事業を行っている場合、所得税の源泉徴収を行い、翌月10日に所轄税務署に納付する義務が生じます。ただし、一定の条件を満たしていれば、毎月納付ではなく、半年ごとの年2回の納付に変更することができます。
今回は、源泉所得税の概要についてまとめ、納期の特例について詳しく説明していきます。
源泉所得税の納付の仕組み
源泉徴収制度
所得税(復興特別所得税を含む※)は、報酬を得ている本人が所得金額から納めるべき金額を計算して、自主的に納税する申告納税制度が採用されています。しかし、特定の所得については、支払を行う会社や個人が決められた方法で所得税額を計算し、報酬金額から計算した所得税額を差し引いて本人に代わって支払をします。この差し引いた所得税を本人に代わって報酬を支払う会社や個人が納付することを源泉徴収制度といいます。
※復興特別所得税とは、所得税に対する付加税で、平成25年から令和19年までの各年分の所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付するものです。以下、所得税および源泉所得税には復興特別所得税を含みます。
源泉徴収義務者
源泉徴収制度においては、源泉徴収に係る所得税を徴収して国に納付する義務のある者を「源泉徴収義務者」といいます。源泉徴収の対象とされている所得の支払者は、会社や個人だけではなく、学校や官公庁、マンションの管理組合等の任意団体も含まれます。
ただし、個人が常時2人以下の家事使用人、いわゆるお手伝いさんや家政婦のみに対して給与を支払っている場合のその給与や退職金等、税理士報酬等の報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません。
源泉所得税の納税地
源泉所得税の納税地は、源泉徴収の対象とされている所得の支払事務を行っている事務所等の、その支払日における所在地を管轄する税務署になります。本店や支店等があり給与の支払事務をそれぞれの店舗で行う場合は、その店舗の所在地を管轄する税務署になります。本店移動や支店設置等により支払事務を行う事務所が移転した場合は、1カ月以内に届出を提出する必要があります。なお、移転前の支払に対する未納付の源泉所得税は、移転後の所轄税務署に納付することになります。
納付方法
源泉徴収した所得税の納付方法は、e-Taxを利用した電子申請、または「所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて最寄りの金融機関もしくは税務署の窓口で納付する方法があります。e-Taxでの納付は、納付書の記入や印刷をする必要がなく、金融機関等へ出向く手間を省くことができます。「所得税徴収高計算書(納付書)」は、年末に年末調整書類と一緒に税務署から郵送されてきます。1年分の納付書が入っているので、紛失しないよう注意しましょう。紛失してしまった場合は、税務署で再発行してもらうことができます。再発行は、納税地を管轄する税務署以外でも対応してくれます。
納付が遅れてしまった場合
源泉所得税の納付が遅れた場合には、不納付加算税と延滞税が課されることになります。不納付加算税は、税務署の通知により納付した場合は納税額の10%、通知を受けることなく自ら納付した場合は納税額の5%が課されます。ただし、納付期限から1カ月以内に納付しており、過去1年間源泉所得税を期限内に納付していた場合は、不納付加算税は課されないこととされています。延滞税は、納付期限の翌日から納付した日までの期間に応じて、一定の割合を乗じて日割り計算されます。いずれにしても、源泉所得税は期限内に納付するようにしましょう。
源泉徴収の対象となる所得
源泉徴収の対象となる所得は、その所得の支払を受ける者の区分に応じて変わります。
個人が受け取る所得
個人が支払いを受ける所得について、源泉徴収の対象とされる主なものは以下のとおりです。
1.給与
・給与、賞与等
2.報酬
・原稿料や講演料など
・弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
・社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
・プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員になどに支払う報酬・料金
・映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金
・芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
・バンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレー等に勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
・プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
・広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
3.その他
・利子
・配当
・退職手当
・公的年金
・保険契約に基づく年金 など
法人が受け取る所得
法人が支払いを受ける所得について、源泉徴収の対象とされる主なものは以下のとおりです。
1.利子
2.配当
3.馬主が受ける競馬の賞金 など
国外居住者や外国法人が受け取る所得
外国に住んでいる人や外国法人が支払いを受ける所得についても、源泉徴収の対象となる所得があります。主なものは以下のとおりです。
1.利子
2.配当 など
源泉所得税の計算方法
源泉所得税の計算方法は、給与所得かそれ以外かで計算方法が異なります。ここでは、源泉徴収の主となる給与と報酬の計算方法について説明します。
給与所得の計算方法
給与は国税庁が毎年発表する「源泉徴収税額表」に従って計算します。「源泉徴収税額表」は所得税徴収高計算書(納付書)と同様に、年末調整書類を一緒に送付されてくるので保管しておきましょう。税額表には月額表と日額表、賞与に対するものがあります。給与の支払期間が月ごと、半月ごと、10日ごと等の場合は月額表を、毎日、週ごと、日割りで支払う場合は日額表を使用します。「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人への支払は甲欄を使用し、扶養親族の数に応じて源泉所得税を算定します。提出していない人への支払は乙欄を使用します。また、給与等の金額は、社会保険料を控除した金額を使用します。
報酬の計算方法
報酬の源泉徴収税額の計算方法は、報酬金額に10.21%を乗じた金額になります。支払金額が100万円を超える場合は、超えた部分の税率は20.42%になります。業種により計算方法に多少の違いがあるので、発行される請求書に記載されている源泉徴収税額を確認しましょう。なお、源泉徴収の対象となるのは個人への報酬のみとなるので、税理士法人や弁護士法人に支払う報酬については源泉徴収の対象となりません。
