平成元年に導入された消費税はこれまでも税率の変更などの改正がされてきましたが、令和元年10月から食料品等に対する8%の軽減税率が導入されて複数税率となり、令和5年10月からはインボイス制度が導入され、計算・申告がより複雑なものとなりました。ここで基本に立ち返って、消費税の計算方法について整理していきます。
課税対象
消費税は商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して課税されますが、課税対象とならない取引もあります。
課税取引となるもの
国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供は課税対象になるので、商品の販売や運送、広告など、対価を得て行う取引のほとんどが課税対象になります。また、外国から商品を輸入する場合も輸入する際に消費税が課税されます。
課税取引にならないもの
課税対象の要件は「国内において」「事業者が事業として」「対価を得て行う」「資産の譲渡、資産の貸付、役務の提供」の4つです。したがって、これらに当てはまらないものは課税の対象にはなりません。課税対象とならない取引には以下のようなものがあります。
①給与・賃金
雇用契約に基づく労働の対価であり、事業者が事業として行う取引には該当しません。
②寄附金や祝い金、補助金等
対価として支払われるものではないため該当しません。
③無償による試供品や見本品の提供
対価の支払いがないため該当しません。ただし、個人事業者が販売する商品を家庭で消費・使用した場合や、法人が自社製品を役員に贈与した場合には、事業として対価を得て行われたものとみなされ、消費税の課税の対象になります。
④保険金や共済金
資産の譲渡や貸付け、役務の提供等の取引に該当しません。
⑤株式の配当金やその他の出資分配金
株主や出資者の地位に基づいて支払われるものであり、資産譲渡や貸付け、役務の提供等の取引に該当しません。
⑥資産の廃棄、盗難や滅失
資産の譲渡や貸付け、役務の提供等の取引に該当しません。
⑦心身または資産に対し加えられた損害の発生に伴い受け取る損害賠償金
対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供等の取引に該当しません。ただし、損害賠償金でも、次のような場合は課税の対象となります。
・損害を受けた製品などの棚卸資産が加害者に引き渡される場合で、その資産がそのままで使用できる場合や、軽微な修理をすれば使用できる場合
・無体財産権の侵害を受けたために受け取る損害賠償金が権利の使用料に相当する場合
・事務所の明け渡しが期限より遅れたために受け取る損害賠償金が賃貸料に相当する場合
非課税取引
課税対象の4要件に該当していても、消費に負担を求める税としての性格から課税対象としてなじまないものや社会政策的配慮から、課税しない非課税取引が消費税法第6条において規定されています。非課税取引は次のとおりです。
①土地の譲渡及び貸付け
土地には、借地権などの土地の上に存する権利を含みます。ただし、1カ月未満の土地の貸付けおよび駐車場などの施設の利用に伴って土地が使用される場合は、非課税取引に該当しません。
②有価証券等の譲渡
国債や株券などの有価証券、登録国債、合名会社などの社員の持分、抵当証券、金銭債権などの譲渡は非課税取引です。ただし、株式・出資・預託の形態によるゴルフ会員権などの譲渡は非課税取引に該当しません。
③支払手段の譲渡
銀行券、政府紙幣、小額紙幣、硬貨、小切手、約束手形などの譲渡は非課税取引です。ただし、これらを収集品として譲渡する場合は非課税取引に該当しません。
④預貯金の利子および保険料を対価とする役務の提供等
預貯金や貸付金の利子、信用保証料、合同運用信託や公社債投資信託の信託報酬、保険料、保険料に類する共済掛金などは非課税取引です。
⑤日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡場所における印紙の譲渡および地方公共団体などが行う証紙の譲渡
⑥商品券、プリペイドカード等の物品切手等の譲渡
⑦国等が行う一定の事務に係る役務の提供
国、地方公共団体、公共法人、公益法人等が法令に基づいて行う一定の事務に係る役務の提供で、法令に基づいて徴収される手数料は非課税取引です。なお、この一定の事務とは、例えば、登記、登録、特許、許可、検査、検定、試験、証明、公文書の交付などです。
⑧外国為替業務に係る役務の提供
外国為替取引、対外支払手段(信用状、トラベラーズチェック)の発行、対外支払手段の売買又は債権の売買(海外送金手数料、外貨への両替手数料など)は非課税取引です。
⑨社会保険医療の給付等
健康保険法、国民健康保険法による医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療などは非課税取引です。ただし、美容整形や差額ベッドの料金および市販されている医薬品を購入した場合は非課税取引に該当しません。
⑩介護保険サービスの提供等
介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービス、施設サービスなどは非課税取引です。ただし、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は非課税取引に該当しません。
⑪社会福祉事業等によるサービスの提供等
社会福祉法に規定する第一種社会福祉事業、第二社会福祉事業、更正保護事業法に規定する更生保護事業などの社会福祉事業等によるサービスの提供などは非課税取引です。
⑫助産
医師、助産師などによる助産に関するサービスの提供等は非課税取引です。
⑬火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供
火葬料、埋葬料のみが非課税取引であり、墓石、葬式、葬儀の費用、花輪代などは非課税取引に該当しません。
⑭一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け等
義肢、視覚障害者安全つえ、義眼、点字器、人工喉頭、車椅子、身体障害者の使用に供するための特殊な性状、構造または機能を有する自動車などの身体障害者用物品の譲渡、貸付、製作の請負およびこれら身体障害者用物品の修理のうち一定のもの
⑮学校教育
学校教育法に規定する学校、専修学校、修行年限が1年以上などの一定の要件を満たす各種学校等の授業料、入学検定料、入学金、施設設備費、在学証明手数料などは非課税取引です。
⑯教科用図書の譲渡
教科用図書のみが非課税取引であり、参考書や問題集等の補助教材は学校が指定したものであっても非課税取引に該当しません。
⑰住宅の貸付
契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの(契約において貸付けの用途が明らかにされていない場合にその貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかなものを含む)に限っては非課税取引です。ただし、1カ月未満の貸付けなどは非課税取引に該当しません。
