経営者にとって税理士は、信頼して相談できるビジネスパートナーです。しかし、何らかの不満を感じて顧問税理士の変更を考えることがあっても、本当に変更して良いものか、どのような手順で進めたら良いのか、判断に困っている経営者の方もいるかもしれません。
今回は、顧問税理士を変更するタイミングや変更する手順、注意点を説明していきます。
税理士を変更する理由
経営者が税理士を変更する理由は様々です。どんな理由で変更しているのか、代表的な例を見ていきましょう。
対応に不満がある
税理士には「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の独占業務を有しているため、経営者の多くが税理士と顧問契約を結びます。顧問契約により経営者は会計税務の専門家である税理士からのサポートを望みますが、打合せがほとんどなく、税務書類の作成を行うのみで適切なアドバイスを受けることができないなど、期待していたサービスが受けられず不満を募らせれば、経営者は税理士の変更を考えます。
コミュニケーションが取れない
会計処理などで不明点があり、税理士に相談したい時に連絡が取れなかったり、連絡が取れたとしても対応が遅い税理士もいます。また、顧問税理士と経営者は大切なビジネスパートナーですが、相性の悪さを感じている場合は、経営者にとっては大きなストレスとなり、税理士変更を考えるきっかけになってしまいます。
節税対策をしてくれない
経営者にとって節税対策は大きな課題であり、税務の専門家である税理士に節税対策を期待します。節税対策に積極的な税理士であれば、日頃のコミュニケーションや決算前検討会の実施により、今まで培った経験と知識を生かして節税対策を提案してくれます。一方で、節税対策に消極的な税理士は、納税額を計算し結果を伝えるだけになり、経営者が期待する節税対策には応えてくれません。期待に応えてもらえなければ、経営者は当然税理士の変更を考えることになります。
税務調査のサポートに不満を感じる
適正な経営・会計処理をしていても、経営者にとって税務調査は負担になりますが、その時に頼りにするのが顧問税理士です。税理士は経営者と共に、税務署への対応や交渉を担ってくれる存在ですが、いざ税務調査が始まると、経営者の味方になってくれず調査官よりの態度を取られてしまったら、経営者は税理士に対して不信感を抱いてしまいます。
また、専門家である税理士に会計税務を依頼しているにも関わらず、事前のアドバイスが的外れで頼りにならなかったり、調査官からの指摘事項が多すぎたり、税理士としての職務が果たされていない場合も税理士変更を考えるきっかけとなっています。
自社の状況の変化
企業の成長に応じて、経営者が税理士に求めるニーズも変化しますが、税理士がその企業の変化についていけないことがあります。新規事業の立ち上げに新たな資金が必要になったので、税理士にアドバイスを求めたが対応をしてくれなかった、会社の規模が大きくなったけれど現在の税理士では物足りなさを感じてしまうなど、経営者と税理士の間で期待するサービスと供給できるサービスに乖離が生じてしまう場合があります。税理士によって得意分野や経験値が異なるため、期待するサービスに対応できないのであれば、経営者は税理士の変更を考えます。
税理士事務所の状況の変化
経営者が税理士に対して不満がなくても、税理士事務所の体制の変更により、税理士の変更を考えることもあります。信頼していた担当者が変更になったり、税理士事務所の体制変更に伴い利用しづらくなった場合など、今まで通りのサービスを受けることができなくなれば、税理士を変更するきっかけとなります。
税理士を変更するメリット
次に、税理士を変更することで得られるメリットについて見ていきましょう。
不満が解消できる
税理士を変更する最大のメリットは、現在抱えている不満が解消できることです。経営者のニーズに合った税理士に変更することで、今まで抱えていた問題が解決に向かい、経営者はストレスがなくなり本来の業務に集中することができます。
新たなサービスを受けることができる
税理士によって得意としている分野は異なります。税理士を変更することで、今までの税理士とは違う視点から、経営者が今まで気付いていなかった問題点が浮き彫りにされ、新たなサービスやアドバイスを受けることができます。
