経営をしていると、業績が好調な年もあれば、赤字になってしまう年もあります。「今年は赤字になってしまったけれど、来年は黒字になりそう」という場合、税務上の仕組みを活用することで、将来の税負担を軽減できる可能性があります。その仕組みが「青色欠損金の繰越控除」です。
この記事では、青色欠損金の制度を初めての方にもわかりやすく、青色欠損金の基本的な仕組みから具体的な活用方法まで、詳しく解説していきます。
青色欠損金とは何か?
青色欠損金とは、青色申告を行った事業年度において発生した税務上の赤字(欠損金)のことを指します。ここでいう「欠損金」とは、会計上の赤字とは異なり、税法上の計算によって算出される赤字のことです。
具体的には、その年の益金(収益)から損金(費用)を差し引いた結果がマイナスになった場合、その金額が欠損金となります。そして、この欠損金を将来の利益と相殺することで、将来の税負担を軽減する仕組みが「青色欠損金の繰越控除」です。
青色申告の重要性
この制度を利用するためには、赤字が発生した事業年度において「青色申告」を行っていることが必要条件となります。青色申告は、正確な記帳と申告を行うことで、税務上の様々な特典を受けられる制度です。
青色申告の承認を受けるためには、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。この申請は、青色申告を開始したい事業年度の開始日の前日までに行わなければなりません。
法人の設立初年度の場合は、設立の日以後3月を経過した日と当該事業年度終了の日とのうちいずれか早い日の前日までに提出する必要があります。ケースごとに期限が異なるので注意が必要です。
法人の場合
法人の場合、青色欠損金の繰越期間は10年間です。ただし、平成30年4月1日前に開始した事業年度において発生した欠損金については、繰越期間は9年間となります。
法人が青色欠損金の繰越控除を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります:
1.欠損金が発生した事業年度において青色申告書を提出していること
2.その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出していること
興味深いのは、欠損金が発生した事業年度で青色申告を行っていれば、その後の年度で白色申告に変更したとしても、青色申告をして繰り越した欠損金については繰越控除の適用を受けることができる点です。白色申告だからといって青色欠損金がすべて消えてしまうわけではないので、青色欠損金についてはしっかり活用していきましょう。
個人事業主の場合
個人事業主が青色申告を行うことで、事業所得で発生した純損失(赤字)を翌年以降最大3年間にわたって繰り越すことができます。翌年以降に事業所得が黒字になった場合、その黒字から赤字分を差し引いて課税所得を減らすことが可能です。繰越期間は法人の10年に比べて短く3年ですが、損失が大きくても早期の黒字化を目指すことで節税効果が得られます。
繰越控除の具体的な仕組み
青色欠損金の繰越控除は、以下のような流れで行われます:
1.**欠損金の発生**:ある事業年度で税務上の赤字が発生
2.**繰越**:その欠損金を翌年以降に繰り越し
3.**控除**:将来の黒字と相殺して税負担を軽減
法人の場合の具体的な仕組み
– 1年目:300万円の欠損金が発生
– 2年目:150万円の利益が発生
– 3年目:200万円の利益が発生
この場合の計算は以下のようになります:
**2年目:**
– 利益:150万円
– 繰越欠損金控除:150万円
– 課税所得:0円(税額も0円)
– 残りの繰越欠損金:150万円(300万円-150万円)
**3年目:**
– 利益:200万円
– 繰越欠損金控除:150万円
– 課税所得:50万円
– 残りの繰越欠損金:0円
このように、1年目の赤字300万円を2年目と3年目の黒字と相殺することで、トータルでの税負担を軽減することができます。
中小法人等の場合の控除の限度額
資本金1億円以下の中小法人等では、繰越欠損金を全額控除することができます。これは大きなメリットといえるでしょう。
