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2025.07.25

青色申告が取り消される!?「青色申告の承認取消」を徹底解説!

「事業を始めたら、青色申告がお得だよ!」そんな言葉を耳にして、意気揚々と青色申告の承認申請書を提出した方も多いのではないでしょうか?

青色申告は、最大65万円の青色申告特別控除や、赤字の繰り越し、家族への給与を経費にできるなど、多くのメリットを享受できる魅力的な制度です。しかし、青色申告は一度承認されれば永久に続く、というわけではありません。実は、一定の要件を満たさない場合、青色申告の承認が取り消されてしまうことがあるのです。

「え、青色申告って取り消されるの!?」そう思われた方もご安心ください。今回は、青色申告が取り消される「青色申告の承認の取消し」について、初めての方にも分かりやすく、そして徹底的に解説していきます。

青色申告のおさらい:なぜ青色申告は人気なの?

まずは、青色申告がなぜ多くの個人事業主や法人に選ばれているのか、そのメリットを簡単におさらいしておきましょう。

個人の場合

個人事業主の場合、青色申告には、主に以下のメリットがあります。

・青色申告特別控除(最大65万円)
事業所得や不動産所得がある方が、複式簿記で記帳し、確定申告書をe-Taxで提出または電子帳簿保存を行っている場合に、所得から最大65万円を控除できます。これにより、課税所得が減り、税金が安くなります。

・赤字の繰り越し(純損失の繰越控除)
事業で赤字が出た場合、その赤字を翌年以降3年間繰り越すことができます。翌年以降に黒字が出た場合、この繰り越した赤字と相殺することで、所得を減らし、税金を安くすることができます。

・家族への給与を経費にできる(青色事業専従者給与)
生計を一にする配偶者やその他の親族に支払った給与を、一定の要件を満たせば経費にすることができます。

・貸倒引当金の設定
売掛金などの債権が回収不能になるリスクに備え、一括評価による貸倒引当金を必要経費として計上することができます。

・少額減価償却資産の特例
通常であれば何年かにわたって経費にする減価償却資産を、30万円未満であれば一括で経費にすることができます。

法人の場合

法人も青色申告をすることで、税務上の大きなメリットを享受できます。個人の青色申告と同様に、法人の青色申告は節税効果を高め、経営の安定に貢献します。

・欠損金の繰越控除(最長10年間)
法人の事業で損失(赤字)が出た場合、その損失を翌期以降最長10年間にわたって繰り越すことができます。これにより、将来的に利益が出た際に、繰り越した損失と相殺することで法人税等の課税所得を大幅に減らし、税負担を軽減できます。

・欠損金の繰り戻し還付
当期に欠損金が発生した場合、前期に納付した法人税を還付してもらえる制度です。これにより、キャッシュフローの改善にもつながります。ただし、この制度を適用するためには、前期も青色申告をしている必要があります。

・推計による更正または決定の禁止
青色申告をしていれば、税務調査において税務署による推計課税(資料に基づかず税額を推定する方法)が禁止されます。これにより、不正確な帳簿等から生じる税負担増のリスクを回避し、適正な税額で申告が完結します。

・中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
青色申告法人の中小企業者等は、取得価額30万円未満の減価償却資産を、その事業年度に一括で経費にできます。これにより、購入した年に全額を損金算入でき、税負担を軽減できます。適用には明細書の添付が必要です。

これらのメリットは、事業を営む上で非常に強力な味方となり、節税効果も大きいため、多くの事業主が青色申告を選択しています。

しかし、これらのメリットを享受するためには、「適正な記帳」と「期限内の申告」が何よりも重要になります。そして、この「適正な記帳」と「期限内の申告」が守られない場合に、「青色申告の承認取消」という事態に発展する可能性があるのです。

「青色申告の承認取消」とは?:制度の根幹に関わる重要なルール

青色申告の承認取消とは、その名の通り、税務署長が一度承認した青色申告の承認を取り消すことを指します。

これは、単に「来年から白色申告になりますよ」という軽いものではありません。青色申告は、納税者が自主的に正確な帳簿を作成し、それに基づいて適正な申告を行うことを前提に、税制上の優遇措置を与えている制度です。

そのため、その前提が崩れた場合、つまり、「適正な記帳や申告が行われていない」と税務署が判断した場合には、青色申告の承認が取り消されることになります。

これは、青色申告制度の根幹に関わる重要なルールであり、納税者にとってはその後の税務に大きな影響を及ぼす可能性があります。

「まさか自分に限って…」と思いがちですが、知らず知らずのうちに要件を満たさなくなっているケースもありますので、しっかりと理解しておくことが大切です。

青色申告の承認が取り消されるのはどんな時?具体的な事例を徹底解説!

