確定申告と納税は終わったはずなのに、税務署から納付書が送られてきて驚いたことはありませんか?税金には予定納税・中間納付という制度があり、一定金額以上の税金を支払った場合、翌年の税金を前もって支払う決まりがあります。今回はこの予定納付・中間納付について解説していきます。
予定納税・中間納付の概要
予定納税・中間納付とはいったいどのような制度なのでしょうか。最初に概要を説明します。
予定納税・中間納付とは
予定納付・中間納付とは、前年の確定申告による納税額が一定金額を超えた場合に、今年の納税額の一部を前もって納税しておく制度です。前年の納税額が多かった場合、翌年も多くなる可能性があります。そこで一度で全額を納付する場合の負担感を緩和することや、国の税収を平準化する目的で施行されました。納税額は前年の納税額を基準として算出されます。
対象となる税金の種類
予定納税・中間納付が必要となる国税は、所得税・消費税・法人税の3つが中心となります。所得税については「予定納税」と呼ばれ、納税額はその年の6月15日までに、書面またはe-Taxで通知されます。法人税については「中間納付」と呼ばれ、納税者が中間申告書を提出しなければなりません。
所得税の予定納税
対象者
所得税の予定納税が必要になるのは、予定納税基準額が15万円以上の納税者です。予定納税基準額とは、その年の5月15日現在において確定している前年の所得税の納税金額になります。予定納税基準額には、前年の所得金額に山林所得や退職所得などの分離課税の所得(上場株式等の配当所得等を除く)や一時所得などが含まれていません。年によって変動が多い所得については、予定納税の計算の基準から除外されています。
予定納税額
所得税の予定納税は年2回です。1回あたりの予定納税額は、予定納税基準額の1/3になります。
納付期限
所得税の予定納税は年2回とされており、納付期限は第1期分が7月31日、第2期分が11月30日になっています。預金口座からの振替納税を選択している場合は、納付期限の日に口座から振替が行われます。期日に口座振替ができるよう、預貯金残高に注意することが大切です。
消費税の中間納付
消費税は前期の納税額に応じて、納付回数も変わってきます。
対象者
現在の消費税率は10%と軽減税率の8%ですが、内訳は国税分と地方税分に分かれています。10%の場合は、国税7.8%、地方税2.2%になっており、軽減税率8%の場合は、国税6.24%、地方税1.76%になっています。消費税の中間納付は、前期の国税部分の納付金額が48万円を超える場合、中間申告および納付が必要になります。
納付回数
消費税は前期の国税部分の確定消費税額に応じて、申告・納付回数は次のようになります。
前期の確定消費税額 |
納付回数 |
48万円超から400万円以下 |
年1回 |
400万円超から4,800万円以下 |
年3回 |
4,800万円超 |
年11回 |
前期の確定消費税額が大きいほど、納付回数が増えていきます。
中間申告・納付期限
中間申告・納付期限は、各中間申告対象期間の末日の翌日から2ヵ月以内となります。年11回の納付の場合は毎月納付を行うことになりますが、事業年度開始時期は、前期の確定申告の手続き期間と重なってしまうため申告・納付期限が異なります。個人事業者は、1月から3月分については5月末日に、法人はその課税期間開始後の最初の1カ月分については、その課税期間開始日から2カ月を経過した日から2カ月以内、すなわちその事業年度開始後4カ月以内に納付することになっています。
納税額
納税額は、納付回数により計算方法が異なります。以下は国税分の計算方法になります。
・年1回の場合 前年国税分の6/12
・年3回の場合 前年国税分の3/12
・年11回の場合 前年国税分の1/12
上記金額に22/78を乗じた金額が地方税分の消費税となります。国税分と地方税分を合計した金額が、最終的な消費税の中間納付金額となります。
申告書を提出しなかった場合
消費税の中間申告は、所得税と違い申告書を提出する必要があります。ただし、申告書を申告期限までに提出しなかった場合は、上記方法で計算された納付金額の中間申告書が提出されたものとみなされます。よって、実務上においては、上記方法で計算された中間申告額を申告・納付期限までに納付すれば、中間申告書の提出は不要です。
