣に考える経営者の皆様へ向けて、「事業承継」というテーマを、基礎から分かりやすく解説していきます。

・事業承継って、そもそも何?相続とは違うの?

・誰に会社を引き継ぐことができるの?どんな方法がある?

・いつから準備を始めたらいいの?

・どんな課題があって、どう対策すればいいの?

これらの疑問に一つひとつお答えしていきます。この記事を読み終える頃には、事業承継の全体像が明確になり、ご自身の会社にとっての「次の一手」を考えるきっかけとなるはずです。会社の未来を明るいものにするために、まずは「知る」ことから始めていきましょう。

事業承継とは?~会社の未来を次世代へつなぐバトンパス~

事業承継は、単なる「財産」の相続ではありません

事業承継と聞くと、多くの方が「社長が亡くなった後に、会社の財産を家族が引き継ぐこと(相続)」をイメージされるかもしれません。しかし、それは事業承継の一部分にしかすぎません。

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐ一連のプロセス全体を指します。会社のバトンタッチに例えるなら、バトンには2つの側面があります。

1.経営の承継(人・経営権の引継ぎ)

・社長という「経営者の椅子」を後継者に譲り、会社の経営権を引き継がせることです。

・後継者が従業員や取引先から信頼され、リーダーシップを発揮できるように、経営ノウハウや理念、人脈などを時間をかけて伝えていく必要があります。

2.財産の承継(モノ・資産の引継ぎ)

・会社の支配権と密接に関わる「自社株式」や、事業に使う土地・建物、設備などの「事業用資産」を後継者に引き継がせることです。

・特に自社株式は、会社の所有権そのものであり、誰がどれだけ保有するかで経営の安定性が大きく変わります。また、株式や資産には価値があるため、贈与税や相続税といった税金の問題が必ず発生します。

つまり事業承継とは、「経営(人)」と「財産(モノ)」の両方を、計画的に次世代へ引き継いでいく活動なのです。経営者が元気なうちから準備を始め、円滑なバトンパスを実現することが、会社の持続的な成長、そして従業員やその家族の生活を守る上で、極めて重要になります。

なぜ今、事業承継が重要視されているのか

近年、「事業承継」という言葉を耳にする機会が増えた背景には、日本の社会構造の変化が大きく関係しています。

・経営者の高齢化: 中小企業経営者の平均年齢は年々上昇し、今や60代を超えています。引退の平均年齢も70歳前後となっており、多くの企業が事業承継のタイミングを迎えています。

後継者不足: 「子どもがいても、会社を継ぐ意思がない」「親の苦労を見ているので、継がせたくない」といった理由から、親族内に後継者が見つからないケースが急増しています。

この2つの問題が深刻化し、準備不足のまま引退時期を迎えてしまうと、最悪の場合、業績は好調なのに会社を畳まざるを得ない「黒字廃業」という事態に陥りかねません。国もこの問題を非常に重く見ており、「事業承継税制」といった税金の負担を軽減する制度を設けるなど、中小企業の円滑な事業承継を後押ししています。

事業承継の3つの方法~誰にバトンを渡しますか?~

では、具体的に会社のバトンは誰に渡すことができるのでしょうか。事業承継の方法は、後継者のタイプによって大きく3つに分けられます。それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の会社にとって最適な方法を検討することが大切です。

1.親族内承継(子ども・配偶者・兄弟姉妹など)

最も一般的な方法が、ご自身の親族、特に子どもへ会社を引き継ぐケースです。

メリット:

・内外の関係者から理解を得やすい: 従業員や取引先、金融機関など、社内外の関係者から心情的に受け入れられやすい傾向があります。

・後継者教育に時間をかけられる: 幼い頃から経営者の背中を見て育つなど、早い段階から後継者としての自覚を促し、長期的な視点で帝王学を授けることが可能です。

・財産の移転がスムーズ: 相続や贈与といった形で、財産を比較的スムーズに移転させることができます。

デメリット:

・後継者候補がいない、または継ぐ意思がない: 少子化や価値観の多様化により、そもそも親族内に適任者がいない、または本人が継ぎたがらないケースが増えています。

・経営者としての資質があるとは限らない: 親族であるという理由だけで後継者に選んでしまうと、経営者としての能力や意欲が不足している場合、その後の経営が立ち行かなくなるリスクがあります。