それでは、具体的にどのような場合に青色申告の承認が取り消されてしまうのでしょうか。ここでは、国税庁の定める要件に基づき、主な事例を詳しく解説していきます。

期限内に申告書を提出しなかった場合

これは最も分かりやすく、かつ最も多い取消事由の一つです。

青色申告の承認を受けた事業者は、確定申告書を、その提出期限までに提出しなければなりません。

ご存知の通り、個人事業主の場合は、所得税の確定申告書の提出期限は、原則として翌年の315日です(土日祝日の場合はその翌日)。法人の場合は、法人税の確定申告書の提出期限は、事業年度終了日(決算日)の翌日から2ヶ月以内です。

もし、この期限までに確定申告書を提出しなかった場合、税務署は「青色申告の承認を取り消すことができる」とされています。

「うっかり忘れてた

「忙しくて手が回らなかった

「体調を崩してしまって

どんな理由であれ、期限内に提出しないことは、青色申告の要件を満たさない行為とみなされます。

ただし、一度の期限後申告で即座に取り消されるわけではありません。一般的には、2年連続で期限後申告をした場合に取消の対象となることが多いとされています。しかし、これはあくまで目安であり、悪質性が高いと判断された場合は、1度でも取り消される可能性はゼロではありません。

特に、税務署からの督促状が届いているにもかかわらず、申告・納税を怠り続けた場合は、取消の可能性が高まります。

正規の簿記の原則に従って記帳していなかった場合

青色申告の大きなメリットである「青色申告特別控除(最大65万円)」を受けるためには、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って記帳することが義務付けられています。

「正規の簿記の原則」とは、簡単に言えば、
・日付、相手先、内容、金額をきちんと記録すること
・借方と貸方に分けて記録すること(複式簿記)
・総勘定元帳、仕訳帳などの帳簿を作成すること
・現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、買掛帳などの補助簿も必要に応じて作成すること

といった、事業活動のお金の流れを正確に記録するためのルールです。

もし、税務調査などによって、
・帳簿が全く作成されていない
・作成されているが、内容がでたらめで信頼性が低い
・売上や経費が適切に記録されていない
・勘定科目の使い方が不適切で、実態と異なる

といった状況が判明した場合、税務署は「正規の簿記の原則に従って記帳していない」と判断し、青色申告の承認を取り消すことがあります。

帳簿を作成していても、その内容が正確でなければ意味がありません。日々の取引を漏れなく、正しく記録することが非常に重要です。

帳簿書類を隠蔽・仮装した場合

これは、意図的に不正行為を行った場合に該当します。
・売上を意図的に少なく計上する(売上の隠蔽)
・架空の経費を計上する(経費の仮装)
・領収書を偽造する
・帳簿を改ざんする

など、所得を少なく見せかけようと、意図的に事実と異なる記帳や書類作成を行った場合、青色申告の承認は問答無用で取り消されます。

このような不正行為は、青色申告の承認取消だけでなく、重加算税などの厳しいペナルティが課せられることになります。また、悪質性が高いと判断された場合には、刑事罰の対象となる可能性もあります。

税務署は、税務調査を通じてこのような不正行為を見抜く専門的な知識とノウハウを持っています。決して安易な気持ちで不正に手を染めることのないようにしましょう。

その他のケース

上記の主要なケース以外にも、以下のような場合に青色申告の承認が取り消される可能性があります。

・所得税法に規定する帳簿書類の提示を求められたのに、正当な理由なく提示・提出を拒否した場合
税務調査において、帳簿や関係書類の提示を求められたにもかかわらず、これに応じない場合も取消の対象となります。

・事業を廃止した場合
個人事業を廃止した場合は、青色申告の承認も当然ながら効力を失います。この場合は、取消というよりは「失効」に近いイメージです。

・死亡した場合
個人事業主が死亡した場合も、青色申告の承認は効力を失います。これらのケースは比較的稀ですが、いざという時のために頭の片隅に入れておくと良いでしょう。

青色申告の承認が取り消されたらどうなるの?恐ろしい影響とは?