税理士を変更するデメリット
税理士変更のメリットが把握できたところで、デメリットも確認していきましょう。
時間と労力の負担
税理士を変更するには、現在の税理士に契約解除を申し入れ、新たに顧問契約する税理士を探さなければなりません。いざ新しい税理士を探そうと思っても、最適な税理士がすぐに見つかるとは限らないので、想定外の時間と労力がかかってしまう可能性があります。また、契約解除に伴い、現在の税理士から会計資料を返却してもらう手間もかかります。
過去の会計情報の引継ぎが困難
今までの顧問税理士との契約が長いほど、過去の会計情報の詳細を引き継ぐことが難しくなります。最新のデータを引き継ぐことができれば、税務のプロである税理士は決算・申告まで完了することができますが、過去に突発的に発生した取引を調べる必要が生じたり、数年に一度の取引などは、経営者は再度内容を説明したり、資料を提示したりする手間が生じます。また、新規に契約した税理士はこれから会社の理解を含めていくので、最初のうちはスムーズに意思の疎通を行うことができず、一から関係性を築いていかなければなりません。
対応不可の業務がある可能性
税理士を変更したことにより新たなサービスを受けることができるメリットに対して、税理士報酬を下げて新たな顧問契約をした場合等は、会社で行うべき作業が増えたり、今まで受けていたサービスを受けることができなくなるリスクもあります。
税理士を変更するタイミング
税理士を変更するタイミングによっては、申告業務に支障をきたす場合があります。税理士を変更する最適なタイミングを把握して、効率的に手続きを進めましょう。
法人税申告書を提出した直後
通常、法人は事業年度終了日の翌日から2カ月以内に法人税の申告書を提出しなければなりません。事業年度を締め括る業務が法人税の申告書提出であり、提出直後は当年度と次年度の税務業務の境目にあたるため、税理士を変更するには最適なタイミングです。法人税申告書提出後に税理士を変更すれば、申告年度の業務は残っておらず、新しい税理士が次年度からの業務をスムーズに引き継ぐことができます。
税務調査終了後
税務調査があった場合は、税務調査が終了して結果を受け取った直後も税理士変更の最適なタイミングです。税務調査は申告書の内容に誤りがないかどうかの調査なので、書類作成に関与している税理士のサポートが最も効果的です。税務調査が進行中の場合は、終了後に税理士の変更を行いましょう。
決算3カ月前からの変更は避ける
決算は事業年度の正確な損益計算を行い、税額を算出する重要な業務であり、少なくとも決算の3カ月前から準備を始めています。決算期の税務処理や相談内容を把握している現在の税理士です。基本的に税理士同士の業務の引継ぎは行われないので、税理士を変更すると、新しい税理士が財務状況を正確に把握することは時間的に厳しく、決算書類の作成に問題が生じる恐れがあります。正確な確定申告を行うためにも、決算の3カ月前から申告書の提出が終了するまでは、税理士の変更はしないほうが良いでしょう。
税理士を変更する手順
税理士を変更する最適なタイミングを把握したら、変更する手順を見ていきましょう。
現在の税理士との契約内容の確認
現在の税理士との契約書から、契約期間や解約条件などの契約内容を確認しましょう。契約によっては、指定時期以外の解約ができない場合や違約金が発生する場合もあります。また、報酬の支払がいつまでになるかも確認しておくと良いでしょう。トラブルを回避するために契約内容を事前に確認しておくことが大切です。
新しい税理士を探しておく
次の税理士が見つからないまま現在の税理士と顧問契約を解約してしまうと、その間に税務署から問合せ等が来て対応に困ることになりかねません。このような事態を招くことがないよう、新しく顧問契約を結ぶ税理士を見つけておくことが大切です。
税理士の切り替え時期の決定
現在の税理士の契約終了日および新しい税理士の契約開始日を具体的に決めておきます。変更する最適なタイミングは前述のとおりですが、会社や顧問税理士の状況に応じて適切な時期を見極めて、切り替え日を決定しておきます。
