会社は事業年度が終了すると、決算を行い、決算報告書を作成します。作成した決算報告書は、申告書に添付したり、借入をしている金融機関に提出したりしますが、使用目的により種類も様々です。今回は、決算報告書について解説します。
決算報告書とは
決算報告書とは、事業年度終了後に作成する財務状況や経営成績をまとめた書類です。会社の規模にかかわらず、必ず作成しなければなりません。
作成目的
決算報告書は、税務署・株主・取引先・金融機関などに経営成績や財産状況を報告するために作成されます。税務署は、決算内容に不備なく、申告書において適正に税額が計算されているかどうか確認します。株主は、会社が健全に運営されているかどうかを確認し、投資における判断材料となります。取引先は、引き続き取引を行うことへの安全性を、金融機関は融資の適正額や返済能力についての判断することができます。
また、自社においても、決算報告書から現況を把握・分析することにより、適切な経営判断を行うことができます。
作成・提出期限
決算報告書は、通常、法人の場合には事業年度終了日の翌日から2カ月以内に作成します。3月末決算であれば、5月31日が作成期限となります。これは法人税の確定申告書の提出期限と同様ですが、確定申告書の提出にあたってはその添付書類として決算報告書が必要になるからです。ただし、申告期限の延長の特例の申請書を提出することにより、その提出期限を延長することができます。
決算報告書に関する法律
決算報告書の作成根拠となる主な法律は「会社法」「法人税法」「金融商品取引法」の3つです。
会社法
会社法は平成17年7月26日に公布、平成18年5月1日に施行されました。施行前は商法や有限会社法などいくつかの法律に分かれていたものが全8編から成る会社法に統合され、会社の設立や運営などのルールが定められた法律になりました。会社法において決算報告書は「計算書類」と呼ばれており、各事業年度に係る計算書類を作成し、10年間保存することが義務付けられています。
会社法において作成が必要となる計算書類は、「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「個別注記表」「事業報告」「附属明細書」です。
計算書類は、株主総会に提出され株主の承認を受けなければなりません。
法人税法
現在の法人税法は昭和40年3月31日に公布された法律であり、法人の企業活動により得られる所得に対して課される法人税について、納税義務者や課税所得の範囲、税額の計算方法などが定められています。
法人税法において作成が必要となる決算報告書は、「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「勘定科目内訳明細書」です。
法人税法における決算報告書は、法人税確定申告書に添付して、納税地を所轄する税務署に提出しなければなりません。
金融商品取引法
金融商品取引法は、昭和23年4月13日に公布、昭和23年5月6日に施行されました。有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十分な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって国民経済の健全なる発展及び投資者の保護に資することを目的として制定された法律です。企業内容等・公開買付け・株券等の大量保有状況の開示に関する規制、金融商品取引業者等・金融商品取引業協会・投資者保護基金・金融商品取引所等に関する規制、相場操縦・インサイダー取引等市場参加者の有価証券の取引に関する規制等から成り立っています。
金融商品取引法では、決算報告書は「財務諸表」と呼ばれており、上場企業などに対して財務諸表を含む「有価証券報告書」の提出が義務付けられています。金融商品取引法において作成が必要となる財務諸表は「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」「株主資本等変動計算書」「附属明細表」です。
有価証券報告書は、内閣総理大臣への提出が義務付けられています。
決算報告書の開示義務
会社は特定の相手に対し、決算報告書を開示する義務があります。
税務署への開示義務
事業規模にかかわらず、全ての会社は税務署へ決算報告書の提出が義務付けられています。決算報告書の提出により法人税確定申告書における数字の根拠を示し、税務署は決算内容に不備などがないか確認します。
上場会社・大会社の開示義務
上場会社は、金融商品取引法によって有価証券報告書の開示が義務付けられています。有価証券報告書は、金融庁が運営する「EDINET」で確認することができます。「EDINET」の目的は次のとおりです。
