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2025.07.11

はじめてのマイクロ法人 ~制度のしくみからメリット・デメリットまでやさしく解説します~

最近、「マイクロ法人」という言葉を耳にされたことはありませんか?フリーランスの方や個人事業主の方が、税金や社会保険料の負担軽減のために導入を検討されるケースが増えています。この記事では、マイクロ法人の基本的な仕組みから、個人事業主との違い、導入のメリット・デメリット、注意点までを税理士の視点からわかりやすくお伝えします。

マイクロ法人とは?

マイクロ法人とは、個人や家族だけで運営する小さな会社のことです。正式な法律用語ではありませんが、一般的には代表者一人または家族のみで運営する小規模な会社のことを指します。株式会社や合同会社の形態で設立されることが多く、従業員を雇用せず、自身またはご家族で経営を担うスタイルです。節税や社会保険料の負担を軽くする目的で設立されることが多く、特に個人事業主やフリーランスの方に注目されています。

マイクロ法人の主な特徴

・税金や社会保険料の最適化を目的に設立されることが多い

・設備投資が少なく、スキル型・サービス型の事業と相性が良い

・一人でも設立可能(役員・株主を兼務するケースも多い)

・信用力や契約面での利便性が高い法人格を持つ

個人事業主との違いとは?

マイクロ法人と個人事業主は、いずれも「自分で事業を行う」形ですが、法的な立場や運営上の負担、節税の自由度などに違いがあります。

項目

マイクロ法人

個人事業主

法的地位

法人(会社)

自然人(個人)

設立方法

登記・定款の認証が必要

税務署に開業届を提出

税制度

法人税・住民税・事業税など

所得税・住民税・個人事業税など

社会保険

厚生年金・健康保険への加入義務

国民年金・国民健康保険(任意)

経費処理

範囲が広く制度活用が可能

一定の範囲に制限あり

信用力

高い(法人格)

やや限定的(個人名義)

個人事業主は税務署へ「開業届」を提出するだけで事業を始めることができ、初期費用はほとんどかかりません。事業主本人が「自然人」としてすべての責任を負うため、簡便で柔軟ですが、契約や融資などの信用面では法人に劣る場合もあります。

一方、マイクロ法人は法務局で会社設立の登記を行い、法人格を取得します。これにより、事業主とは別の人格として契約や資産保有が可能になり、社会的信用が高まります。設立には数万円〜20万円以上の費用がかかり、手続きも複雑ですが、戦略的に制度を活用しやすい点が魅力です。

税制面では、個人事業主は「所得税」が累進課税(最大45%)で課されますが、マイクロ法人は「法人税」が定率(15%~23.2%)で適用されるため、一定以上の所得がある場合は法人のほうが有利になることがあります。さらに、マイクロ法人では「役員報酬」や「福利厚生費」などを調整することで、利益や税負担をコントロールしやすくなります。

社会保険についても違いがあります。個人事業主は国民健康保険・国民年金への任意加入ですが、マイクロ法人では代表者が報酬を受け取る限り、厚生年金と健康保険への強制加入となります。ただし、報酬額の設定次第で保険料負担を抑えられる設計も可能です。

このように、マイクロ法人と個人事業主では、「責任と信用」「税制」「社会保険」「制度活用の自由度」に明確な違いがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自分の事業スタイルや目的に合った形を選ぶことが重要です。

マイクロ法人設立の手続きと費用

法人を設立するには、定款の作成→公証人の認証(株式会社の場合)→法務局への登記申請という流れがあります。合同会社の場合は定款認証は不要ですが、登記手続きは共通です。

主な費用の目安

・株式会社の場合:約2025万円程度(定款認証・登録免許税など)

・合同会社の場合:約6万円程度(登記のみ)

また、設立後は以下の手続きも必要です:

・税務署への設立届出書類の提出

・都道府県税事務所・市区町村への通知

・社会保険の加入(代表者が報酬を受け取る場合)

