「いつか自分の会社を持ちたい」「新しいビジネスで世の中に貢献したい」そんな熱い思いを抱き、起業を志す方は少なくありません。しかし、起業には何かとお金がかかるもの。特に、事業を始めるための「自己資金」がないと、「融資は無理なのでは…」と諦めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ご安心ください!
実は、自己資金がまったくない状態、あるいは少ない状態でも融資を受け、起業を実現できる可能性は十分にあります。かつては自己資金の要件が厳しかった日本政策金融公庫の融資制度も、2024年度からは大きく変更され、より多くの起業家にとって門戸が開かれました。
このブログでは、初めて起業される方を対象に、「自己資金なし」で融資を受けるための方法や注意点を、税理士事務所の視点からわかりやすく徹底解説します。
「自己資金なし」でも融資が可能な理由とは?
「自己資金がなくても融資が受けられるなんて、にわかには信じられない…」そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。かつての融資制度では、自己資金が重視される傾向にあったため、そう感じるのは自然なことです。
しかし、近年では自己資金以外の要素も総合的に評価され、融資が実行されるケースが増えています。その背景には、以下のような理由が挙げられます。
日本政策金融公庫の要件緩和
これまで、創業融資の代表格である日本政策金融公庫の「新規開業資金」では、「創業時において創業資金総額の1/10以上の自己資金があること」という要件が定められていました。この自己資金要件は、多くの起業家にとって大きなハードルとなっていたのも事実です。
しかし、2024年度から、この自己資金の要件が廃止されました。
これは、政府が創業を積極的に支援しようとする姿勢の表れであり、起業家にとって非常に大きな追い風となります。自己資金が少ない、あるいは全くない方でも、日本政策金融公庫の融資を受けられる可能性が大きく広がったのです。
事業計画の重要性の高まり
自己資金要件の緩和は、金融機関が「自己資金の有無」だけでなく、「事業計画の実現可能性」をより重視するようになったことを意味します。
いくら自己資金があっても、事業内容に将来性がなく、計画がずさんであれば融資は実行されません。逆に、自己資金が少なくても、綿密に練られた実現可能性の高い事業計画があれば、金融機関は「この事業は成功する」と判断し、融資に踏み切る可能性が高まります。
起業家個人の資質への着目
金融機関は、事業計画だけでなく、起業家ご本人の「資質」も評価の対象とします。
・事業への熱意と覚悟
・これまでの職務経験やスキル
・事業に対する深い知識と理解
・困難を乗り越える粘り強さ
・誠実な人柄や信用力
これらが総合的に評価され、自己資金を補う要素として判断されることがあります。
自己資金ゼロでも融資を受けるための具体的な方法
自己資金がない状態で融資を受けるためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。ここでは、具体的な方法を詳しくご紹介します。
説得力のある事業計画書を作成する
自己資金の要件が廃止されたからといって、適当な事業計画書で融資が通るわけではありません。むしろ、自己資金が少ない分、事業計画書の重要性はこれまで以上に高まっています。
事業計画書は、あなたの事業の「設計図」であり、金融機関が融資を判断するための最も重要な資料です。以下の点を意識して作成しましょう。
・明確なビジョンとミッション:
何のために、どんな事業を始めるのか、明確に伝えましょう。
・市場分析とターゲット顧客:
どのような市場で、誰に、何を、どのように提供するのかを具体的に示しましょう。競合他社の分析も重要です。
・製品・サービスの具体性:
提供する製品やサービスが、顧客にとってどのような価値をもたらすのか、具体的に説明しましょう。
・強みと差別化戦略:
他社にはない、あなたの事業の強みは何ですか?どのように差別化を図り、競争優位性を確立するのかを明確にしましょう。
・収益モデルと資金計画:
どのように売上を上げて、利益を出すのか。そして、必要な資金の具体的な内訳と、どのように調達し、どのように使うのかを明確に示しましょう。無理のない返済計画も不可欠です。
・実現可能性と実行力:
計画が絵空事ではなく、現実的に実行可能であることを示しましょう。あなたのこれまでの経験やスキルが、計画の実現にどう活かされるのかをアピールするのも効果的です。
・リスクと対策:
事業には必ずリスクが伴います。考えられるリスクを洗い出し、それに対する具体的な対策を盛り込むことで、計画の信頼性が増します。
ポイント:
・専門家(税理士など)のサポートを受ける:
事業計画書の作成は、専門的な知識と経験が必要です。税理士などの専門家と相談しながら作成することで、より説得力のある計画書に仕上げることができます。
・具体的に、わかりやすく:
専門用語を避け、誰が読んでも理解できるように具体的に記述しましょう。
・数値で裏付ける:
漠然とした表現ではなく、具体的な数値目標(売上、利益など)を設定し、その根拠も明確に示しましょう。
自己資金に代わる「信用」を構築する
自己資金がない分、あなたの「信用力」が重要になります。信用力を構築するためには、以下のような努力が考えられます。
