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2025.03.31

証書貸付とは?特徴やメリット・デメリット、その他の貸付についても解説します

事業を継続していく過程で設備投資や事業拡大のために資金が必要になったとき、資金調達の方法として考えられるのが金融機関からの融資です。金融機関からの融資として最も利用されているのが証書貸付です。今回は証書貸付について解説します。

証書貸付の概要

証書貸付とは

証書貸付とは、借主と金融機関が金銭貸借契約を結び、金銭消費貸借契約書を差し入れて行う融資です。20233月末の一般社団法人全国銀行協会正会員(東京地区)主要勘定によると、貸出金の合計2,372,496億円のうち、証書貸付は1,966,449億円であり、全体の82.8%を占めています。

会計処理

証書貸付により金銭を受領した場合は、貸借対照表の負債の部に「借入金」として計上されます。返済期間が1年以内の場合は短期借入金として流動負債の部に、返済期間が1年を超える場合は長期借入金として固定負債の部に区分されます。証書貸付の返済期間はほとんどが1年を超えるものなので、長期借入金として会計処理を行います。

金銭消費貸借契約書

証書貸付の際に作成される契約書が「金銭消費貸借契約書」です。トラブルを未然に防ぐために適切な内容を記載した契約書の作成が必要です。

金銭消費貸借

消費貸借とは、物を借り受けて、後日それと同じ種類、品質、数量の同じものを返すことであり、民法第587条において「消費賃借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」と規定されています。金銭消費賃借については、借り受けた金銭は使用目的のために消費してしまうので、借り受けた金銭そのものを返すことができないため、それと同額の金銭を返すという契約になります。

金銭消費貸借の要件

民法第587条により、金銭消費貸借が成立する要件は以下の2点です。

①借主が貸主に対して金銭の返還を約束すること

②借主が金銭を受け取ること

実際に金銭の受け取りがなければ契約は成立しないこととなりますが、20204月施行の民法改正により、金銭の受け取りがなくても書面によって契約をした場合は、金銭消費賃貸契約が成立することになりました。

(民法第587条の21項)書面による消費賃借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

金銭消費貸借の効果

金銭消費賃貸契約の締結時には、契約書を作成するのが一般的です。契約書を作成した場合は、金銭を支払う前の段階で金銭消費賃貸契約が成立し、貸主は借主に対して金銭を交付する義務が発生します。貸付日になっても貸主が義務を履行しない場合は、借主は貸付の実行を請求することが可能であり、裁判による強制執行や、損害が生じた場合の損害賠償請求を行うことができます。

また、借主においては、貸主に借りた額と同額の金銭を返還する義務を負うことになります。

収入印紙

金銭消費賃貸契約書は、印紙税法に規定された第一号文書に該当するため、収入印紙の貼付が必要です。印紙税の金額は、金銭消費賃貸契約書に記載の金額によって、以下のとおり定められています。

契約金額

印紙税額

1万円未満

非課税

1万円以上10万円以下

200円

10万円を超え50万円以下

400円

50万円を超え100万円以下

1千円

100万円を超え500万円以下

2千円

500万円を超え1千万円以下

1万円

1千万円を超え5千万円以下

2万円

5千万円を超え1億円以下

6万円

1億円を超え5億円以下

10万円

5億円を超え10億円以下

20万円

10億円を超え50億円以下

40万円

50億円を超えるもの

60万円

契約金額の記載のないもの

200円

収入印紙を貼付していない場合であっても、金銭消費賃貸契約が無効になることはありません。ただし、貼付しなかったことに対して過怠税が課されます。税務調査において収入印紙を貼付していなことの指摘を受けた場合には、その納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額(すなわち印紙税額の3倍)に相当する過怠税を徴収されることになり、また、貼り付けた印紙を所定の方法によって消さなかった場合には、消されていない印紙の額面金額に相当する金額の過怠税が徴収されます。ただし、金銭消費賃貸契約書の作成者が所轄税務署長に対し、作成した金銭消費賃貸契約書について印紙税を納付していない旨の申し出をした場合で、その申出が印紙税についての調査があったことによりその金銭消費賃貸契約書について3倍の過怠税の決定があるべきことを予知してされたものでないときは、その過怠税は、その納付しなかった印紙税の額とその10%に相当する金額との合計額(すなわち印紙税額の1.1倍)になります。