もし、青色申告の承認が取り消されてしまったら、どのような影響があるのでしょうか?その影響は、想像以上に大きく、事業の運営に支障をきたす可能性もあります。

個人の場合

個人事業主の場合、青色申告の承認が取り消されてしまったら、主に以下のような影響がでてきます。

・青色申告特別控除が受けられなくなる
最大のメリットであった青色申告特別控除(最大65万円)が一切受けられなくなります。これにより、本来であれば所得から控除できたはずの金額がなくなるため、その分課税所得が増え、納める税金が増えてしまうことになります。

・赤字の繰り越しができない
事業で赤字が出た場合でも、翌年以降3年間繰り越して所得と相殺できる「純損失の繰越控除」が適用できなくなります。
もし、承認取消後に赤字が出た場合、その赤字は切り捨てられ、翌年以降の所得と相殺することができません。これは、事業の経営において非常に大きなダメージとなります。特に、開業当初や景気変動によって赤字が出やすい時期には、この制度がないことが事業の継続を困難にさせる可能性もあります。

・家族への給与が経費にならない(青色事業専従者給与)
生計を一にする家族に支払った給与を経費にできる「青色事業専従者給与」の適用が受けられなくなります。
代わりに、白色申告の場合に適用される「事業専従者控除」はありますが、青色申告専従者給与に比べて控除額が非常に少なく、また上限も定められているため、節税効果は大幅に減少します。

・その他の優遇措置が適用できなくなる
上記の他にも、「貸倒引当金の設定」「少額減価償却資産の特例」など、青色申告特有の様々な優遇措置が適用できなくなります。これにより、会計処理の選択肢が狭まり、節税の幅も大きく制限されることになります。

法人の場合

法人の場合にも、青色申告の承認が取り消されてしまったら、法人税法上の様々な優遇措置を受けられなくなり、税負担が増加するという大きな影響があります。

・欠損金の繰越控除・繰戻し還付ができなくなる
法人の大きなメリットである、赤字を翌期以降最長10年間繰り越して黒字と相殺することや、前期に繰り戻して法人税の還付を受けることができなくなります。これにより、赤字が発生した場合の税負担軽減効果が失われます。

・少額減価償却資産の特例が適用されなくなる
取得価額30万円未満の減価償却資産を一括で損金算入できる特例が利用できなくなります。原則通りの減価償却が必要となり、早期の費用化による節税効果が失われます。

・推計による更正または決定の禁止が適用されない
税務調査において、税務署が帳簿や資料に基づかずに、売上や経費などを推計して課税額を決定する「推計課税」が行われる可能性があります。推計課税は実際の課税額より高くなる可能性が高く、税務調査時のリスクが増大します。

再び青色申告を行うには時間がかかる!青色申告の再承認はいつできる?

青色申告の承認が取り消されても、所定の手続きを踏めば再承認を受けることは可能です。しかし、青色申告の承認が取り消された場合、その取消しの日から1年間は、青色申告の承認申請をすることができず、再び青色申告を行うまでには時間がかかるため、注意が必要です。

たとえば、2期連続で期限後申告を行うと、所轄税務署から「青色申告の承認の取消通知書」が送付され、青色申告が取り消されます。ただし、1期のみの期限後申告では取り消しにはなりません。2期目の申告から白色申告扱いとなります。

再度青色申告の適用を受けたい場合は、「青色申告の承認申請書」を提出しますが、取消通知を受けた日から1年間は再提出ができません。

例えば、個人の場合だと、2024年分の申告(2025315日提出期限)で青色申告が取り消された場合、2024年分と2025年分は青色申告ができず、青色取消しの日から1年経過後に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出します。青色申告をしようとする年の3月 15 日までに提出できれば、その年から青色申告をすることができますので、最短で2026315日までに申請した場合には2026年分の申告(2027315日提出期限)で青色申告に戻ることができます。

法人の場合にはさらに時間がかかり、最低でも3期は白色申告が続くことになります。具体的には以下のようなスケジュールとなります。

【例示】

令和63月期(期限後申告)・・・青色

令和73月期(期限後申告)・・・白色

令和83月期(期限内)・・・白色、取消通知書

令和93月期(期限内)・・・白色、承認申請書再提出

令和103月期(期限内)・・・青色

一度取り消されると、その後の手続きや準備にも時間がかかり、すぐに青色申告に戻れるわけではないことを理解しておく必要があります。

これらの影響を総合すると、青色申告の承認取消は、事業の税務コストを大幅に増加させ、経営を圧迫する可能性を秘めていると言えるでしょう。

青色申告の承認取消を防ぐために今すぐできる対策とは?

では、このような恐ろしい事態を避けるために、私たちは何をすれば良いのでしょうか?