・個人の信用情報を良好に保つ:
クレジットカードの支払い遅延や、消費者金融からの多額の借入などは、信用情報に傷をつけ、融資審査に悪影響を及ぼします。日頃から個人の信用情報は良好に保つように心がけましょう。
・事業経験やスキルをアピールする:
これまでの職務経験で培ったスキルや専門知識、人脈などは、事業を成功させる上で大きな強みとなります。これらを具体的にアピールし、あなたの事業に対する適性や能力を示しましょう。
・共同事業者や保証人:
信頼できる共同事業者を見つけることや、保証人をつけることで、信用力を補完できる場合があります。ただし、安易な保証人依頼は避け、慎重に検討しましょう。
・融資以外の資金調達手段も検討する:
クラウドファンディングやエンジェル投資家からの出資など、融資以外の資金調達手段も視野に入れることで、資金調達の選択肢が広がります。これらを通じて、あなたの事業の将来性をアピールし、信用を積み重ねることも可能です。
日本政策金融公庫の活用
日本政策金融公庫の融資制度は、起業を目指す方にとって非常に強力な選択肢です。特に注目すべきは、以前の「新規開業資金」が、現在は「新規開業・スタートアップ支援資金」と名称を変え、さらに利用しやすくなりました。
日本政策金融公庫のメリット:
・低金利:
一般的な金融機関と比較して、比較的低金利で融資を受けることができます。
・無担保・無保証人:
要件を満たせば、担保や保証人なしで融資を受けられる制度もあります。
・創業支援に特化:
創業期の企業支援に特化しており、創業に関するノウハウや情報提供も充実しています。
利用する際のポイント:
・担当者との面談:
事業計画書の内容をしっかりと説明できるよう、担当者との面談に臨みましょう。熱意と誠意を伝えることが重要です。
・早めの相談:
融資は準備に時間がかかるものです。事業を開始する前から、早めに相談に行くことをお勧めします。
・税理士のサポート:
税理士は、日本政策金融公庫の融資申請に必要な書類作成や面談対策など、きめ細やかなサポートを提供できます。
地方自治体の創業支援制度の活用
各地方自治体も、創業支援に力を入れています。例えば、以下のような制度があります。
・制度融資:
自治体と金融機関が連携して、創業期の企業に低金利で融資を行う制度です。信用保証協会の保証を付けることで、金融機関が融資を実行しやすくなります。
・創業補助金・助成金:
事業の内容や要件によっては、返済不要の補助金や助成金を受けられる場合があります。
・創業支援セミナー・相談窓口:
創業に関するセミナーや相談窓口を設けている自治体も多くあります。情報収集や専門家とのネットワーク作りに活用しましょう。
これらの制度は、自己資金を補うだけでなく、事業の安定的な運営にも役立ちます。お住まいの地域や事業内容に合わせて、利用できる制度がないか確認してみましょう。
その他の資金調達方法の検討
融資だけでなく、以下のような資金調達方法も検討の余地があります。
・クラウドファンディング:
インターネットを通じて、不特定多数の人から少額ずつ資金を募る方法です。事業のアイデアをPRし、共感を呼ぶことで資金を集めることができます。
・エンジェル投資家からの出資:
創業期の企業に投資する個人投資家(エンジェル投資家)から出資を受ける方法です。資金だけでなく、経営のアドバイスや人脈なども期待できます。
・親族・友人からの借入:
信頼できる親族や友人から資金を借りる方法です。ただし、金銭トラブルを避けるためにも、借用書を作成し、返済計画を明確にするなど、 formality を守ることが重要です。
自己資金なしで融資を受ける際の注意点
自己資金なしで融資を受けることは可能ですが、いくつかの注意点があります。
(1)返済計画の綿密さ
自己資金が少ないということは、事業が立ち上がってからすぐに収益を上げ、融資を返済していく必要があります。そのため、より綿密な返済計画が求められます。
・無理のない売上目標設定:
楽観的な売上予測ではなく、現実的で堅実な売上目標を設定しましょう。
・資金繰り表の作成:
事業が立ち上がってからのキャッシュフローを予測し、資金ショートを起こさないよう、詳細な資金繰り表を作成しましょう。
・予備資金の確保:
想定外の出費や、売上が計画通りに進まない場合に備え、ある程度の予備資金を確保しておくことが理想です。
(2)事業の選択と集中
自己資金が少ない場合、あらゆる事業に手を出して広げるのではなく、事業の選択と集中が重要になります。
・得意分野に特化:
あなたの強みや専門知識を最大限に活かせる分野に特化し、確実に収益を上げられるビジネスモデルを構築しましょう。
・スモールスタート:
最初から大規模な投資を行うのではなく、小さな規模で事業をスタートさせ、徐々に拡大していく「スモールスタート」も有効な戦略です。
(3)経費の徹底的な見直し
創業期は、できる限り無駄な経費を削減し、資金を有効活用することが重要です。
・固定費の削減:
オフィス賃料や人件費など、毎月固定でかかる費用はできる限り抑えましょう。
・必要最低限の設備投資:
必要最低限の設備投資に留め、高額な設備はリースやレンタルを検討するなど、賢く資金を使いましょう。
・節税対策:
税理士と相談し、節税対策を早期から講じることで、手元に残る資金を増やすことができます。
(4)専門家との連携