任意で納付できる
前期の確定消費税額が48万円以下であり中間申告・納付義務のない事業者であっても、「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」を提出して、自主的に年1回中間申告・納税をすることができます。この届出書は、中間申告・納付をしたい事業年度の開始6カ月以内に提出する必要があります。任意で中間申告・納付をするメリットは、消費税の納税負担を分散できることです。一方デメリットとしては、事業活動に使えたはずの資金が先に出ていってしまうこと、申告・納税の事務負担が増えることが挙げられます。
法人税の中間納付
対象者
法人税の中間申告・納付が必要になるのは、前期の確定法人税が20万円を超える法人です。法人税について中間申告・納付が必要になった場合には、法人税を基に計算される法人都道府県民税と法人市町村税も、同様に中間申告・納付が必要です。
納税額
法人税の中間納付税額は、次の計算式で算出します。
前事業年度の確定法人税額÷前事業年度の月数×6=中間納付額
納付期限
法人税の納付期限は、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内とされています。3月決算法人であれば、納付期限は11月30日になります。
申告書を提出しなかった場合
法人税も中間申告書の提出義務があります。ただし、消費税と同様に申告書を申告期限までに提出しなかった場合は、上記方法で計算された納付金額の中間申告書が提出されたものとみなされます。よって、実務上においては、上記方法で計算された中間申告額を申告・納付期限までに納付すれば中間申告書の提出は不要です。
納付方法
予定納付・中間納付について納付方法がいくつかありますが、税目によってその納付方法が異なるケースもあります。それぞれの納付方法を確認して、都合の良い方法を選択して、納付期限に遅れないよう納付手続きを行いましょう。
納付書による納付
税務署から郵送される納付書を使用して、金融機関または自己を管轄する税務署の窓口で、直接現金で納付する方法です。全ての税目に対応しており、利用可能金額に制限はありません。事前準備は必要ありませんが、金融機関等の営業時間中に直接出向いて納付しなければならないので、時間の制約があり手間がかかります。また、金額によっては多額の現金を持参する必要もあり、安全面からもリスクがあります。
振替納税
預金口座から決まった期日に自動で口座引き落としされる納付方法です。所得税と消費税の予定納付・中間納付で利用できますが、法人税は利用できません。利用可能金額には制限がありません。利用にあたっては、事前にe-Taxにより依頼書を提出するか、税務署または口座振替を希望する預貯金口座の金融機関へ専用の依頼書を書面で提出しなければなりません。一度手続きをしてしまえば、翌期以降は自動で振替口座から引き落としされるので、事務手続きの負担がなくなります。
クレジットカードによる納付
国税のクレジットカード納付専用の「国税クレジットお支払サイト」で手続きを進め、クレジットカードで納付する方法です。一部条件により納付できない税目もありますが、全ての税目について利用可能です。利用可能金額は、1度の手続きにつき1,000万円未満、かつ、利用するクレジットカードの決済可能金額までです。クレジットカード使用によるポイントを貯めることはできますが、決済手数料がかかります。24時間利用することができるので、都合に合わせて納付手続ができます。
ダイレクト納付
e-Taxにより申告書等を提出した後、納税者自身の預貯金口座から、即時または指定した期日に口座振替により納付する方法です。利用する場合は、事前にe-Taxの利用開始手続きを行い、納税用確認番号等を登録、税務署または利用する金融機関に専用の届出書を書面(個人はオンライン提出可能)にて提出しておく必要があります。一部条件により納付できない税目もありますが、全ての税目について利用可能です。利用できる金融機関は国税庁のサイトで確認できますが、利用可能金額は金融機関によって異なり、利用時間もe-Taxの稼働時間、かつ金融機関のシステム稼働時間に限られるので確認が必要です。ダイレクト納付は、納税者に代わって税理士が手続することも可能です。