青色申告の承認取消を防ぐための最も効果的な対策は、「青色申告の要件を日頃から遵守すること」に尽きます。具体的には、以下の点に注意しましょう。

期限内申告を徹底する

・確定申告の期限を必ず把握する
個人の場合には毎年315日(休日の場合はその翌日)、法人の場合には事業年度終了日(決算日)の翌日から2ヶ月以内、が確定申告の期限です。カレンダーにリマインダーを設定するなどして、絶対に忘れないようにしましょう。

・早めに準備に取り掛かる
ギリギリになって慌てて準備すると、間に合わなかったり、ミスが生じたりする可能性が高まります。年末年始など、比較的余裕のある時期から少しずつ準備を進めましょう。

・e-Taxの利用を検討する
e-Taxで申告書を送信すれば、窓口に出向く手間も省けますし、申告期間中であれば24時間いつでも送信できます。また、個人事業主の場合には、最大65万円の青色申告特別控除を受けるためにもe-Taxによる提出は必須です。

日々の記帳をこまめに行う

・取引が発生したらすぐに記帳する習慣をつける
まとめて記帳しようとすると、記憶が曖昧になったり、領収書を紛失したりするリスクが高まります。毎日数分でも良いので、その日の取引を記録する習慣をつけましょう。

・会計ソフトを導入する
会計ソフトを使えば、簿記の知識があまりなくても簡単に記帳を進めることができます。銀行口座やクレジットカードとの連携機能を利用すれば、記帳の手間を大幅に削減することも可能です。

・レシートや領収書は必ず保管する
どんなに小さな金額のレシートでも、事業に関係するものであれば必ず保管しておきましょう。これらは記帳の証拠となり、税務調査の際にも必要になります。

証拠書類をしっかり保管する

記帳の根拠となる領収書、請求書、預金通帳の控え、契約書などは、法律で定められた期間(原則7年間)しっかりと保管しておきましょう。

デジタル化されたデータであっても、きちんとバックアップを取り、必要な時にすぐに取り出せるように整理しておくことが重要です。

税理士に相談する

・記帳代行を依頼する
「自分では記帳する時間がない」「簿記の知識に自信がない」という方は、税理士に記帳代行を依頼するのも一つの手です。プロに任せることで、正確な記帳が担保され、安心して事業に集中できます。

・決算や確定申告のサポートを依頼する
年に一度の確定申告は、書類作成も複雑になりがちです。税理士に依頼すれば、漏れなく正確な申告書を作成してもらえます。また、最新の税法に基づいた節税アドバイスも受けることができます。

・税務調査への対応
万が一、税務調査が入った場合でも、税理士が同席することで、安心して対応できます。税務署との交渉もスムーズに進められるでしょう。

 

税理士は、あなたの事業の「かかりつけ医」のような存在です。何か不安なことや疑問なことがあれば、早めに相談することで、問題が大きくなる前に解決できるケースがほとんどです。

もし承認取消の通知が来たら慌てず冷静に対応しよう

もし、税務署から「青色申告の承認の取消通知書」が届いてしまったら、どのように対応すれば良いのでしょうか。

まず、決して慌てずに、冷静に対応することが重要です。

1.取消の理由を確認する
通知書には、取消の理由が記載されています。具体的に、どの年の、どのような行為が問題視されたのかをしっかりと確認しましょう。

2.事実関係を確認し、必要な対応を検討する
通知書に記載された事実関係について、自身の帳簿や書類と照らし合わせて確認します。もし、誤解や事実誤認があると感じる場合は、その旨を税務署に説明する準備をします。

3.速やかに税理士に相談する
ご自身で対応しようとせず、すぐに税理士に相談することをお勧めします。税理士は、取消理由の分析、今後の対応策の検討、税務署との交渉など、専門的な立場からあなたをサポートしてくれます。
場合によっては、不服申立てなどの手続きを取ることも可能ですが、これは非常に専門的な知識と経験を要するため、税理士の力を借りることが不可欠です。

4.来年以降の白色申告の準備を進める
取消が確定した場合、来年以降は白色申告で確定申告を行うことになります。白色申告でも最低限の記帳は必要ですので、その準備を進めていきましょう。
承認取消は確かに厳しい状況ですが、適切な対応を取ることで、その影響を最小限に抑えることが可能です。

まとめ

青色申告のメリットを享受し続けるために

「青色申告の承認取消」について、その概要から具体的な取消事由、影響、そして対策までを詳しく解説してきました。

改めて重要なポイントをまとめます。

・青色申告は多くのメリットがある一方で、適正な記帳と期限内申告が必須である。

・期限後申告の繰り返しや、不適切な記帳、不正行為は取消の主な原因となる。

・承認が取り消されると、税金が増えたり、赤字の繰り越しができなくなるなど、事業に甚大な影響が出る。

・日々のこまめな記帳、期限厳守、そして税理士との連携が、取消を防ぐ最も確実な方法である。

青色申告のメリットを継続して享受するためには、面倒でも、「当たり前のことを当たり前にやる」という意識が非常に大切です。

事業が成長すればするほど、取引量が増え、税務処理も複雑になります。ご自身だけで抱え込まず、時には私たち税理士のような専門家を頼っていただければ幸いです。