・有価証券の発行者の財務内容、事業内容を正確、公平かつ適時に開示すること
・有価証券を大量に取得・保有する者の状況を正確、公平かつ適時に開示すること
・投資者がその責任において有価証券の価値その他の投資に必要な判断をするための機会を与え、投資者保護を図ること
上場企業ではなくても、会社法上の「大会社」は貸借対照表と損益計算書を開示しなくてはなりません。会社法上の大会社とは、最終事業年度の貸借対照表上で負債の合計額が200億円以上、または資本金5億円以上の株式会社のことをいいます。
株主や債権者からの請求による開示義務
会社法により、債権者や議決権比率3%以上を保有している株主から開示請求があった場合は、会社は決算報告書を開示しなければなりません。株主からの開示請求は、原則として拒むことはできませんが、株主の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったときや、会社の業務を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったときなどは、拒否することができます。
決算報告書の種類
法律により作成する決算報告書は様々ですが、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書は「財務三表」と呼ばれ重要性の高い書類ですが、財務三表含めて各種の概要について説明していきます。
貸借対照表
バランスシートを略してB/Sとも呼ばれる貸借対照表は、事業年度末における財政状態を示した書類であり、資産・負債・純資産から構成されています。
資産
会社が所有している財産を示しており、1年以内に現金化することが可能な「流動資産」、1年以上の長期にわたって使用・現金化する「固定資産」、支出した費用の効果が1年以上に及ぶ「繰延資産」に区分されています。
負債
会社が返済すべき債務であり「他人資本」とも呼ばれます。1年以内に支払が必要な「流動負債」、1年を超えた長期で支払義務のある「固定負債」に区分されています。
純資産
返済義務のない資産で自己資本とも呼ばれ、株主資本と株主資本以外の「評価・換算差額等」「新株予約権」に区分されています。株主資本には、株主からの出資金額である「資本金」、株主からの出資金額のうち資本金としなかった部分の「資本剰余金」、会社が積み立ててきた利益である「利益剰余金」、会社が買い戻した「自己株式」があります。
貸借対照表は、様々な指標を用いて経営状況の判断や経営改善に役立てることができます。代表的な経営分析は以下のとおりです。
流動比率
・流動比率(%)=流動資産/流動負債×100
流動比率は短期的な支払い能力を示しています。流動比率が高いほど、短期的な支払能力が高いと言えます。
固定比率
・固定比率(%)=固定資産/自己資本×100
固定比率は設備投資に対する自己資本(純資産)の比率を示しています。固定比率が低ければ設備投資を自己資金で賄えていることになるため、長期的に安定性が高いと言えます。
自己資本比率
・自己資本比率(%)=自己資本/総資本(負債+純資産)×100
自己資本比率は負債と純資産の合計である総資本に対する自己資本(純資産)の比率を示しています。自己資本比率は、負債が増えると下がり、純資産が増えると高くなるため、会社の安全性を判断することができます。
損益計算書
損益計算書は英語の「profit and loss statement」を略してP/Lとも呼ばれ、会計期間における経営成績を記載した書類です。損益計算書では収益から費用を差し引いた利益を示しますが、利益は次の区分に分けられています。
売上総利益
・売上総利益=売上高-売上原価
売上総利益は「粗利」とも呼ばれ、売上原価とは商品仕入れや製造に要する費用です。売上高に対する売上総利益の割合である「売上総利益率」が高ければ、収益性の高い商品を取り扱っていると判断できます。ただし、業種により売上高総利益率は異なるため、同業他社との比較や自社の過年度の推移を確認することが大切です。
営業利益
・営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費
営業利益は、売上総利益から販売業務や管理業務から生じた経費を差し引いた利益であり、本来の営業活動から得た利益を示しています。売上高に対する営業利益の割合である「売上高営業利益率」が高い場合、本業の営業活動における企業収益力が高いと判断できます。
経常利益
・経常利益=営業利益+営業外収益−営業外費用
