法人税において認められていた申告期限の延長が、令和2年の税制改正で事務負担軽減および働き方改革の観点から、消費税についても延長が可能になりました。その他の消費税の申告期限が延長される場合も含めて解説します。
消費税の課税期間
消費税の課税期間は消費税法により規定されていますが、届出を提出することにより短縮することが可能です。
原則
消費税の課税期間は、原則として、個人事業者については1月1日から12月31日までの期間、法人については事業年度となっています。また、消費税の申告にあたっては次の事項を記載することになっています。
・課税標準額
・税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額
・控除税額
仕入れに係る消費税額
売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税額
特定課税仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額
貸倒れに係る消費税額
・差引税額
・控除不足還付税額
・納付税額
・中間納付還付税額
・上記金額の計算の基礎その他の事項
課税期間の短縮
課税期間は、特例として事業者の選択・届出により、3か月ごとまたは1か月ごとに区分して短縮することができます。個人事業者が課税期間を3か月ごとに短縮する場合には、1月1日から3月31日まで、4月1日から6月30日まで、7月1日から9月30日まで、10月1日から12月31日までの各期間を課税期間とすることができます。また、課税期間を1か月ごとに短縮する場合には、1月1日から1か月ごとに区分した各期間を1つの課税期間とすることができます。
法人が課税期間を短縮する場合には、事業年度の初日から3か月ごとまたは1か月ごとに区分した各期間を1つの課税期間とすることができます。
課税期間の短縮を受けるためには、原則として、その適用を受けようとする課税期間の開始する日の前日までに「消費税課税事業者特例選択・変更届出書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。また、課税期間を短縮している事業者がその適用をやめようとするときは「消費税課税期間特例選択不適用届出書」の提出が必要であり、事業を廃止した場合を除き、2年間は課税期間の短縮をやめることはできません。
課税期間の短縮は消費税の還付を1年待つことなく早期に受けられること、納付回数を増やすことで1回あたりの納税負担が軽減されるというメリットがありますが、申告回数が増えることにより事務手続きが煩雑になるデメリットもあります。
申告および納付期限
消費税の確定申告及び納付期限は原則として事業年度終了から2か月以内と決められていますが、法人については1か月延長することが可能となりました。
原則
消費税の課税事業者である法人は、課税期間の終了日から2か月以内に申告書を提出し、その消費税額を納付しなければなりません。個人事業者にあっては、課税期間の翌年3月31日が申告書の提出期限および納付期限となります。課税期間の短縮の適用を受けている課税期間においても、原則として課税期間の終了日から2か月以内が提出・納付期限となります。
なお、課税事業者であっても、課税取引がなく納付金額がない課税期間については、確定申告書を提出する必要はありませんが、課税仕入れに対する消費税額や中間納付額があるときは還付申告書を提出することができます。
特例
消費税の確定申告書の提出期限は、次の場合には特例が適用されます。
(1)個人事業者が亡くなった場合
納税義務者であった個人事業者が確定申告書を提出しないで亡くなった場合または課税期間の中途で亡くなった場合は、相続人はその相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に確定申告書を提出しなければなりません。相続の開始を知った日とは、通常の場合は被相続人が亡くなった日になります。
(2)清算中の法人の残余財産が確定した場合
法人が解散した場合は、法人が所有する資産を換価し、債務等を完済し、残余財産を確定します。確定した残余財産は、株主に分配されることになります。残余財産が確定した場合は、その確定日から1か月以内に申告書を提出しなければなりません。ただし、残余財産の確定日から1か月以内に最後の分配が行われる場合には、分配日の前日までに確定申告書を提出しなければなりません。
(3)災害等があった場合
災害その他やむを得ない理由が生じた場合には、申告書の提出および納付期限が延長されます。
