会社間の取引において、代金決済に手形が用いられることがあります。受け取った手形を期日前に現金化するのが手形割引であり、緊急に現金が必要になった場合に利用される資金調達方法のひとつです。今回は手形割引のメリット・デメリット、手形割引と同様に早期の資金調達に利用されるファクタリングとの違いについて解説します。
手形割引について
そもそも手形とは
手形とは、定められた期日までに券面に記載された金額を支払う約束を示した証書です。約束手形と為替手形があり、記載事項等は手形法によって定められています。約束手形は、代金を支払う人(振出人)が代金を受け取る人(受取人)に対して振り出す2者間の取引です。対して為替手形は、振出人が手形の支払を依頼して、依頼された人(支払人)が受取人に対して支払いを行う3者間の取引になります。為替手形には3種類あり、振出人自身が支払を行う「自己宛為替手形」、振出人以外の人が支払を行う「他人宛為替手形」、振出人が手形金額を受け取る「自己受為替手形」があります。約束手形は振込や電子記録債権(でんさい)などの電子決済に多く利用されており、為替手形は確実に取り立てを行う必要がある場合など特殊な場合に利用されています。
手形割引(割引手形)とは
手形割引(割引手形)とは、代金回収のため受け取った手形を、支払期日前に銀行や手形割引業者に買い取ってもらって現金化することです。支払期日前に現金化するため、支払期日までの利息相当額(割引手数料)を差し引いて現金を受け取ることになります。通常、受け取った手形は支払期日までは現金化することができませんが、急に現金が必要になった場合には手形割引は有効な資金調達手段です。
裏書手形との違い
手形の種類の中には、割引手形に似た裏書手形があります。裏書手形は、受け取った手形を別の取引先へ譲渡することにで、支払い手段として利用することができます。手形の裏に手形を譲渡する人と譲渡される人の記名押印をするため、裏書手形と呼ばれています。手形割引をする場合も手形の裏書を行いますが、現金化するか、そのまま譲渡するか、用途の違いが手形割引との違いになります。
手形割引の流れ
受け取った手形を現金化する流れについて解説していきます。
金融機関への申込
所有している手形について、銀行や手形割引業者に手形割引の申し込みをします。銀行による手形割引は、割引率が低いため受け取ることのできる金額が多くなりますが、審査が厳しく、現金化するまでに数日かかることもあります。一方、手形割引業者による手形割引は、手続きが簡略化されており審査も通りやすく、現金化されるのも早くなりますが、割引率が高いため受け取ることのできる金額は少なくなります。経営状態が良好で資金調達に時間的な余裕がある場合は、銀行への申込が適しており、信用力が乏しかったり資金調達に時間的に余裕がない場合は、手形割引業者への申込が適しているといえるでしょう。手形割引業者に申し込みをする場合は、貸金業者登録済みであるか、活動年数、口コミ評価などを事前に確認しておくことが大切です。
金融機関における審査
手形割引は、実質的には手形を担保に融資を受けていることと同じなので、会社の業績や財務状況について融資同様の審査を受けることになります。手形割引を申し込まれた金融機関は、まず手形振出人に対する審査を行います。支払期日までに確実に決済できるだけの信用力があるかどうかを、手形を発行した金融機関や信用調査機関が持つ情報をもとに判断します。次に、手形割引の申込人に対する審査を行います。手形が支払期日までに決済できない状態、つまり不渡りになった場合は、申込人に買い戻しをしてもらう必要があるため、それだけの信用力があるかどうかを判断していきます。振出人の信用力が高くても、申込人の業績や財務状況が著しく悪い場合には、審査が通らない可能性もあるので注意が必要です。
一方、手形割引業者では、振出人の信用力が高ければ買戻しのリスクが低いと判断され、申込人の審査はほとんど行われません。そのため、短時間の現金化が可能となっています。
銀行における審査については、預金通帳・本人確認書類・登記事項証明書・印鑑証明書・決算書などが必要になります。手形割引業者にあっては、銀行に比べて提出が必要な書類は少なくなっています。
契約・現金化