経常利益は、営業利益に受取利息などの本業以外からの収益を加算し、支払利息などの本業以外からの費用を減算した利益であり、財務力も考慮した通常業務すべてから得た利益を示しています。売上高に対する経常利益の割合である「売上高経常利益率」が高い場合、通常の経営活動における企業収益力が高いと言えます。
税引前当期純利益
・税引前当期利益=経常利益+特別利益−特別損失
税引前当期純利益は、経常利益に固定資産売却損益や株式の売却損益などの本業とは関係なく臨時的に発生したものを加減算した、法人税等を考慮する前の事業年度における利益です。
当期純利益
・当期純利益=税引前当期純利益−法人税等
当期純利益は、税引前当期純利益から法人税、住民税及び事業税、法人税等調整額を差し引いた事業年度における最終的な利益です。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書(C/F)は、企業が所有するお金の流れを示す書類であり、次の3区分に分けて作成されます。
営業活動によるキャッシュフロー
本業におけるお金の流れを示しています。プラスであれば、本業が好調であり、お金を増やすことができていることを意味しています。マイナスであれば、本業でお金を増やすことができていないため、経営状況の把握と改善が必要な状態にあるといえます。
投資活動によるキャッシュフロー
設備投資や有価証券の売買など、投資活動によるお金の流れを示しています。事業を発展させるためには投資が不可欠であるため、マイナスになることの多い項目ですが、営業活動によるキャッシュフローの増加分と比較してその投資が適切であったか検討する必要があります。
財務活動によるキャッシュフロー
資金の調達や借入金の返済によるお金の流れを示しています。借入をすればプラスに、返済額の方が多ければマイナスになります。借入金額の増減は損益計算書には示されない数字なので、現金の流れを把握し無理のない返済ができているかどうかを確認することが必要です。
損益計算書において利益が出ているにもかかわらず、資金が不足していれば、黒字倒産してしまうリスクがあります。キャッシュフローを把握し、会社の資金に余裕があるかどうか確認することが必要です。
株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、貸借対照表の純資産の部の会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成する書類です。純資産を、株主資本、評価・換算差額、新株予約権、少数株主持分(連結株主資本等変動計算書において作成)に分類し、期中の変動額を事由ごとに区分して記載します。変動要因としては、当期純利益または損失、新株の発行または自己株式の処分、剰余金の配当などが挙げられます。
個別注記表
個別注記表は、貸借対照表や損益計算書などに関する補足情報をまとめた書類です。表示区分は19項目に区分されており、会計監査人設置会社においては19項目すべての記載が必要ですが、会計監査人設置会社以外の会社においては、公開会社か非公開会社かにより必要な記載項目は異なります。全ての会社に記載が必要な項目は次のとおりです。
・重要な会計方針にかかる事項に関する注記
・会計方針の変更に関する注記
・表示方法の変更に関する注記
・誤謬の訂正に関する注記
・株主資本等変動計算書に関する注記
・その他の注記
勘定科目内訳明細書
勘定科目内訳明細書は、貸借対照表・損益計算書における勘定科目の内訳を示す書類であり、法人税確定申告書に添付して提出することが義務付けられています。インボイス制度の開始に伴い、令和6年3月1日以後終了事業年度分の勘定科目内訳書については、取引先の「登録番号」又は「法人番号」を記載する欄が設けられました。いずれかの記載をした場合には、取引先の名称(氏名)及び所在地(住所)の記載を省略することができるようになりました。
計算書類の附属明細書
計算書類の附属明細書の記載事項は、有形固定資産及び無形固定資産の明細、引当金の明細、販売費および一般管理費の明細のほか、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表の内容を補足する重要な事項を表示しなければなりません。
事業報告書
事業報告書は会社の事業の状況を報告する書類ですが、記載事項は会社の分類によって異なります。全ての会社に記載が必要な項目は会社法施行規則118条に規定されており、概要は次のとおりです。
・会社の状況に関する重要な事項
・業務の適正を確保するための体制等の整備に関する事項
・株式会社の支配に関する基本方針
・特定完全子会社に関する事項
・親会社との間の取引
まとめ
決算報告書は、使用目的や提出先により、作成書類も様々です。
提出時に慌てることがないように、決算報告書に関する理解を深めておきましょう。