2.従業員等への承継(親族外承継)

長年会社に貢献してきた役員や、優秀な従業員に会社を引き継ぐ方法です。MBO(マネジメント・バイアウト)とも呼ばれます。

メリット:

・経営方針や企業文化を深く理解している: 長年社内で働いてきた人材であれば、会社の強みや弱み、企業文化を熟知しているため、経営の一貫性を保ちやすいです。

・他の従業員からの納得感が得られやすい: 生え抜きの役員や従業員が社長になることで、他の従業員の士気向上にもつながる可能性があります。

デメリット:

・株式取得のための資金力がない: 後継者となる従業員に、会社の株式を買い取るだけの十分な資金がないケースがほとんどです。この場合、金融機関からの借入れや、現経営者が株式の一部を保有し続けるなどの資金調達策が必要になります。

・個人保証の引継ぎ問題: 会社が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人になっていることが多く、後継者がこの個人保証を引き継ぐことに難色を示す場合があります。

M&Aによる第三者への承継

親族や社内に適任な後継者が見つからない場合に、社外の企業や個人に会社を売却(M&AMergers and Acquisitions)する方法です。

メリット:

・広く後継者候補を探せる: 親族や社内に限定されず、日本全国、あるいは海外からでも最適な引継ぎ手を探すことができます。

・従業員の雇用を守れる: 廃業を選ぶことなく事業を継続できるため、従業員の雇用を守ることができます。

・創業者利益を確保できる: 会社を売却することで、オーナー経営者はまとまった資金(創業者利益)を得ることができ、引退後の生活資金に充てることができます。

デメリット:

・希望の条件で売却先が見つかるとは限らない: 自社の魅力や強みを正しく評価してくれる買い手を、希望の条件で見つけることは簡単ではありません。

・企業文化の衝突: 買い手企業の文化と自社の文化が大きく異なる場合、従業員が戸惑い、最悪の場合、離職につながるリスクもあります。

・売却プロセスの複雑さ: 買い手探しから条件交渉、契約締結まで、専門的な知識を要する複雑な手続きが必要です。

事業承継はいつから始める?~成功のカギは早期準備~

「事業承継の重要性はわかった。では、具体的にいつから準備を始めればいいのか?」

その答えは、「経営者が“引退”を意識し始めたら、すぐにでも」です。

事業承継は、一朝一夕で完了するものではありません。一般的に、準備から完了までには5年~10年という長い期間が必要とされています。なぜ、そんなに時間がかかるのでしょうか。

それは、事業承継が単なる手続きではなく、「後継者の育成」「関係者の理解」「財産の問題解決」といった、時間のかかるプロセスを伴うからです。

準備が遅れることの3大リスク

準備を先延ばしにすると、以下のような深刻なリスクが生じる可能性があります。

1.後継者の育成が間に合わない:

一人前の経営者を育てるには、相応の時間と経験が必要です。引退間際に慌てて後継者を指名しても、経営スキルやリーダーシップが未熟なままでは、事業を安定的に継続させることは困難です。

2.株価対策・相続税対策が手遅れになる:

会社の業績が好調であればあるほど、自社株式の評価額は高くなります。株価が高い状態で株式を後継者に移転しようとすると、多額の贈与税や相続税が課せられます。計画的に株価を引き下げる対策や、納税資金を準備するには、数年単位の時間がかかります。

3.経営者の突然の病気や事故:

経営者が元気なうちは「まだ大丈夫」と思いがちですが、万が一、突然の病気や不慮の事故で経営判断ができなくなってしまった場合、会社は一気に混乱に陥ります。後継者が決まっていなければ、経営の舵取り役が不在となり、最悪の場合、事業の継続が不可能になることも考えられます。

これらのリスクを回避するためにも、まずは「事業承継計画」を立てることから始めましょう。

「事業承継計画」で会社の未来を可視化する

事業承継計画とは、いつ、誰に、どのように事業を引き継ぐのかを具体的にまとめた、会社の未来の設計図です。以下の内容を盛り込み、現状の課題と今後のスケジュールを明確にしていきます。

・会社の現状分析(強み・弱み、経営課題など)