契約金額によっては高額の過怠税が課されることになり、徴収金額は損金不算入なので、収入印紙の貼り忘れがないよう注意しましょう。

証書貸付の種類

金融機関からのプロパー融資

プロパー融資とは、銀行などの金融機関から直接融資を受ける方法です。借主が返済できなくなった場合は金融機関が損害を被るため、金融機関は決算書や事業計画書などに対して厳しい審査を実施し、信用度が高いと判断された場合に、融資額・適用金利・返済期間を決定し、プロパー融資を実行します。

プロパー融資を利用できる借主は、きびしい審査に通過した信用度の高い借主であると評価・認識され、金利が低く限度額のない融資を受けることができます。ただし、金融機関は貸し倒れリスクを避けるために返済期間を短く設定することがあるため、月ごとの返済金額が大きくなってしまうというデメリットもあります。

信用保証付き融資

保証付き融資とは、借主は信用保証協会に保証料を支払って金融機関から融資を受ける方法です。借主が返済できなくなった場合には、信用保証協会が残債の80100%を立て替えて返済を行います。融資の返済は銀行に直接行いますが、信用保証協会が立て替えた場合、以降の返済は銀行ではなく信用保証協会に行うことになります。

信用保証付き融資は、借主が返済できなくなった場合でも信用保証協会が立て替え返済を行います。故に貸主である金融機関にとっては貸し倒れリスクが軽減されるため、信用保証付き融資は、プロパー融資に比べ審査に通りやすくなっています。ただし、保証を受けるためには、借主の経営状況と融資額に見合った手数料を支払わなくてはなりません。また、融資限度額は無担保の場合は8,000万円まで、担保があれば28,000万円と決められています。

政府系金融機関の融資

政府系金融機関とは、日本国内の経済発展や中小企業の活動支援といった目的を達成するために、政府が全額または一部を出資して設立された金融機関です。現在は、日本政策金融公庫・国際協力銀行・沖縄振興開発金融公庫・日本政策投資銀行・商工組合中央金庫の5つの機関があり、国の様々な政策に基づき、民間の金融事業だけではカバーしきれない中小企業や農林事業向けの融資、貿易の振興、地域開発への支援などの領域の金融ニーズを補っています。

ノンバンクのビジネスローン

ノンバンクとは、銀行のような預金業務を行わず主として貸付業務を行う金融機関です。ノンバンクのビジネスローンは、使用目的が事業資金や設備投資など事業に必要な用途に限られています。

通常の融資の場合は、審査や融資に2週間~1カ月ほど時間を要しますが、ノンバンクのビジネスローンは融資実行までの時間が短く、担保や連帯保証人不要で利用できるものが多いというメリットがあります。ただし、公的機関や銀行融資に比べると金利は高く設定されており、融資利用可能額は低い傾向にあります。

取り決め事項

金銭消費貸借契約では、貸主と借主の間で契約内容の詳細を決定し、契約書を作成します。

返済期間・据置期間

証書貸付は、ほとんどが返済期間1年以上の長期返済期間となっています。設備投資資金であれば20年以内、運転資金であれば10年以内に返済期間を設定するのが一般的ですが、借主の事業年度や業績によって貸主と相談して決定します。

据置期間とは、融資が実行されてから返済開始となるまでの期間のことをいいます。資金繰りが悪い場合など、据置期間を長くして、返済開始を遅らせることも可能です。ただし、据置期間中は元金の返済は猶予されても利子の支払義務は生じます。

利率

貸主が借主から利息を収受する場合には、金銭消費貸借契約書に利息の計算方法などを明記しなければなりません(民法第589条第1項)。利率は金融機関や商品ごとに標準利率が設定されていますが、借主の財務状況等により変動することもあります。また、返済期間が長い場合は貸倒れになるリスクが高まるため、利率は高くなる傾向があります。