源泉所得税の納付期限
源泉所得税の納付期限は、原則的な納付期限の他に、条件を満たした場合は納期の特例が認められています。
原則は翌月10日
源泉所得税の納付期限は、源泉徴収の対象となる所得を支払った月の翌月10日になります。納付期限が、土曜日、日曜日、祝祭日にあたる場合には、それらの翌日が納付期限となります。
特例は半年ごとに年2回
源泉所得税の納付書には、源泉の種類ごとに、支払年月日、支払った人数、支給額、源泉徴収額を集計して記載する必要があり、煩雑な作業です。この煩雑な源泉徴収事務について、適用条件を満たせば、源泉所得税の納付を半年ごとの年2回に変更できる納期の特例制度があります。納期の特例制度を利用した場合には、1月から6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税は7月10日までに、7月から12月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税は翌年1月20日までに納付することになります。毎月納付の場合、12月分は翌年1月10日までに納付しなければなりませんが、納期の特例を適用している場合の納付期限は翌年1月20日になるため、納付期限を少し遅らせることができます。
1月提出の源泉徴収高計算書
1月に納付する源泉徴収税額には、年末調整で計算した不足額や過納額を加減算して源泉納付額を計算します。過納額は源泉徴収額から差し引くこととなりますが、過納額が大きいため源泉所得税の納付額が0円になる場合でも、所得税徴収高計算書(納付書)は作成して、所轄の税務署に提出しなければなりません。郵便又は信書便にて提出された場合は、通信日付印により表示された日に提出されたものとみなされます。納付がなく、所得税徴収高計算書の提出もない場合は、税務署から確認の連絡があります。納付額がない時も、忘れずに提出しましょう。
納期の特例の適用
納期の特例を適用するためには、いくつか条件があります。
納期の特例の適用対象
納期の特例の適用対象となるのは、従業員の給与や退職金から源泉徴収をした所得税と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬から源泉徴収をした所得税に限られています。それ以外の源泉所得税、例えば外交員への報酬や個人に対する原稿料などの納付期限は、原則どおり支払月の翌月10日になります。納期の特例の適用対象ではない支払については、臨時的に発生するものが多いかと思われますので、納付漏れにならないよう注意しましょう。
適用条件
納期の特例を適用できるのは、給与の支払を受ける人の人数が常時10人未満である源泉徴収義務者に限られます。支給人員には、役員や常時雇用するパートやアルバイトも含まれます。
給与の支払を常時受ける人数の判定
前述のとおり、納期の特例の適用を受けるためには、給与の支給人員が常時10人未満でなければなりません。常時10人未満というのは平常の状態において10人に満たないということであって、年度末や繁忙期に臨時に雇い入れたアルバイトやパートはその人数に含みません。ただし、建設業等で日雇労働者を雇い入れることが常態になっている場合には、通常で雇い入れている人が10人未満であっても、日雇労働者を含めて10人未満でなければ、納期の特例を適用することはできません。
納期の特例の申請
納期の特例の適用を受けるためには「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を納税地の所轄税務署に提出しなければなりません。申請書を提出した月の翌月末日までに承認または却下の通知がなければ、提出した月の翌月末日において申請が承認されたものとされ、提出日の翌月に支給する給与から納期の特例が適用されます。ただし、滞納や著しい納付の遅れがあるような源泉徴収義務者については、納期の特例が受けられないことがあり、承認を受けたとしても、滞納したり納付が遅れたりすると、承認を取り消されることがあるので注意が必要です。また、納期の特例の適用を受けていても、原則的な方法である毎月納付をすることもできます。
メリットとデメリット
納期の特例のメリットは、煩雑な源泉徴収事務が年12回から2回に減ることにより事務負担を大幅に軽減できることです。また、納付回数が減ることで、納付遅延による延滞税等のリスクも軽減します。
デメリットは、半年分の源泉所得税を一括で納付することになるので、納税額が大きくなり、資金繰りに影響を与える可能性があります。源泉所得税は従業員や報酬の支払先からの預り金なので、納税資金を確保しておくようにしましょう。
納期の特例の注意点
納期の特例を適用するにあたり、いくつか注意点があります。
提出時期と納付の切替
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は会社設立時に設立届等と一緒に提出するのが一般的ですが、提出時期は定められていないので年度の途中からでも申請することは可能です。前述したとおり、納期の特例は申請書の提出日の翌月に支給する給与から納期の特例が適用されます。
(例)申請書を2月に提出した場合
2月支払給与・報酬 → 納付期限 3月10日(原則)
3月~6月支払給与・報酬 → 納付期限 7月10日(納期の特例)
納期の特例を適用する場合には、特例の適用開始時期と納付期限に注意して、納付漏れにならないよう注意しましょう。
給与の支給人数が10人以上になった場合
給与の支給人員が常時10人以上になり、納期の特例の適用条件を満たさなくなった場合には「源泉所得税の納期の特例の用件に該当しなくなったことの届出書」を提出しなければなりません。この届出書を提出した場合には、提出した日の属する納期の特例の期間から適用外となります。
(例)届出書を3月に提出した場合
1~2月支払給与・報酬 → 納付期限4月10日(納期特例の納付書)
3月支払給与・報酬 → 納付期限 4月10日(原則の納付書)
4月以降支払給与・報酬 → 納付期限 翌月10日
給与の支給人員が常時10人以上になったにも関わらず届出書を提出していない場合は、支給人員が10人以上になった時点まで遡り、不納付加算税および延滞税が課せられることになります。余分な出費を防ぐためにも、支給人員が10人以上になった時は、速やかに届出書を提出しましょう。また、適用条件を満たしていても、任意に納期の特例の適用を取りやめることはできます。
まとめ
源泉所得税の納期の特例は、煩雑な事務手続を軽減することができる便利な制度です。
一方で、制度適用時や不適用時の納付はやや複雑なため注意が必要であり、給与の支給人員が適用条件を満たしているかを定期的に確認することも大切です。