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2024.10.02

消費税の課税事業者とは?課税事業者(免税事業者)となる条件について解説します

買い物や食事をしたときの支払には消費税が発生します。消費者が支払った消費税は、最終的に事業者が納税することになりますが、消費税を納める義務のある課税事業者と、納める義務のない免税事業者に分かれます。今回は、消費税の課税事業者(免税事業者)となる条件について解説します。

消費税とは

消費税は平成元年41日より導入されました。消費税の税収(国税分)は、令和6年度予算で23.8兆円で、国の大事な財源になっています。

消費税の仕組み

消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、消費者が負担し、事業者が納付します。例えば、納税者である事業者が小売店であった場合、商品の仕入代金(10万円)と共に消費税(1万円)を支払い、買い物をした人(消費者)から販売代金(20万円)と共に消費税(2万円)を受け取ったと仮定します。消費税は、この受け取った消費税の額と支払った消費税の額の差額(2万円-1万円=1万円)を納税する仕組みになっています。

税率

消費税の税率は3%から始まり、平成94月に5%、平成264月に8%、令和元年10月に10%に引き上げられています。また、10%への引き上げと同時に、食品等に適用される軽減税率8%も導入されました。そのうち地方消費税が、平成9年に1%で導入され、平成26年には1.7%、令和元年10月には2.2%(軽減税率は1.76%)に引き上げられました。

平成26年度以降、消費税の税収は、社会保障4経費(年金、介護、医療、子供・子育て支援)に充てることになっており、令和6年度当初予算は33.4兆円にのぼります。高齢化の加速により社会保障費は増え続けており、保険料や税金だけでなく多くの借金に頼っています。現在の社会保障制度の次世代への引継ぎ、高齢者中心となっていた社会保障制度を全世代型に転換するためには安定的な財源の確保が必要であるため、消費税率が引き上げられました。

納税義務

事業者は消費者から受け取った消費税について納税義務を有していますが、一定の場合には納税義務は免除されます。

小規模事業者に係る納税義務の免除

基準期間※における課税売上高※および特定期間※における課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者は、消費税の納税義務が免除されます。

消費税法創設時は基準期間における課税売上高が3,000万円以下の事業者は納税義務が免除されていましたが、平成1641日以降に開始する事業年度から1,000万円に引き下げられ、平成2511日以降に開始する事業年度については特定期間における判定が導入されています。

(※)基準期間、特定期間、課税売上高の定義については後述

課税事業者

次の場合は課税事業者となります。

① 基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合

② 特定期間における課税売上高または支払給与の額が1,000万円を超える場合

③ 課税事業者の選択をした場合

④ 資本金1,000万円以上の新設法人または特定新規設立法人

⑤ 適格請求書発行事業者に登録した場合(インボイス制度の適用)

基準期間における課税売上高

消費税の課税事業者か免税事業者かは、基準期間における課税売上高の金額により判定します。

判定基準

基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合は、消費税の課税事業者となります。課税事業者に該当する場合は「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」を、納税地を所轄する税務署長に提出します。基準期間の売上高が1,000万円以下となったことにより免税事業者となる場合は「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出します。

基準期間

基準期間とは、個人事業者にあってはその年の前々年であり、法人にあってはその事業年度の前々事業年度です。ただし、法人の前々事業年度が1年未満の場合には、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間が基準期間となります。

次のような法人の第4期における基準期間を考えてみます。本来であれば第4期の基準期間は第2期になりますが、第2期の事業年度が8カ月の1年未満であるため、上記規定に当てはめて基準期間を判定します。

第1期 令和391日~令和4831日 課税売上高1,200万円

第2期 令和491日~令和5331日 課税売上高700万円

第3期 令和541日~令和6331日 課税売上高2,000万円

第4期 令和641日~令和7331日 課税売上高2,500万円

4期開始の日(令和641日)の2年前の日(令和442日)の前日(令和441日)から1年を経過する日(令和5331日)までの間に開始した事業年度を合わせた期間が基準期間となります。これに該当する事業年度は第2期だけのため、第4期の基準期間は第2期となります。

課税売上高

課税売上高とは、消費税が課税される取引の売上金額(消費税及び地方消費税を除いた税抜金額)と、輸出取引などの免税売上金額の合計額です。返品、値引きや割戻し等に係る金額がある場合には、これらの合計額(消費税及び地方消費税を除いた税抜金額)を控除した残額をいいます。ただし、基準期間が免税事業者の課税売上高は、売上には消費税相当額が含まれていないと解されるので、税抜処理を行わない売上金額が課税売上高となります。

また、基準期間が1年でない法人にあっては、その基準期間に含まれる事業年度の月数の合計額で課税売上高を除し、12を乗じて計算した年換算金額で判定します。例えば、基準期間が7カ月で課税売上高が800万円であった場合は、次のように計算します。

 700万円÷7カ月×121,200万円

上記計算により、基準期間における課税売上高は1,000万円を超えたため当該事業年度は課税事業者となります。

特定期間における課税売上高

特定期間における課税売上高の金額または給与支払額により、課税事業者に該当するか判定します。

判定基準

特定期間における課税売上高または特定期間中に支払った給与等の金額が1,000万円を超える場合は、消費税の課税事業者に該当します。給与等の金額には、所得税の課税対象とされる給与・賞与等が該当し、所得税非課税となる通勤手当や旅費、未払額は含まれません。

課税事業者に該当する場合は「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を、納税地を所轄する税務署長に提出します。