金融機関における審査が完了したら、申込人と金融機関との間で契約を締結し、手形が現金化されることになります。手形券面額から割引手数料を控除した金額が、現金や指定口座への振込によって支払われます。
手形割引後に支払期日が来たら、振出人は金融機関へ手形券面額を支払います。振出人が期日までに支払うことができず不渡りになってしまった場合には、申込人が買戻しをすることになります。
手形割引のメリット
早期の資金調達
手形割引の最大のメリットは、早期の資金調達を可能にすることです。手形の支払期日は長いものが多く、3~4カ月先のこともあります。その間、受取人は手形を現金化することはできませんが、仕入代金や固定費の支払は発生するので、支払期日に入金される予定があったとしても、その間に資金不足に陥る可能性があります。現金化されるまでの手形は、財務諸表上は売上債権である受取手形で処理しますが、売上債権が多くなると、損益上は利益が発生していても資金繰りは悪化していて、黒字倒産という最悪の結果になりかねません。手形割引を利用することで早期の資金調達が可能となり、資金繰りの悪化に対応することができ、キャッシュフローの改善につながります。
審査の通りやすさ
手形割引を利用するためには、金融機関の審査に通らなければなりません。通常の銀行融資を受ける場合には、多くの書類を準備し、決算書や事業計画などを厳格に審査されます。大企業であっても利益が出る見通しが説明できなければ、融資を断られることもあります。対して手形割引は、審査で重要視されるのは振出人の信用力です。振出人の信用力が高ければ審査は通りやすくなります。
手数料が低い
手形割引は、実質的には手形を担保に融資を受けているといえます。融資には利息が発生しますが、手形割引に係る割引手数料は、金融機関におけるビジネスローンなどの高金利の融資に比べて低くなっています。ビジネスローンなどで金利が10~15%程度になることがありますが、銀行であれば割引手数料は1.5~4.5%程度です。また、割引手数料は支払期日までの日数分で計算されるため、長期融資の利息負担に比べると負担は少なく済みます。
割引手数料の計算方法は以下のとおりです。
割引手数料=手形の券面金額×手形割引率×支払日までの日数÷365日
手形割引のデメリット
割引手数料がかかる
手形割引には、割引手数料が発生します。支払期日まで待って資金化すれば券面額満額を受け取ることができますが、手形割引の場合は手数料が差し引かれることになります。また、頻繁に手形割引を利用すると収益性の悪化につながります。
不渡りになった場合の買戻し
手形割引には償還請求権があります。償還請求権とは、債務者から金銭債権が支払われない場合に、元の債権者に遡って直接請求できる権利です。手形割引に利用した手形が不渡りになった場合、申込人は金融機関から手形を買い戻さなければなりません。手形割引の利用により資金調達をしている場合の多くは、早期に資金を得たいときなど資金繰りに余裕がない時であり、この時期に買い戻し義務が生じるとさらなる資金繰りの悪化を招く恐れがあります。手形割引を利用する際は、不渡りになるリスクを認識しておくことが大切です。
金額を分割しにくい
手形割引を行う場合、原則として券面の金額を分割して現金化することはできません。例えば、500万円の手形を持っていて、そのうち100万円が必要になり現金化したい場合であっても、現金化できるのは500万円全額であり500万円分の割引手数料がかかってしまいます。ただし、振出人から同意を得ることができれば分割できることがあるため、まずは振出人に確認してみましょう。
ファクタリングとの違い
手形割引と似た資金調達方法にファクタリングがあります。それぞれの違いを理解して、状況に応じた資金調達方法を選択することが大切です。
現金化の対象
手形割引とファクタリングの大きな違いは現金化の対象です。受け取った手形を現金化する手形割引に対し、ファクタリングは保有する売掛金を現金化します。売掛金は法的に保証されているものではないので、取引先の事情によっては支払いが行われない可能性がありますが、手形は不渡りが2回発生すると銀行の取引停止処分の対象となるため、売掛金に比べ債権の未回収リスクは低いといえます。
貸金業法の適用の有無