個人事業主と比べて準備すべき項目が多く、事務負担が大きくなりますが、その分多くの制度的メリットがあります。

税金の違いと社会保険制度の違い

個人事業主とマイクロ法人では、税金の課税方法や税率の仕組みや、社会保険の考え方が大きく異なります。それぞれの税制度の違いをしっかり把握することが、合理的で効率的な事業運営につながります。

個人事業主の税制度

個人事業主には主に「所得税」「住民税」「個人事業税」「消費税」の4つの税金が課されます。所得税は累進課税制度で、所得が増えるほど税率が高くなります(5%〜45%)。課税所得は「事業収入-必要経費」で計算され、青色申告を行えば最大65万円の控除や損失の繰越が可能となり、節税効果が期待できます。

住民税は所得に応じて一定の税率が課され、都道府県・市町村単位で徴収されます。個人事業税は、一定の業種に該当し、年間の所得が290万円を超えた場合に課税されます。

また、年間売上が1,000万円を超えると、翌々年度から消費税の申告義務も生じます。インボイス制度が導入されたことで、帳簿の記載要件も厳格化されています。

このように、個人事業主は収入が増えると税負担が重くなる傾向があるため、控除や経費の活用を含めた適正な税務処理が重要です。

マイクロ法人の税制度

マイクロ法人では、主に「法人税」「法人住民税」「法人事業税」「消費税」などの税金が課されます。法人税は、中小法人の場合には所得800万円以下の部分に対して15%、800万円を超える部分に対して23.2%の税率で課税されます。個人事業主のように所得が増えると税率が跳ね上がる累進課税とは異なり、一定水準以上の収益がある場合には、法人化することで税率を抑えられる可能性があります。

また、法人では「損金」として認められる経費の範囲が広く、役員報酬や福利厚生費、旅費交通費など、税務処理上柔軟に計上できる点がメリットです。これにより、利益を調整しながら、戦略的な節税が可能になります。

ただし、利益が出ていなくても、法人住民税(均等割)として毎年約7万円の納税義務があり、赤字でも申告は必須となります。消費税については、売上が1,000万円を超えると課税事業者となり、法人でも納付義務が生じるため、設計と管理が重要です。

個人事業主の社会保険制度

個人事業主が加入する社会保険制度は、主に「国民健康保険」と「国民年金」です。自営業者として任意で加入する制度となっています。

まず、国民健康保険は、医療費の自己負担を原則3割とし、公的医療の保障を受けられる制度です。保険料は、前年の所得や世帯構成に基づいて自治体ごとに算出され、所得が増えれば保険料も増加する傾向があります。令和7年度、東京都千代田区では年間保険料の上限額が最大約109万円と定められています。

次に、国民年金は、20歳〜60歳までのすべての国民が対象の老後年金制度で、月額定額(令和7年度は17,510円)で保険料を納付します。将来支給される年金額は、加入期間や納付状況に応じて決まります。未納があると受給額が減少し、場合によっては受給資格そのものを失う可能性もあるため、継続的な加入と納付が重要です。

このように、個人事業主の社会保険は所得や状況に応じて保険料が変動し、保障も限定的なため、将来に向けた備えや制度理解が欠かせません。

マイクロ法人の社会保険制度

マイクロ法人では、代表者が役員報酬を受け取る場合、厚生年金と健康保険(協会けんぽ)への加入が法律上義務付けられています。これは法人が「社会保険の強制適用事業所」とされるためで、従業員がいなくても対象となります。厚生年金は報酬に比例して将来の受給額が上乗せされる仕組みであり、個人事業主の国民年金よりも保障が手厚くなります。

健康保険(協会けんぽ)は、医療費の自己負担が原則3割で、保険料は報酬額に応じて決定されます。たとえば報酬月額が6万円の場合、東京都では健康保険料と厚生年金保険料の合計額が、会社負担と本人負担を合わせて月約22,000円前後となります(令和7年度時点)。保険料は会社と個人の折半となるため、法人設計次第で最適な保険料のコントロールが可能です。