大法人の場合の控除の限度額
資本金1億円を超える大法人では、繰越欠損金の控除に限度額が設けられています。平成30年4月1日以降は、その年の所得金額の50%が控除限度額となっています。
例えば、大法人で繰越欠損金が200万円あり、その年の所得が100万円の場合:
– 控除限度額:100万円 × 50% = 50万円
– 実際の控除額:50万円
– 課税所得:100万円 – 50万円 = 50万円
– 残りの繰越欠損金:150万円(200万円 – 50万円)
青色欠損金のメリット
1.税負担の平準化
事業には好不調の波があります。青色欠損金の繰越控除を活用することで、赤字年度の損失を翌期以降の黒字と相殺できるため、税負担を長期的に平準化する効果があります。この制度を活用することで安定的な財務運営が実現し、資金繰りへの不安を軽減できます。
2.キャッシュフローの改善
将来の税負担が軽減されることで、企業のキャッシュフローが改善されます。これにより、事業投資や運転資金の確保がしやすくなります。税金に回す資金を成長投資や運転資金へ充てることが可能になり、資金の流動性が高まります。
3.経営戦略の柔軟性
青色欠損金の存在により、将来の利益に対する税負担が軽減されることがわかっているため、中長期的な経営戦略にも柔軟性が生まれます。新規事業への挑戦や設備投資といった判断がしやすくなるのです。
4.事業承継時の活用
事業承継時に青色欠損金がある場合、承継後の利益と相殺することで、承継者の税負担を軽減することができる場合があります。
こうした複合的なメリットを知ることで、青色欠損金制度をより効果的に活用する土台が築けます。
注意すべきポイント
1.連続した申告の必要性
青色欠損金の繰越控除を継続的に適用するには、「連続した確定申告」が絶対条件です。
欠損金が生じた事業年度では、青色申告書を提出していることが前提となりますが、その後の各事業年度では、連続して確定申告書を提出していれば、たとえ期限後申告であっても控除の適用が認められます。
ただし、「連続して申告」は青色申告の継続承認にも影響します。2期連続で申告遅延や未提出となると、青色申告の承認自体が取り消されることもあるため、欠損金の活用どころか、青色申告制度そのものが利用できなくなるリスクもあります。
そのため、欠損金を有効に活用するには、少なくとも毎年確実に確定申告書を提出し、できる限り期限内申告を徹底する体制を整えることが大切です。
2.適用除外規定
合併などの組織再編が行われる場合には、青色欠損金の繰越控除が制限される場合があります。例えば、適格合併において、被合併法人が有していた繰越欠損金は、原則として合併法人に引き継がれますが、多額の繰越欠損金を有する会社を買収して取り込むという租税回避行為が行われないよう、一定の場合に、引き継げる繰越欠損金に制限が課せられることがありますので、会社の支配関係に大きな変更がある場合には注意が必要です。
3.期限の管理
青色欠損金の繰越控除には、法人と個人事業主で異なる繰越期間が定められています。法人の場合には10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年)、個人事業主は3年間が限度です。つまり、赤字が発生した年度から数えて、法人なら最大10年以内、個人なら3年以内に黒字を出して相殺しなければ、その欠損金は繰越の対象外となり、節税効果を受けられなくなります。
期限を意識しないまま申告を続けると、せっかくの欠損金が無駄になる可能性があり、長期的な税務戦略に大きな影響を与えることも。特に複数年にわたって欠損金が積み上がっている場合は、年度ごとの期限と金額を一覧で管理し、繰越の優先順位や消化計画を立てることが重要です。
4.古い欠損金から順次使用
複数年度にわたって欠損金がある場合、最も古い年度の欠損金から順次使用する必要があります。任意の年度の欠損金を選択して使用することはできません。
繰戻し還付という選択肢
青色申告法人が活用できる欠損金の税務上の取り扱いには、「繰越控除」だけでなく「繰戻し還付」という選択肢もあります。これは、欠損金が発生した事業年度の前期に納めた法人税の一部を還付してもらえる制度です。
繰戻し還付とは