税率
消費者が負担する消費税は、消費税および地方消費税の合計額です。令和元年10月の消費税率10%への引き上げと同時に、食料品等に対する8%の軽減税率が導入され、消費税は複数税率になりました。
標準税率
標準税率は、消費税率(国税分)7.8%と地方消費税率2.2%の合計10%です。
軽減税率
軽減税率は、消費税率(国税分)6.24%と地方消費税率1.76%の合計8%です。
軽減税率の対象は、酒類を除く飲食料品と新聞です。飲食料品には医薬品や医薬部外品等は含まれず、外食やケータリング等は軽減税率の対象外です。また、新聞は定期購読契約された週2回以上発行されるものに限るので、駅やコンビニエンスストアで購入する新聞は軽減税率の対象にはなりません。
消費税の計算方法
消費税は原則として一般課税(本則課税)方式で計算しますが、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる簡易課税や特定のインボイス事業者に適用される2割特例などがあります。
一般課税(本則課税)
一般課税(本則課税)の消費税の計算方法は次のとおりです。
課税売上に係る消費税額-課税仕入れに等にかかる消費税額=消費税額
消費税の税率には、標準税率と軽減税率があるため、それぞれに区分して計算します。まずは国税分の消費税を計算し、計算した国税分の消費税に22/78を乗じて地方消費税を算出します。
簡易課税
消費税の計算方法は一般課税方式が原則ですが、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者については、事務負担に考慮して、簡易な計算方法である簡易課税制度の適用が認められています。基準期間とは、個人事業者についてはその年の前々年、法人については原則としてその事業年度の前々事業年度です。
簡易課税制度は、課税期間中の課税売上に係る消費税額に、事業区分に応じた一定の「みなし仕入率」を乗じた金額を課税仕入等に係る消費税額とみなして、納付する消費税額を計算します。計算式は次のとおりです。
課税売上に係る消費税額-(課税売上に係る消費税額×みなし仕入率)=消費税額
みなし仕入率は次のとおりです。
①第一種事業 90%
・卸売業(他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)
②第二種事業 80%
・小売業(他の社から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)
・農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)
③第三種事業 70%
・農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)
・鉱業、建設業、製造業
・電気業、ガス業、熱供給業および水道業
④第四種事業 60%
・第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業および第六種事業以外の事業(飲食店業、事業用固定資産の売却等)
⑤第五種事業 50%
・運輸通信業
・金融および保険業
・サービス業(飲食店業に該当するものを除く)
⑥第六種事業 40%
・不動産業
簡易課税を選択するには、適用を受けようとする課税事業年度の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません。簡易課税を選択した場合は、2年間は継続適用することになります。なお、基準期間の課税売上高が5,000万円を超過している場合は、届出書を提出していても、簡易課税制度の適用はありません。
インボイス制度における2割特例
この特例は、適格請求書等保存方式(インボイス制度)を機に免税事業者から適格請求書発行事業者となった場合に、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において適用することができます。
2割特例は、課税期間中の課税売上に係る消費税額に80%を乗じた金額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなして、納付する消費税額を計算します。計算式は次のとおりです。
課税売上に係る消費税額-(課税売上に係る消費税額×80%)=消費税額
2割特例は一般課税または簡易課税のどちらを選択している場合も、事前の届出なしに適用することができます。ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えており、適格請求書発行事業者の登録と関係なく課税事業者になる場合など、一定の場合には適用できません。
申告・納付
確定申告
個人事業者は翌年の3月末日までに、法人は原則として課税期間の末日の翌日から2カ月以内に、消費税と地方消費税を併せて納税地の所轄税務署長に申告・納付します。法人税の申告期限延長の適用を受けている法人は「消費税申告期限延長届出書」を提出することで、消費税の申告期限が1カ月延長されます。ただし、納付期限は延長されないので注意が必要です。
前期納税実績による中間申告
直前の課税期間における国税分の消費税額が48万円を超える事業者は、次のとおり中間申告と納付を行わなければなりません。
直前課税期間の消費税額 |
中間申告・納付回数 |
48万円超400万円以下 |
年1回(直前課税期間の消費税額の1/2) |
400万円超4,800万円以下 |
年3回(直前課税期間の消費税額の1/4ずつ) |
4,800万円超 |
年11回(直前課税期間の消費税額の1/12ずつ) |
任意の中間申告
直前の課税期間における消費税額(国税分)が48万円以下の事業者であっても、「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」を事前に提出することにより、自主的に年1回の中間申告・納付をすることができます。任意の中間申告をすることで、一度にかかる納税負担を軽減し、計画的な納税が可能になります。
仮決算による中間申告
中間申告書を提出すべき事業者は、中間申告対象期間をひとつの課税期間とみなして仮決算を行って、納税額を算出・納付することができます。簡易課税を選択している事業者は、仮決算においても適用可能です。仮決算方式は中間申告期間ごとに決算業務を行う必要があるため、事務手続きが煩雑になりますが、前期に比べ業績が悪化している場合には、前期納税実績による中間申告よりも、納税額を抑えることができます。ただし、仮決算方式により算出された消費税がマイナスであっても、還付を受けることはできません。
まとめ
消費税の計算は新制度の導入により複雑になっています。
新制度を理解して、正しい税額計算を行っていきましょう。