・後継者候補の選定と育成方針

・株式・資産の承継方法とスケジュール

・納税資金の準備方法

・引退までの具体的なアクションプラン

この計画書を作成する過程で、漠然としていた事業承継の課題がクリアになり、今やるべきことが見えてきます。私たちのような税理士は、会社の財務状況や株価を正確に把握した上で、最適な計画作りをサポートする専門家です。

事業承継の主な課題と対策~税理士と一緒に乗り越える~

事業承継には、これまで述べてきたように様々な課題が伴います。ここでは、特に重要となる3つの課題と、その具体的な対策について、税理士の視点から解説します。

課題1:自社株式の評価と高額な税金

非上場会社の場合、自社の株式に市場価格はありません。そのため、相続や贈与の際には、国税庁が定めたルール(財産評価基本通達)に基づいて株価を計算する必要があります。

多くの中小企業経営者が驚かれるのが、この株価の高さです。「うちの会社は大して儲かっていないから、株価も低いだろう」と思っていても、長年の利益の蓄積(内部留保)や、含み益のある土地などを所有していると、想定外に評価額が高くなることが少なくありません。

そして、この高い株価が、後継者に重くのしかかる「贈与税」や「相続税」の原因となります。

対策:計画的な株価引き下げ

役員退職金の支給、生命保険の活用、不動産投資など、合法的な範囲で会社の利益や資産をコントロールし、計画的に株価を引き下げる対策があります。これらは、実行するタイミングが非常に重要であり、専門的な知識が不可欠です。

対策:事業承継税制の活用

一定の要件を満たすことで、後継者が取得した自社株式にかかる贈与税や相続税の納税が猶予され、将来的には免除されるという、非常に強力な制度です。ただし、適用要件が複雑で、長期にわたる報告義務などがあるため、利用する際は専門家と入念な計画を立てる必要があります。

課題2:後継者の選定と育成

誰を後継者にするか、という問題は、事業承継における最大の難関の一つです。そして、後継者が決まったとしても、その人物を立派な経営者に育て上げなければ、承継は成功しません。

対策:早期からの計画的な育成

まずは、経営者自身が「後継者に求める資質」を明確にすることが第一歩です。その上で、候補者には、営業、製造、経理、人事といった社内の様々な部門を経験させ、会社全体の動きを理解させることが重要です。また、他社への出向や経営セミナーへの参加など、社外で武者修行をさせることも、視野を広げる上で非常に有効です。

課題3:個人保証・担保の解除

多くの中小企業では、金融機関からの借入に際して、経営者個人が連帯保証人になっていたり、自宅を担保に提供していたりします。これを次の後継者にそのまま引き継がせるのは、後継者にとって大きな精神的・経済的負担となり、事業承継を躊躇させる大きな要因になります。

対策:「経営者保証に関するガイドライン」の活用

近年、国は安易な個人保証に依存しない融資を推進しています。このガイドラインを活用し、会社の財務状況の健全化や、経営の透明化を進めることで、金融機関と交渉し、個人保証を解除できる可能性があります。会社の資産と経営者個人の資産を明確に分離し、良好な財務体質を構築していくことが、円滑な引継ぎの鍵となります。

まとめ:事業承継は、未来への最高の贈り物

事業承継は、決して「引退のための後ろ向きな作業」ではありません。経営者が人生をかけて築き上げてきた会社という”宝物”を、さらに発展させてくれる次の世代へ託す、「未来へ向けた、積極的な経営戦略」です。

円滑な事業承継の成功は、後継者や従業員、その家族の未来を守るだけでなく、長年支えてくれた地域社会への最大の貢献とも言えるでしょう。

しかし、その道のりは決して平坦ではなく、税務、法務、財務といった多岐にわたる専門知識が求められます。

「何から手をつけていいか分からない」

「自社の株価がいくらになるのか知りたい」

「自社に合った承継方法を相談したい」

もし、あなたが少しでも事業承継について考え始めたのであれば、それは未来へ向けた大切な第一歩です。ぜひお一人で悩まず、私たち税理士のような専門家にご相談ください。会社の状況を客観的に分析し、経営者様の想いに寄り添いながら、最適な事業承継の実現に向けて、全力でサポートさせていただきます。

会社の輝かしい未来を、一緒に創っていきましょう。