繰戻し還付とは、当期に赤字(欠損金)が発生した場合に、その損失を前期の黒字とさかのぼって相殺することで、前期に納付した法人税の一部を取り戻すことができる制度です。税務用語では「欠損金の繰戻しによる還付」と呼ばれ、資金繰り改善や即時のキャッシュ回収に役立つ制度とされています。
この制度が適用されるのは、「資本金が1億円以下」の中小法人等に限られており、資本金が1億円を超える大法人や一定の特定法人(相互会社や投資法人など)は対象外です。したがって、欠損が発生していても資本金が大きい企業では繰戻し還付による税還付を受けることはできません。
また、繰戻し還付の適用には、欠損金が発生した事業年度の確定申告を「期限内」に行っていることが必須です。申告が遅れた場合は還付の対象外になるため、タイミングと申告制度の要件をしっかり押さえる必要があります。
このように、繰戻し還付は中小法人にとって貴重な資金確保手段ですが、制度理解と管理体制がなければ活用できない側面もあります。事業年度の損益や資本金規模を踏まえ、税理士と連携しながら最適な選択を検討しましょう。
### 具体例
– 前期:利益100万円、法人税15万円納付
– 当期:欠損金100万円発生
この場合、繰戻し還付を選択すると、前期に納付した法人税15万円の還付を受けることができます。
繰越控除との比較
青色欠損金の活用方法には「繰越控除」と「繰戻し還付」がありますが、それぞれの特徴は大きく異なります。
まず、繰戻し還付は、赤字が発生した事業年度の欠損金を前期の黒字と相殺し、前期に納めた法人税の還付を受ける制度です。還付金が比較的早期に現金として戻るため、資金繰りに余裕のない企業や、短期的なキャッシュフロー改善が急務であるケースに向いています。ただし、資本金1億円以下の中小法人であることや期限内申告の要件がある点には注意が必要です。
一方、繰越控除は、欠損金を翌期以降最大10年間にわたって繰り越すことで、将来発生する利益と相殺し、税負担を軽減する制度です。即時の資金還付はありませんが、長期的な利益予測に基づいた税戦略の構築が可能となり、黒字転換が見込まれる企業に適しています。
つまり、どちらを選ぶべきかは「現在の資金状況」「今後の業績見通し」「適用条件の有無」を踏まえて慎重に判断する必要があります。節税効果だけでなく、経営全体のバランスを考慮した選択が求められます。
実務での活用ポイント
1.適切な記帳体制の構築
青色申告を継続するためには、適切な記帳体制が不可欠です。日々の取引を正確に記録し、必要な書類を適切に保管することが重要です。
2.定期的な業績予測
青色欠損金の活用を最大化するためには、定期的な業績予測と税務計画が重要です。将来の利益見通しを立て、最適な活用方法を検討しましょう。
3.専門家との連携
税法は複雑で頻繁に改正されるため、税務の実務において正確で効果的な判断を下すには、税理士などの専門家との連携が不可欠です。自社の業績や資料をしっかり整理して、どのタイミングで、どのくらい活用できるかを見極める必要があります。そのためには、会社の現状を税理士にしっかり共有して、一番メリットが大きくなるような方法を一緒に考えるのが効果的です。
4.他の税務優遇制度との組み合わせ
青色欠損金の繰越控除は、他の税務優遇制度と組み合わせることで、より大きな効果を得ることができる場合があります。
まとめ
青色欠損金の繰越控除は、事業の浮き沈みがある中で、長期的な視点で税負担を平準化できる非常に有効な制度です。特に中小企業にとっては、全額控除が可能なため、大きなメリットがあります。
ただし、この制度を活用するためには、青色申告の継続や適切な申告書の提出など、いくつかの条件を満たす必要があります。また、制度の詳細は複雑で、適用に際しては専門的な知識が必要となる場合も多くあります。
事業を営む上で避けることができない赤字も、適切な税務戦略により、将来の成長の礎とすることができます。青色欠損金の繰越控除を有効活用し、事業の持続的な発展を目指しましょう。
税務に関するご相談や青色申告の手続きについてご不明な点がございましたら、ぜひお気軽に当税理士法人にお問い合わせください。お客様の事業発展をサポートさせていただきます。