自己資金なしでの起業、そして融資申請は、決して簡単な道のりではありません。だからこそ、専門家との連携が非常に重要になります。
・税理士:
事業計画書の作成支援、融資申請のサポート、資金繰り相談、税務相談など、起業初期から事業全体をサポートします。
・中小企業診断士:
事業計画の策定、経営戦略のアドバイス、補助金・助成金の申請支援など、幅広いサポートを提供します。
・弁護士:
契約書の作成・レビュー、法務相談など、法的な側面から事業をサポートします。
特に、税理士は、融資に関する最新情報にも精通しており、事業計画の数値面についても専門的なアドバイスができます。自己資金なしで融資を検討されている方は、ぜひ早い段階で税理士にご相談ください。
自己資金の「見せ方」にも工夫を
たとえ手元にまとまった現金がなくても、「自己資金として認められるもの」や「自己資金とみなされやすいもの」があります。これらを上手にアピールすることで、融資審査において有利に働く場合があります。
(1)タンス預金やへそくりはNG
タンス預金やへそくりなど、個人の口座に長期間入っていたお金や、出所が不明瞭な現金は、自己資金として認められない可能性が高いです。金融機関は、その資金が「誰のものか」「どうやって貯められたものか」を重視します。
(2)通帳への計画的な入金履歴
自己資金として評価されやすいのは、定期的に、かつ計画的に貯蓄されたお金です。例えば、毎月コツコツと貯めていた貯金であれば、それが通帳に記載されており、継続的な入金履歴があれば、自己資金として評価されやすくなります。
「創業を検討し始めてから、毎月〇万円を事業資金として積み立てています」といった明確な意思表示と、それを示す通帳の履歴は、あなたの計画性と真剣さをアピールできます。
(3)退職金や退職貯蓄
会社を退職して起業する場合、受け取った退職金は、自己資金として非常に有効です。また、企業型確定拠出年金(DC)などの退職貯蓄も、自己資金として認められる場合があります。これらの資金は、出所が明確であり、計画的な貯蓄と見なされやすいからです。
(4)贈与された資金
親族などから贈与された資金も、明確な贈与契約書などがあれば、自己資金として認められる可能性があります。ただし、贈与税が発生する可能性もあるため、税理士に相談することをおすすめします。
(5)みなし自己資金の活用
直接的な現金としての自己資金がなくても、以下のようなものが「みなし自己資金」として評価される場合があります。
・設備投資のための自己資金:
既に購入済みの事業用設備や、事業に使う予定の自動車、PCなどの資産がある場合、それらの価値が自己資金の一部と見なされることがあります。ただし、事業との関連性や、購入時の領収書などで証明できることが条件です。
・事業に直接関連する資格やスキル:
高度な専門資格や、長年の実務経験で培ったスキルなど、事業に直接活かせるあなたの能力は、無形の自己資金として評価される場合があります。事業計画書の中で、あなたのスキルがいかに事業成功に貢献するかを明確にアピールしましょう。
融資審査を通過するための心構え
最後に、融資審査を通過するための心構えについてお伝えします。
(1)熱意と誠実さ
金融機関の担当者は、事業計画だけでなく、起業家ご本人の熱意や人間性も見ています。
・「なぜこの事業をしたいのか」という強い思い
・困難に立ち向かう覚悟
・融資を必ず返済するという誠実な姿勢
これらを面談の中でしっかりと伝えましょう。
(2)質問への的確な回答
面談では、事業計画書の内容について様々な質問がなされます。
・市場動向について
・競合との差別化について
・資金使途について
・売上目標の根拠について
これらの質問に対して、自信を持って、そして論理的に的確に回答できるよう、事前にシミュレーションを重ねておきましょう。曖昧な返答や、質問の意図を理解していないような回答は、あなたの信用を損ねる可能性があります。
(3)不利な情報も隠さない
もし、過去に個人の信用情報に多少の傷がある場合や、他の金融機関からの借入がある場合でも、隠さずに正直に伝えましょう。隠蔽しようとすると、かえって不信感を与え、審査に悪影響を及ぼす可能性があります。不利な情報であっても、その経緯と、改善のための努力や今後の対策を説明することで、誠実な印象を与えることができます。
(4)諦めない気持ち
一度で融資が通らない場合もあります。しかし、そこで諦めてはいけません。
なぜ融資が通らなかったのか、担当者にフィードバックを求めましょう。
・事業計画書を見直し、改善できる点がないか検討しましょう。
・別の金融機関や制度を検討するなど、様々な選択肢を探りましょう。
成功する起業家は、困難に直面しても、常に前向きに解決策を探し、諦めずに挑戦し続けるものです。
まとめ:自己資金ゼロからの起業は夢じゃない!
自己資金ゼロから始める起業は、決して簡単な道のりではありません。2024年度から日本政策金融公庫の自己資金要件が廃止された今、その可能性は大きく広がっています。
最も重要なのは、「いかに説得力のある事業計画書を作成し、あなたの熱意と信用力を伝えるか」です。そして、その過程で、税理士をはじめとする専門家のサポートを積極的に活用することが、成功への近道となります。
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