貸借対象における資産は「流動資産」「固定資産」「繰延資産」から構成されています。資産の中でも短期間で現金化できるものが流動資産ですが、今回は流動資産の種類や流動資産を用いた財務分析について解説します。
資産の種類
貸借対照表の記載方法には、流動性が高い、すなわち換金化しやすい順に記載する「流動性配列法」と、逆に流動性の低い順に記載する「固定性配列法」があります。企業会計原則においては流動性配列法が原則とされているため多くの企業で採用されており、貸借対照表は、流動資産、固定資産、繰延資産の順で表示されています。
流動資産
流動資産とは、短い期間で現金化できる資産のことです。企業の営業活動により発生する資産や、1年以内に現金化できる資産が流動資産に区分されます。
固定資産
固定資産とは、1年以上の長期に渡り保有する資産のことです。固定資産はさらに「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」に分けられます。
有形固定資産
事業のために使用される、形のある固定資産を有形固定資産に区分します。有形固定資産には、土地・建物・機械装置などが該当します。
有形固定資産はさらに「減価償却資産」と「非減価償却資産」に分けられます。減価償却資産は、建物や機械装置など時間の経過に伴って価値が減少していく資産のことで、決算時に減価償却を行い、資産の価値を減少させていきます。非減価償却資産は、土地や骨董品など時間の経過においても価値が下がらない資産のことで、取得時の金額のままで表示されます。
無形固定資産
事業のために保有・使用する、形のない固定資産を無形固定資産に区分します。無形固定資産には、特許権や借地権などの法律上の権利やソフトウェア・営業権などが該当します。
無形固定資産も、有形固定資産と同様に「減価償却資産」と「非減価償却資産」に分けられます。減価償却資産には、技術の進歩により価値が減少していくソフトウェアや特許権などが該当し、毎期均等額の減価償却を行い、資産の価値を減少させていきます。非減価償却資産には、借地権などが該当します。
投資その他の資産
投資を目的として長期保有する固定資産や、有形固定資産と無形固定資産のいずれにもあてはまらない固定資産を投資その他の資産に区分します。投資有価証券・出資金・長期前払費用などが該当します。
繰延資産
繰延資産とは、支出した費用のうち、その効果が長期に渡って及ぶ資産のことです。繰延資産には、会計上の繰延資産と税法上の繰延資産があります。
会計上の繰延資産は、企業会計原則において「すでに対価の支払いが完了し又は支払い義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用」と規定されており、創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債発行費が該当します。
税法上の繰延資産には、会計上の繰延資産に加え以下のものが規定されています。
・自己が便益を受ける公共的施設又は共同施設の設置又は改良のために支出する費用
・資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用
・役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
・製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
・上記に掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用
繰延資産も、固定資産と同様に繰延資産償却をして資産価値を減少させていきます。
流動資産の判定基準
資産が流動資産に該当するかの判定基準には、「正常営業循環基準」と「1年基準」があります。企業会計原則においては、正常営業循環基準が優先適用され、これに該当しないものは1年基準により判定することとされています。
正常営業循環基準
企業は、商品を仕入れ、仕入れた商品を販売して代金を回収、回収した代金で商品を仕入れるという営業サイクルで営業活動を行います。この営業活動において生じる資産を流動資産に区分するのが正常営業循環基準です。営業循環基準に該当するものには、現金預金・売掛金・棚卸資産などがあります。