消費者金融などの貸金業者や、貸金業者からの借入について定めている法律を貸金業法といいます。手形割引には貸金業法(銀行の場合は銀行法)が適用されています。貸金業法は、返済しきれないほどの借金を抱えてしまう多重債務者の増加が深刻な社会問題となったことから、これを解決するため、平成18年に従来の法律が抜本的に改正されて作られた法律です。金利の上限については20%と決められていて、その他借入総額や返済金の取り立て方法など利用者が安全に利用できるよう詳細に定められており、貸金業者の法令遵守が義務付けられています。
一方、ファクタリングは法的に売上債権の売買契約とされ、貸金業に該当しないため貸金業法は適用されません。手数料の上限がないので、利用の際には手数料が過度に高くないかなどの確認が必要です。ファクタリング自体に違法性はなく有効な資金調達手段のひとつですが、ファクタリングを装った高金利の貸付を行うヤミ金融業者の存在が確認されており、金融庁は偽装ファクタリングを利用することのないようHP等で注意喚起を行っています。
償還請求権の有無
前述のとおり手形割引には償還請求権があるため、手形が不渡りになった場合は申込人がその手形を買戻ししなければなりません。一方ファクタリングは、原則として償還請求権のない契約になるため、売掛金の回収ができない場合であっても、申込人はファクタリング会社から売掛金相当額の支払を請求されることはありません。売掛金が貸し倒れになるリスクはファクタリング会社が負うことになります。
今後の手形取引
代金決済の手段として利用されている紙の手形・小切手について、政府の「未来投資戦略2017」において電子化が提言されており、政府・産業界・金融界は2026年の利用廃止に向けた取り組みを行っています。
手形の利用廃止の背景
手形が廃止される主となる理由は、取引上の立場の弱い受注側企業の資金繰りの悪化です。手形による支払いは、現金が手元に入るまでの期間が長くなっており、支払期限前に手形割引により現金化した場合も、割引手数料が差し引かれ券面額を受け取ることができません。
「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」の報告書によると、代金決済において現金振込のサイトが約50日であるのに対し、手形は約100日と現金に対し約2倍の長さであり、現金の支払期日に手形が振り出される取引も多く存在し、その場合は約150日と3倍の長さになっています。同報告書によると振出人の76.4%が、受取人の92.6%が、手形の利用をやめたいとの意向を持っています。
手形廃止へ向けた動向と廃止後の代金決済
経済産業省では、代金決済の方法として受注側企業ができる限り早く現金を受領できるよう、インターネットバンキングによる振込を含む現金支払いを推奨しています。また、現金支払いの実現が困難な企業に対しては、紙の手形と同等の機能を持つ電子記録債権(でんさい)の利用を求めています。でんさいとは、資金調達の円滑化等を図ることを目的に平成25年2月から開始したサービスで、全国の金融機関が参加する「でんさいネット」上において、電子記録債権で取引をする決済インフラです。
全国銀行協会は2026年の手形廃止に向け、2022年11月2日に全国179か所の手形交換所における交換業務を終了し、電子交換所の運用が開始されました。利用者の手続きに変更はありませんが、これまで金融機関から手形交換所に持ち込まれていた紙の手形は、金融機関がイメージデータに変換し電子交換所に送受信する仕組みに変更されました。また、三井住友銀行は2023年10月から、三菱UFJ銀行とみずほ銀行は2024年1月からの新規の当座預金口座の開設者を対象に、紙の手形・小切手の発行を停止し、2027年4月以降を期日や振出日とする手形や小切手の受付も2024年1月から停止しました。2026年の紙の手形廃止に向けた取り組みは、金融業界においても進められています。
まとめ
思いがけず現金が必要になった場合に早期に現金化できる手形割引は、資金調達の有効な手段ですが、割引手数料の負担や不渡りによる買い戻しのリスクもあります。また、手形を現金化する手形割引に対して、売掛金を現金化するファクタリングも、早期の現金化が実現できる有効な資金調達方法です。メリットとデメリットを理解して、自社にとって最適な資金調達方法を選択しましょう。