このように、マイクロ法人の社会保険制度は、保障の充実と保険料の戦略的調整を両立できるのが特徴です。

マイクロ法人のメリット

マイクロ法人の活用は、個人事業主の制度との違いを利用して、節税や社会保険料の最適化など、個人事業主の方にとって大きなメリットをもたらします。マイクロ法人のメリットについて具体的にご説明します。

社会保険料の最適化

一番のメリットとして挙げられるのが、社会保険料の最適化です。個人事業主の場合には、国民健康保険・国民年金へ加入しますが、これらは所得に比例して保険料が増加する仕組みになっており、年収が高くなるほど負担も大きくなります。

一方、法人の場合には、代表者が「役員報酬」を受け取ることで、健康保険(協会けんぽ)と厚生年金に加入することになります。この保険料は報酬額に応じて決まるため、あえて報酬を低く設定することで保険料を抑えることができるのです。たとえば、報酬月額を6万円に設定した場合、健康保険料と厚生年金保険料の合計負担額は、法人と個人合わせても月約22,000円前後となります(2025年・東京都の場合)。これは、同程度の所得で国民健康保険に加入した場合の保険料よりも圧倒的に低い水準です。

所得分散による節税

所得分散による節税とは、個人の収入を法人と個人に分けて計上することで、高い税率が適用される部分の所得を抑え、結果的に税負担を軽減する仕組みです。個人事業主の場合、所得が増えるほど所得税率が上がる「累進課税制度」が適用され、最大で45%の税率がかかることもあります。マイクロ法人を活用することで、事業の一部を法人側に切り出し、たとえば収入の半分を役員報酬として法人から受け取るなどの設計が可能になります。

法人の所得は法人税率が一律で、中小企業の場合は所得が800万円以下なら15%です。そのため、個人で一括して所得を受け取るよりも、法人と個人に分けたほうが税負担を抑えられるケースがあります。節税効果を得るには、収入構造や業務内容に応じた適切な分散が必要となるため、税理士との綿密な設計が重要です。

経費計上の幅が広い

マイクロ法人では、事業に関する支出を法人の「経費」として計上できる範囲が個人事業主よりも広くなるというメリットがあります。たとえば、法人名義で契約した携帯電話、出張旅費、会議費、福利厚生費などが、業務に必要であると認められれば経費として処理可能です。個人事業主の場合、これらは私的利用との区別が難しく、経費として認められにくいケースもあります。

さらに、マイクロ法人では代表者に支払う役員報酬や、社宅制度、退職金制度などを設計することで、個人の生活費の一部を法人経費に組み込むことも可能になります。もちろん、税法上のルールや実態に即した運用が前提となりますが、法人には「会社としての支出」として認められる領域が多いため、計画的な節税が実現しやすいのです。

信用力が高まる

マイクロ法人を設立することで、個人事業主と比べて取引先や金融機関からの信用力が高まる点が大きなメリットです。個人事業主はすべてが自分名義での活動となるため、契約の信頼性や支払い能力を客観的に判断しづらいことがあります。一方、法人格を持つことで、会社名義で契約を交わし、法人名義の口座や名刺を使うことができるため、対外的な印象が格段に良くなります。

また、法人は登記簿や定款などの公的書類で存在が証明されており、法人番号も付与されているため、社会的な存在として認知されやすくなります。融資申請や法人クレジットカードの取得、助成金申請の際にも、法人であることが条件や優遇要因となるケースもあります。

このように、マイクロ法人は事業の信頼性を高め、将来的な事業拡大にもつながる可能性があるのです。

マイクロ法人のデメリット・注意点

マイクロ法人には、活用するにあたって注意すべきデメリットも存在します。マイクロ法人設立後にこんなはずじゃなかったと後悔しないように、デメリット、注意点についてもご説明していきます。