コンビニ納付
税務署から送付されたバーコード付納付書や、事前に作成したQRコードを使用してコンビニエンスストアで納付する方法です。QRコードは、国税庁のサイト「国税庁確定申告所等作成コーナー」や「コンビニ納付用QRコード作成専用画面」から作成することができます。一部条件により納付できない税目もありますが、全ての税目について利用です。ただし、利用可能金額は30万円以下に限ります。金融機関にわざわざ出向かなくても、買い物ついでのコンビニで納付することができます。
スマホアプリによる納付
国税のスマホアプリ納付専用の「国税スマートフォン決済専用サイト」で手続きを進め、Pay払いで納付する方法です。一部条件により納付できない税目もありますが、全ての税目について利用可能です。ただし、利用金額は30万円以下に限ります。事前手続き不要で、キャッシュレスでの納付が可能なので、スマートフォンを使って時間や場所を選ばず納付することができます。
インターネットバンキングでの納付
インターネットバンキングやペイジーの使えるATM等から納付する方法です。全ての税目で利用することができます。納付の際には、収納機関番号、納付番号、確認番号、納付区分が必要となります。これらの番号は、税務署から送付された納付書やe-Taxを利用して確認します。
納付が困難な場合
資金繰りが厳しいなどの理由で予定納付・中間納付が困難な場合には、納付額を減額する手続きがあります。
納付しなかった場合
予定納税・中間納付を期限までに納付しなかった場合には、延滞税が発生します。令和3年1月1日以降の延滞税率は次のとおりです。
納付期限の翌日から2カ月を経過する日まで
原則 年7.3%
令和3年1月1日から令和3年12月31日まで 年2.5%
令和4年1月1日から令和6年12月31日まで 年2.4%
納付期限の翌日から2カ月を経過した日以後
原則 年14.6%
令和3年1月1日から令和3年12月31日まで 年8.8%
令和4年1月1日から令和6年12月31日まで 年8.7%
納付しないままにしておくと延滞税は増える一方です。納付が困難な場合は、早めに減額できる手続を検討しましょう。
減額申請
所得税については、廃業や休業、失業をした場合や、業績不振などによりその年の所得が前年より明らかに少なくなると見込める場合などは、「所得税及び復興所得税の予定納税額の減額申請書」を提出して予定納税額の減額を申請することができます。提出期限は決められており、第1期分および第2期分の減額申請については、その年の7月1日から7月15日までの間、第2期分の減額申請については、その年の11月1日から11月15日までの間になります。提出時には、申告納税見積額の計算の基礎となる事実を記載した書類の添付が必要です。
仮決算による中間申告
消費税および法人税については、中間申告対象期間を一事業年度とみなして仮決算を行い申告することもできます。前事業年度に対して業績が悪化した場合には、仮決算による中間申告で納付金額を抑えることができます。ただし、計算した税額がマイナスになっても還付を受けることはできません。
仮決算による中間申告は通常の決算による申告と同様の書類提出が求められます。法人税の場合は、法人税申告書、財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)、勘定科目内訳明細書、株主資本等変動計算書または社員資本等変動計算書を作成しなければならず、資金面のメリットは受けつつも、事務手続きが煩雑になるデメリットがあります。
換価の猶予申請
換価の猶予とは、国税を一時に納付することにより事業の継続または生活の維持を困難にする恐れがある場合には、申請に基づいて差押え財産の換価(売却)が猶予される制度です。換価の猶予を受けるためには、納付すべき国税の納付期限から6カ月以内に「換価の猶予申請書」に「財産収支状況書」「担保提供書」を添付して提出する必要があります。換価の猶予が認められると、猶予期間中の延滞税が軽減され、原則1年の範囲内で猶予を受けた国税を分割納付することができます。
まとめ
予定納税・中間納付は、前期の納税額から事前に把握することができます。早期に納税計画をたてることで、余裕のある資金計画を立てましょう。