現在の税理士との解約
現在の顧問税理士との契約内容に沿って、契約関係の解消を行いたい旨を伝えます。その際は話が順調に進むよう、丁寧な対応を心掛けましょう。トラブルになってしまうと、顧問税理士に預けている書類やデータの回収がスムーズに行われないリスクがあります。現在の顧問税理士に不満を持っているとしても、不快感を与えることなく円満に解約することができれば、解約までのサポートに協力してもらえる可能性は高まります。
書類やデータの返還
現在の税理士に預けている書類やデータを確実に回収して、新しい税理士に引き継ぐことが大切です。税理士に依頼している業務により返却してもらう書類やデータは異なりますが、代表的なものは以下のとおりです。
・決算書
・総勘定元帳
・試算表
・仕訳帳
・固定資産台帳
・法定調書
・税務署や地方公共団体への届出書
・定款、登記簿謄本
・請求書や領収書の証憑類
・給与明細・源泉徴収簿など給与および年末調整関連書類
・税務相談に関する資料やデータ全般
・電子申告のための利用者識別番号と利用者IDおよびパスワード
新しい税理士に現状を把握してもらうためや税務調査に対応するため、少なくとも過去3期分が必要です。直近分だけではなく、過年度分も返却してもらいましょう。
新しい税理士へ切り替え
顧問税理士から回収した資料を新しい税理士に渡して、新たな顧問契約を開始します。顧問税理士がいない空白の時間を作ることなく、スムーズに税理士変更を実行しましょう。
税理士を変更する際の注意点
税理士の変更手続きを進めるうえでの注意点を確認しておくことで、手続をスムーズに進めることができます。
計画的に進める
税理士の変更は思いつきですぐ実行できることではありません。税理士変更を決めた時点で、現在の会社状況に最適な新しい税理士を探し始め、計画的に進めていくことが大切です。現在の税理士との契約内容や決算スケジュール、今後の会社の方向性などを考慮して、綿密な計画を立てて進めていきましょう。
顧問税理士に預けた書類は回収する
今までの税理士に預けていた書類を回収することは、新しい税理士への業務の引継ぎと現状の理解、税務調査対応のために必要であることはもちろんですが、情報漏洩のリスクを最小限にするためにも必須です。税理士が管理している書類の多くは会社の機密情報を含んでいるので、確実に回収しましょう。
最終業務日と開始業務日を確認する
税理士の不在期間を作ってしまうと業務に支障が出る可能性があります。不在期間中に税務上の問題が生じた場合に解決することができなかったり、税務署から問い合わせに適切に対応できずに不利な結果を招くリスクもあります。対して新旧税理士の契約期間が重なってしまうと、顧問報酬が2か所分になり余分な費用もかかってしまいます。
新しい税理士を探す場合の注意点
新しい税理士を探す場合の注意点を確認することで、会社にとって効果的な税理士を探して顧問契約を結ぶことができます。
税理士への要望を明確にする
税理士を変更するということは、現在の税理士に満足していないということです。そこで、新しい税理士への要望を明確にしておくことが大事です。要望をできる限り詳細に税理士に提示することで、業務範囲の確認もより詳しく行うことができ、経営者が望むサービスを受けることができます。
税理士の特徴や得意分野を把握する
税理士によって得意とする業務も経験値もそれぞれ異なります。税理士のホームページや面談時に得意とする業務や実績、事務所の方針や体制、対応不可な業務を確認して、経営者が依頼したい業務に秀でた税理士と顧問契約を結びましょう。
実際に会ってみる
新しい税理士を決めるときは、面談で直接会う機会を設けた方が良いでしょう。税理士は会社の内情を打ち明け相談する重要なビジネスパートナーです。ホームページ等から得られる情報だけでなく、実際に会って話すことで、相性の良さや人柄、コミュニケーションの取りやすさなどを確認することが大切です。
まとめ
税理士に対して抱く不満はそれぞれです。税理士を変更するには、手間も時間もかかりますが、不満やストレスが大きくなる前に実行に移すことが会社にとっては有効です。税理士の変更を決めたら、時間的なゆとりを持って、計画的に進めていきましょう。