(4)法人が延長の届出書を提出した場合
法人税の申告期限の延長の適用を受けている法人は、届出書を提出することにより消費税の申告期限が1か月延長されます。ただし、納付期限については延長することはできません。
災害等があった場合の提出期限の延長
災害その他やむを得ない理由による申告書の提出および納付期限の延長には、地域及び期日をする地域指定による期限延長、対象者及び期日を指定する対象者指定による期限延長、個別に申請する期限延長があります。
災害その他やむを得ない理由とは
災害その他やむを得ない理由には、次のものが挙げられます。
(1)地震、暴風、豪雨、豪雪、津波、落雷、地すべりその他の自然現象の異変による災害
(2)火災、火薬類の爆発、ガス爆発、交通途絶その他の人為による異常な災害
(3)申告等をする者の重病説、申告等に用いる電子情報処理組織で国税庁が運用するものの期限間際の使用不能その他の自己の責めに帰さないやむを得ない事実
地域指定による期限延長
自然災害などの納税者の責任によらないやむを得ない理由により申告・納付をすることができない者が都道府県の全部または一部の地域にわたり広範囲に認められる場合には、国税庁長官が地域および期日を指定して、申告・納付の期限が延長されます。この場合には、指定された地域内に納税地のある納税者については、期限延長の申請手続きを特別にすることなく、申告・納付期限が延長されます。地域および期日の指定は、指定され次第、官報に掲載されることになります。この規定は、東日本大震災において青森県・岩手県・宮城県・福島県・茨城県で、令和元年台風第19号において岩手県・宮城県・福島県・茨城県・栃木県・長野県の一部地域などで適用されています。
地域指定による期限延長は指定地域内にある納税者に限られるため、指定地域内に事業所を有する納税者であっても、その納税地が指定地域外である場合は、申告・納付期限は延長されないので注意が必要です。この場合は、個別指定により申告・納付期限の延長を受けることが可能です。その例示として次の場合が挙げられます。
(1)本社事務所が損害を受け、帳簿書類等の全部又は一部が滅失する等、直接的な被害を受けたことにより申告等を行うことが困難な場合
(2)交通手段・通信手段の遮断や停電(計画停電を含む)などのライフラインの遮断により申告等を行うことが困難な場合
(3)会計処理を行っていた事業所が被災し、帳簿書類の滅失や会計データが破損したことから、決算が確定しないため、申告等を行うことが困難な場合
(4)工場、支店等が被災し、合理的な損害見積額の計算を行うのに相当期間を要し、決算が確定しないため、申告等を行うことが困難な場合
(5)連結納税の適用を受けている場合において、連結庫法人が被災し、連結所得の計算に必要な会計データの破損があったことなどから、申告等を行うことが困難な場合
(6)災害の影響により、株主総会が開催できず、決算が確定しないため、申告等を行うことが困難な場合
このような場合のほか、税理士が次のような理由で関与先事業者の申告等を行うことが困難な場合にも、個別指定の申請をすることができます。
(1)交通手段・通信手段の遮断や停電(計画停電を含む)などのライフラインの遮断
(2)納税者から預かった帳簿書類の滅失または申告書作成に必要なデータの破損等
対象者指定による期限延長
申告等に用いる国税庁の運用するシステムが、申告・納付の期限間際に使用不能であるなど納税者の責任によらないやむを得ない事実により、その申告・納付ができない者が多数に上ると認められる場合には、国税庁長官が対象者の範囲および期日を指定して、申告・納付の期限が延長されます。この場合には、指定された範囲に該当する者については、期限延長の申請手続きを特別にすることなく、申告・納付期限が延長されます。対象者の範囲および期日の指定は、指定され次第、官報に掲載されることになります。
個別指定による期限延長
災害その他やむを得ない理由によって期限までに申告・納付ができない場合は、やむを得ない理由がやんだ後相当の期間内に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出することにより、その理由のやんだ日から2か月以内に限り申告・納付の期限が延長されます。また、地域指定および対象者指定により期限延長が適用されていても、その指定期日において申告・納付ができない場合は、申請書を提出することにより再延長することが可能です。
法人の提出期限の延長(令和2年税制改正)
令和2年の税制改正により、法人税法の確定申告書の提出期限の延長の特例の適用を受ける法人が届出書を提出した場合には、令和3年3月決算(令和3年3月31日以後に終了する事業年度の末日に属する課税期間)から消費税の申告期限が1か月延長できることになりました。