1年基準
営業循環基準に該当しない資産については、ワン・イヤー・ルールとも呼ばれる1年基準で流動資産に該当するかの判断をします。1年基準においては、決算日の翌日から起算して1年以内に現金化・収益化されるものを流動資産と判断します。
なお、例えば、ウィスキーやワインなどの酒類は、完成するまでに長期の時間を要しますが、営業サイクルの過程に該当するものであるため、営業循環基準が優先され流動資産に区分されます。
流動資産の種類
流動資産に区分される資産の主なものは次のとおりです。
現金預金
現金預金には、保有する現金や普通預金、当座預金のほか、他社から受け取った小切手、1年以内に満期になる定期預金も含まれます。
受取手形
企業が自社の商品や製品、サービスを販売した際に、対価として受け取った手形が受取手形です。受取手形には、約束手形や為替手形、割引手形などが含まれます。受取手形は満期日を迎えれば現金化されますが、債務者の倒産などにより回収不能になるリスクもあります。
売掛金
企業が自社の商品や製品、サービスを販売した際に、代金を後日受け取る権利が売掛金です。受取手形と同様に、債務者の倒産などにより回収できなくなる場合があるので注意が必要です。
有価証券
有価証券とは、株券や社債などの債権のことです。そのうち、売買目的または満期保有目的の有価証券のうち満期日が1年以内のものが流動資産の有価証券に該当します。売買を目的としないものや満期日までの期間が1年を超える有価証券は、「投資有価証券」として固定資産の投資その他の資産に区分されます。
商品
商品とは、企業が販売目的で仕入れ、加工を行わずそのまま販売する物品です。
製品
製品とは、販売目的で、自社で製造・加工を行った物品です。
原材料
原材料とは、製品の製造のために仕入れた材料や部品です。
仕掛品
仕掛品とは、製品の製造過程の途中にある完成していない製品です。
前渡金
前渡金とは、商品や材料を購入する際に、仕入前に先に支払った金銭です。一般的には「前金」「手付金」「内金」などと呼ばれています。
未収入金
未収入金とは、固定資産や有価証券の売却など、通常の営業取引以外で生じた債権です。未収入金の回収時期が1年以内の場合は流動資産に区分されますが、回収時期が1年を超える場合には「長期未収入金」として、固定資産の投資その他の資産に区分されます。
前払費用
前払費用とは、一定の契約に基づき継続的にサービス受けるために支出した費用のうち、翌期以降に受けるサービスに対応する部分です。
仮払金
仮払金とは、従業員の出張旅費や交際費など最終的な支払金額が確定していないため、概算で一時的に支払った金額です。支払金額が確定したら精算し、仮払金を費用科目へ振り替えます。
貸付金
貸付金とは、将来返済してもらう約束で貸した金銭債権です。返済期限が1年未満の場合は流動資産に区分されますが、1年を超える場合には「長期貸付金」として固定資産の投資その他の資産に区分されます。
貸倒引当金
貸倒引当金とは、売上債権が回収できなかった場合の損失に備え、あらかじめ見積もり計上する引当金です。貸倒引当金は企業会計原則において、その債権が属する科目ごとに控除する形式が原則とされているため、流動資産からマイナス表記されます。
流動資産を用いた財務分析
流動資産から様々な財務分析を行うことができます。
流動比率
流動比率(%)=流動資産/流動負債×100
流動比率とは、流動資産の流動負債に対する割合を示しており、企業の短期的な債務の支払能力を示す指標です。流動比率が高いほど資金繰りに余裕があると判断でき、流動資産の金額が流動負債の金額を超えていれば、流動比率は100%を超えることになります。流動比率は業種により違いがあり、小売業や飲食・飲食サービス業では低く、情報通信業や建設業では高くなる傾向にありますが、120%が一般的な目安であり、200%を超えていれば優良であると言われています。2022年の財務省の資料によると、全産業・全規模の流動比率は153.2%、製造業(全規模)で156.5%、非製造業(全規模)で151.9%です。