設立費用・維持コストがかかる

マイクロ法人の設立には、個人事業主と比べて初期費用や日々の維持コストがかかる点がデメリットです。まず設立時には、法務局への登記申請にかかる登録免許税(株式会社で最低15万円、合同会社で6万円)に加え、株式会社の場合は定款認証費用も必要となり、合計で約2025万円ほどが一般的です。

さらに、法人として活動する以上、税務申告や決算書の作成が毎年必要になります。これらを税理士に依頼する場合には顧問報酬などの費用がかかり、年間数万円から十数万円のランニングコストが発生することもあります。

加えて、法人は利益が出ていなくても、約7万円の法人住民税(均等割)を毎年納めなければならないため、赤字でも一定の支出が避けられません。こうした点から、マイクロ法人は「制度的なメリット」と「維持コスト」を天秤にかけて判断する必要があります。

社会保険の加入義務

マイクロ法人を設立した場合、代表者が報酬を受け取る限り、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が原則義務となります。これは法人が「強制適用事業所」として扱われるためで、たとえ従業員がいなくても、役員報酬を支払っていれば適用対象となります。

個人事業主の場合は、国民健康保険・国民年金に任意で加入しますが、マイクロ法人では加入が必須となるため、保険料の支払いは避けられません。

副業で設立する場合の注意点

副業でマイクロ法人を設立する際には、いくつか重要な注意点があります。まず、社会保険の取り扱いです。本業の会社で社会保険に加入している場合でも、副業で設立した法人に役員報酬が発生すると、その報酬分も社会保険の対象となることがあります。これにより保険料が増加したり、勤務先の社会保険事務担当に通知がいくことで、副業が会社に知られる可能性もあるため注意が必要です。

また、会社によっては就業規則で副業を制限している場合があります。法人設立は「登記情報が公開」されるため、企業名で検索すると簡単に確認されてしまいます。そのため、会社とのルールや関係性を事前に確認しておくことが大切です。

さらに、法人から報酬を受け取らない設計(報酬ゼロ)で社会保険の加入義務を回避しようとする方法もありますが、税務署から実態のない会社と判断されるリスクがあるため、慎重な設計が求められます。

このように、副業でマイクロ法人を設立する際は、社会保険・会社との関係・税務上の整合性を意識した運用が欠かせません。税理士のサポートのもとで、計画的に進めることが安心につながります。

マイクロ法人に向いている人や事業内容とは?

マイクロ法人に向いているのは、主にフリーランスや副業をしている個人事業主の方、またはセミリタイアを目指す方など、一定の収入がありつつも社会保険料や税負担を最適化したいと考えている方です。

事業内容としては、物理的な設備を必要としない、個人のスキルや知識を活かせる分野に適しています。具体的には、IT系(プログラミング、Web制作)、コンサルティング、デザイン、ライティング、著作権管理、講演活動などが挙げられます。これらの業種は、代表者一人でも十分に運営可能で、法人名義による契約・請求のメリットも享受しやすいです。

収入の分散や社会保険料の調整をしながら、将来的な資産形成にもつなげたいと考える方には、マイクロ法人は非常に有効な選択肢と言えます。制度の活用には、税理士によるサポートが欠かせません。

まとめ

マイクロ法人とは、個人や家族だけで運営できる小規模な法人形態であり、節税や社会保険料の負担軽減などの制度を戦略的に活用できる点が注目されています。個人事業主よりも経費処理の柔軟性や信用力に優れる一方で、設立・維持にかかる費用や社会保険加入の義務など、注意すべきポイントも存在します。事業内容や収益の状況に応じて、個人事業主と法人の違いを正しく理解し、制度のメリットを最大限に活かす設計が重要です。マイクロ法人は、「お得だからなんとなく始める」のではなく、「ライフプランや事業戦略の一環として活用する」ことで、本来の効果を発揮します。導入にあたっては、税理士によるサポートを受けながら、自分に合った仕組みを整えることが成功のカギとなります。