特定期間

特定期間とは、個人事業者にあってはその年の前年の11日から630日までの期間であり、法人にあってはその事業年度の前事業年度開始の日以後6カ月の期間です。ただし、前事業年度が7カ月以下の短期事業年度である法人は、前々事業年度開始の日以後6月の期間が特定期間となります。

課税事業者の選択

免税事業者であっても、届出書を提出することにより課税事業者になることができます。

届出書の提出

基準期間のおける課税売上高が1,000万円以下の免税事業者であっても「消費税課税事業者選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出することで課税事業者になることができます。届出書は、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出しなければなりません。例えば令和641日~令和7331日の期間において課税事業者の適用を受けたい場合には、課税期間の初日の前日である令和6331日までに届出書を提出することになります。

2年継続適用

課税事業者の選択を取りやめ免税事業者に戻る場合は「消費税課税事業者選択不適用届出書」を、免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日の前日までに、納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。ただし、課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、選択不適用届出書は提出することができません。

3月末決算法人の場合の届出書の提出については次のとおりです。

消費税課税事業者選択届出書 令和4331日までに提出
① 令和441日~令和5331日 課税事業者
② 令和541日~令和6331日 課税事業者 
 ②の課税期間から消費税課税事業者選択不適用届出書の提出可
③ 令和641日~令和7331日 免税事業者

課税事業者となった①の事業年度の初日(令和441日)から2年を経過する日(令和6331日)の属する課税期間の初日以後(令和541日以後、②の課税期間中)に選択不適用届出書の提出が可能になります。よって、最短で免税事業者に戻れるのは③の課税期間であり、課税事業者の選択は、少なくとも2年間は継続することになります。

課税事業者を選択するメリット・デメリット

消費税は、事業者が受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた残額を納付しますが、支払った金額の方が大きい場合は還付を受けることができます。例えば、受け取った消費税が50万円、支払った消費税が80万円であれば、差額の30万円が還付されます。ただし、還付を受けることができるのは原則課税方式を採用している課税事業者に限られており、免税事業者は還付を受けることができません。このため、高額な設備投資の予定や大幅な売上減少などの要因により還付見込みがある場合には、免税事業者が課税事業者を選択することにより、還付を受けることができます。ただし、課税事業者の選択は2年継続適用なので、初年度に還付が受けられたとしても、翌年の納税額が前年の還付額を上回る場合には、通算すると納税したことになり、免税事業者でいたほうが有利であったことになります。また、消費税申告書作成のために事務処理が煩雑になるというデメリットもあります。

新たに設立された法人の特例

新たに設立された法人の第1期および第2期については、基準期間が存在しないため納税義務が免除されることになりますが、一定の条件を満たす場合は課税事業者となります。

資本金1,000万円以上の新設法人

新たに設立された法人について、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上の法人は新設法人と呼ばれ、課税事業者になります。資本金の金額は事業年度開始の日の金額で判定するので、資本金800万円で設立した法人が第1期目の途中で増資して資本金1,000万円以上になった場合には、第1期の期首資本金は800万円であるため免税事業者になり、第2期は期首資本金が1,000万円以上なので課税事業者になります。減資した場合も同様に期首の資本金で判定します。

新設法人に該当することとなった事業者は「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を提出します。ただし、法人税法第148条の規定による法人等の設立の届出書に新設法人に該当する旨の記載がある場合には「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」の提出があったものとして取り扱われます。

特定新規設立法人

新たに設立された法人で、その事業年度開始の日における資本金が1,000万円未満であっても、次の要件を満たす法人は特定新規設立法人と呼ばれ、課税事業者になります。

① 基準期間がない事業年度開始の日において、発行済株式または出資の総数または総額の50%超が他の者に直接または間接的に保有されていること。

② 上記①における他の者等の基準期間に相当する期間における課税売上高が5億円を超えていること。基準期間に相当する期間は、原則的には2年前に相当する期間を選択します。

特定新規設立法人に該当することとなった事業者は「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」を、納税地を所轄する税務署長に提出します。

適格請求書等保存方式(インボイス制度)

令和5101日から適格請求書等保存方式いわゆるインボイス制度が導入されました。適格請求書(インボイス)が交付できるのは課税事業者に限られています。

適格請求書発行事業者の登録

適格請求書(インボイス)を発行するためには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を納税地の所轄税務署長に提出して登録を受けなければなりません。ただし、適格請求書を発行できるのは課税事業者に限られているため、免税事業者が適格請求書を発行するためには、課税事業者となり、税務署長に申請書を提出して登録を受ける必要があります。

免税事業者に対する経過措置

免税事業者が「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する場合は、令和5101日から令和11930日までの日の属する課税期間において経過措置が設けられています。課税事業者が申請書を提出する場合は、申請書を提出し登録した日から適格請求書発行事業者となりますが、免税事業者は申請書に登録希望日を記載して、希望する登録日を指定することができます。ただし、提出期限は登録希望日の15日前までになります。例えば、登録希望日が令和621日の場合は、その15日前である令和6117日までに申請書を提出しなければなりません。また、提出は登録申請書のみで、課税事業者選択届出書の提出は不要です。

まとめ

消費税の課税事業者となるかどうかは、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えている場合だけでなく、資本金1,000万円以上の新設法人等に該当する場合など、多くのケースが想定されます。
また、消費税の免税事業者であってもあえて課税事業者を選択するケースもあります。
近年ではインボイス制度の導入など、消費税は更に複雑な制度になっています。自社の状況に不安があれば是非一度税理士にご相談されると良いでしょう。