流動比率を見る際には、流動資産の内容を確認することも必要です。流動資産には商品や製品などの在庫、仮払金、短期貸付金なども含まれていますが、これらの流動資産は1年以内に現金化されるとは限りません。支払のタイミングで資金が用意できないリスクもあるため、流動資産の内容の確認と他の財務指標も併用した財務分析が必要となります。
当座比率
当座比率(%)=当座資産/流動負債×100
当座資産とは、流動資産のうち容易に換金が可能な資産を総称したもので、現金預金・売掛金・未収入金などが該当し、棚卸資産・前払費用などは含みません。当座比率は、流動負債に対する当座資産の割合を示しており、流動比率よりも厳密に短期的な支払能力を示す指標です。当座比率も、流動比率と同様に、高いほど資金繰りが安全であると言え、当座比率が100%を超えていれば、当座の現金で短期的な負債を返済できると判断できます。2022年の財務省の資料によると、全産業・全規模の当座比率は91.8%、製造業(全規模)で93.2%、非製造業(全規模)で91.2%です。
手元流動性比率
手元流動性比率(月)=手元流動性/月商
手元流動性とは、当座資産から売掛金や未収入金などを除いた現金預金・1年以内に換金できる有価証券が該当し、とりわけ換金性の高い流動資産のことです。手元流動性比率は、手元流動性を月商(売上高/12ヵ月)で割ったもので、月商に対して何か月分の支払能力を確保しているか判断する指標です。短期的な支払能力を示す指標には、流動比率、当座比率がありますが、より厳密に短期の支払能力を示しているのが手元流動性比率であり、次いで当座比率、流動比率の順となります。
手元流動性比率が高いほど一般的に財務安全性が高いと判断されますが、手元流動性が高すぎると、企業が営業活動から得られた資金を再投資せず、手元の資金を寝かせていると捉えることもできます。
流動資産回転率
流動資産回転率(回)=売上高/流動資産
流動資産回転率とは、流動資産に対する売上高の割合を示しており、流動資産がどれだけ効率的に売上高を生み出しているかを測る指標です。流動回転率が高いほど効率的であると判断されますが、棚卸資産や売掛金など流動資産の増加により流動資産回転率は減少し、売上高が増加すれば流動資産回転率は増加します。
売上債権回転月数
売上債権回転月数(月)=売上債権/月商
売上債権回転期間とは、売上高に対する売上債権(売掛金・受取手形)の割合を示しており、企業が所有する売上債権がどれくらいの期間で回収できるかを計る指標です。売上債権回転月数が短い場合は、一般的に売上債権が現金化できるまでの時間が短いため、資金繰りが健全的かつ効率的であると言われています。売上債権回転月数の長い場合は、売上債権の回収に時間がかかっていることを意味しており、資金繰りに影響を与えていると考えられます。
2022年の財務省の資料によると、全産業・全規模の売上債権回転月数は1.88月、製造業(全規模)で2.30月、非製造業(全規模)で1.72月です。
棚卸資産回転月数
棚卸資産回転月数(月)=棚卸資産/月商
棚卸資産回転月数とは、売上高に対する棚卸資産の割合を示しており、企業が所有する棚卸資産(製品または商品・仕掛品・原材料・貯蔵品)をどのくらいの期間で販売されたかを計る指標です。棚卸資産回転月数が短い場合は、一般的に棚卸資産が効率的に収益に結びついていると言われます。棚卸資産回転月数が長い場合は、在庫の増加や販売までの期間の長期化が背景にあると考えられます。
2022年の財務省の資料によると、全産業・全規模の棚卸資産回転月数は1.08月、製造業(全規模)で1.61月、非製造業(全規模)で0.88月です。
売上債権対買入債務比率
売上債権対買入債務比率(%)=売上債権/買入債務×100
売上債権対買入債務比率とは、買入債務(買掛金・支払手形)に対する売上債権の割合を示しており、営業サイクルにおける支払能力を示す指標です。100%を超えていれば売上債権の回収と買入債務の返済を同時に行った場合に現金預金が増加していることになるため、比率が高いほど資金繰りに余裕があると言えます。ただし、売上債権の回収期間と仕入債務の返済期間が考慮されていないため、比率の変化に注意することも必要です。
まとめ
貸借対照表に表示される資産のうち、流動資産は企業の支払能力を示します。それぞれの流動資産の特性を理解し、財務分析を用いることで現状を把握し、問題点があれば迅速に対応することが大切です。