改正の目的
法人税・消費税ともに、申告書の提出期限は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内とされています。法人税においては、確定した決算に基づいて確定申告を行う必要がありますが、決算を確定させる定時株主総会の開催が、定款にて事業年度終了後3か月以内と規定している法人もあり、この場合は決算が確定する時期が申告期限を過ぎてしまう恐れがあるため、届出書を提出することにより、確定申告書の提出期限の1か月延長が認められています。一方、消費税は取引ごとに課税関係が明らかになるという税の性格上、確定した決算に基づいて確定申告を行う必要がないため、法人税のような申告期限の延長の特例は設けられていませんでした。
しかし、消費税の申告後に決算が確定し消費税額に変動があった場合は、修正の申告や更正の請求を行う必要があり、事務負担が生じることになります。また、決算期末から申告に至るまでの期間は業務が集中することもあり、事務負担軽減および働き方改革の観点から、消費税申告期限延長の特例が創設されました。
手続
消費税の確定申告書を提出すべき法人が、申告書の提出期限の延長の特例を受けるためには、次の要件を満たしていなくてはなりません。
・法人税法による確定申告書の提出期限の延長の特例の適用を受ける法人であること
・「消費税申告期限延長届出書」を提出していること
消費税申告期限延長届出書の提出期限は、特例の適用を受けようとする事業年度終了の日までとなります。例えば、令和6年1月期決算において提出期限を延長したい場合は、令和6年1月31日までに届出書を提出する必要があり、期限までに提出した場合は、申告書の提出期限は1か月延長され令和6年4月30日になります。特例の適用を受けるためには法人税法の提出期限の延長の特例の適用を受けていることが要件となりますが、適用を受けていない場合においても消費税申告期限延長届出書を提出することは可能です。
また、提出期限の特例の適用を受けることをやめようとするとき、または事業を廃止したときは、「消費税申告期限延長不適用届出書」の提出が必要です。
課税期間を短縮している場合
課税期間を短縮している法人が消費税の確定申告書の提出期限の特例を受ける場合は、その法人の事業年度終了の日が含まれる課税期間のみ申告期限が延長されます。3月決算の法人が3か月ごとに課税期間を短縮している場合には、課税期間は4~6月、7~9月、10~12月、1~3月に区分されますが、特例が適用されるのは1~3月の課税期間のみとなり、申告期限は1か月延長された6月末となります。
中間申告
提出期限の特例の適用を受ける場合であっても、中間申告については延長されません。ただし、11回の中間申告が適用される法人については注意が必要です。特例の適用を受けていない場合の最初の2回分の中間申告については、事業年度開始日から4か月以内の申告納付となり、3月決算法人であれば最初の2回分の申告納付期限は7月末となります。特例の適用を受けている場合は、最初の3回分の中間申告については、事業年度開始日から5か月以内の申告納付となり、3月決算法人であれば最初の3回分の申告納付期限は8月末となります。
利子税
申告期限の延長の特例が適用されていても、納付期限について延長は認められていないため、法人税と同様に延長された期間の消費税および地方消費税の納付については、その延長された期間に係る利子税を併せて納付しなければなりません。納付期限が遅れた場合に課される延滞税等は所得の計算上損金算入されませんが、利子税は損金算入されます。
具体的には、申告期限の延長を届け出ている会社においては、通常は利子税が課されることを避けるため、法定納期限までにいったん見込納付をします。その後、申告書の提出とともに確定した納税額との差額を精算することになりますが、追加で納税となった場合には、その追加部分に利子税が課されます。
これとは逆に、見込納付した金額が確定納税額を上回る場合には、その差額が還付されます。この場合、更正の請求をする必要はなく、申告書の提出によって自動的に還付を受けることができます。
消費税の申告期限の延長が認められることになっても、納税に関する取扱いは同じですので留意が必要です。
まとめ
申告書の提出期限の特例の適用を受けていれば、決算が2か月以内に確定しなかった場合においても、修正申告・更正の請求等による事務負担が軽減されます。法人税と併せて、消費税についても提出期限の延長の特例を有効活用しましょう。