なお、金銭消費貸借契約の適用利率については、利息制限法第1条により、元本の金額に応じて以下のとおり上限が規定されています。

元本額

上限利率

10万円未満

20

10万円以上100万円未満

18

100万円以上

15

返済方法

証書貸付の返済方法は「元金均等返済」または「元利均等返済」になります。

「元金均等返済」とは、融資の返済額(元金)を毎回同額に設定し、融資残高に応じた利息を合わせて返済していく方法です。融資残高の減少に応じて、対応する利息も減少していくので、支払金額は徐々に減っていきます。

「元利均等返済」とは、融資の返済額と利息の合計額が、毎回同額になる返済方法です。返済金額が毎回同額なので資金繰り計画は立てやすくなりますが、返済初期は返済金額に占める利息の割合が大きくなるため元金の減少が遅くなり、結果として「元金均等返済」に比べ、返済総額が多くなります。

担保の有無

証書貸付において、借主が融資の返済ができなくなった場合の保証として担保を設定します。担保には、土地や建物などの資産を担保にする「物的担保」と、代表者等を保証人とする「人的担保」があります。

中小企業は、外部環境の変化が経営に影響を及ぼしやすく、返済が困難になるリスクが高いため担保を設定することが一般的ですが、業績の安定した優良企業などで信用力が高く返済能力に問題がないと判断された場合には、担保なしで融資を受けられる場合もあります。

証書貸付のメリット・デメリット

証書貸付のメリット

証書貸付の最大のメリットは、高額な融資を長期間にわたって受けられることです。新規事業や事業拡大のためには多くの資金が必要になりますが、証書貸付では長期的に必要なまとまった資金を一括で借り入れることが可能です。返済においても、返済期間が長期であれば1回あたりの返済金額を抑えることができ、無理なく余裕のある資金繰りを行うことができます。

また、証書貸付は借手と貸手の二者間契約であるため、貸手側である金融機関との交渉により、返済期間や返済方法、利息などを柔軟に決めることができます。

証書貸付のデメリット

証紙貸付のデメリットは、融資実行まで時間がかかり、手続きが煩雑であることです。証書貸付は長期・高額の融資であるため、金融機関における審査は慎重に行われるため時間を要し、すぐに資金が必要な場合には適切な方法とは言えません。また、証書貸付は借入ごとに契約が必要なので、一度契約していた場合であっても改めて書類の準備・作成をしなければなりません。

証書貸付以外の貸付

証書貸付以外にも貸付方法はいくつかあります。状況に応じて最適な貸付方法を選択することが大切です。

手形貸付

手形貸付とは、借手が約束手形を金融機関に振り出し、手形に記載された金額の融資を受ける方法です。約束手形には、振出人や受取人、金額、支払期日などが記載されており、借手である振出人は記載された期日までに全額を返済しなければなりません。ただし、期日に同額の新手形を差し入れて借入を継続することは可能です。手形貸付は短期的な運転資金やつなぎ融資など資金調達に利用され、貸付期間が1年以内の場合がほとんどです。

手形割引

手形割引とは、取引先などから回収した手形を、支払期日到来前に金融機関に買い取ってもらい融資を受ける方法です。手形額面から手形割引料(手形を支払期日到来前に現金化する際の手数料)を控除した金額が借手に支払われることになります。手形割引は早期の現金化が可能ですが、割引した手形が不渡りになった場合は手形の買戻し義務が発生することになり、資金繰りに影響を与える場合があります。

当座貸越

当座貸越とは、あらかじめ融資限度額を設定し、限度額の範囲内で自由に融資を受けることができ、返済においても余剰資金がある時など借手の都合で行うことができます。借手にとっては利便性の高い融資制度ですが、審査基準は貸し倒れリスクや返済能力を考慮した厳しいものとなっており、一般的には1年ごとの更新となっています。また、金利も高く設定されているので、計画的な利用が望まれます。

まとめ

金融機関からの融資には、証書貸付・手形貸付・手形割引・当座借越がありますが、その中で最も多く利用されているのが証書貸付です。それぞれの特性を理解して、自社の状況に適切な融資方法選択しましょう。